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俺が求める青春の形とは、一体何なのだろうか。  作者: ダンテ
第一章 各々の日常の高校生活編
3/15

第3話 心意の性

勇作視点。第一話とリンクしております。

 _________

「おーい!席に就け~! HR始めるぞ~!」


 斎藤先生がそう言いながら教室に入ってきて教壇に立ってから

 ずっと憂鬱な気分になっていた俺は、30秒ほど経ってから教室に響き渡った叫び声で、

 その憂鬱な気分は払拭された。


「あっぶね~~!ギリギリセーフっしょ!」


 そう言って教室の後ろのドアが勢いよく開いたのと同時に、男子生徒が飛び込んできた。


「何を言ってるんだ、宮川。今は9時00分30秒だぞ。遅刻は遅刻だ。」

「そりゃね~ぜ!先生~!」

「とりあえず座れ。」

「へーい…。」


 このいかにもチャラそうな見た目をしているコイツの名は、宮川浩。

 かなり明るめの茶髪をしていて、見た目通りのチャラ男だ。

 まさに今日のように遅刻常習犯で、先生に怒られているのは日常茶飯事だ。

 しかしコミュニケーション能力に関しては非常に長けていて、

 謎に広い交友関係と色々なコネを持っているので、一概に侮れない奴なのだ。


「出席35名、遅刻1名、合計36名。全員いるな。」

「先生よ~!だから俺は遅刻じゃね~って!」

「黙れ。遅刻扱いされたくなかったら、もっと余裕もって来るんだな。」


 宮川の悲痛な訴えは斎藤先生によって、容赦なく返り討ちにあってしまった。

 この茶番を見させられる俺たちの身にもなってくれよ、宮川。

 もう今年だけでマジで50回くらい見たぞ。

 てか夏休み明け初日から遅刻ってどんな神経してんだよ。


「では、切り替えて今日の連絡事項の説明を行う。」


 そういって斎藤先生はクラスの皆に簡単な説明をし始めた。


「今日の1時間目はLHRです。そこで今年の文化祭の詳細について話そうと思います。」


『お~~~』


 文化祭という単語に反応したクラスの一部の奴らが、歓声を上げた。

 確かに文化祭はこの学校の一大イベントで、高校生ならば文化祭に

 少なからず多からず様々な期待を抱くものだろうからな。


「そこで今年の文化祭の詳細日程の発表と、文化祭実行委員を決めようと考えています。」

「文化祭実行委員は各クラス4人を選出するものです。」

「10分後の9時15分からLHRを開始します。それまでは各自、休憩等しておいてください。」

「以上だ。」


 そう言うと先生は教室からそそくさと出て行った。

 そして教室内はしきりに文化祭の話題であちこちで盛り上がり始めた。


「おい、聞いたか高野。文化祭だってよ。」

「ああ、もうそんな時期になったんだな。」


 俺の前の席の飯田が嬉しそうな表情で、俺の方を振り返り話し始めた。

 毎年新淵高校の文化祭は12月の中旬から下旬に行われるもので、

 寒さが本格化してくる時期に行われるかなり珍しいタイプだろう。

 そしてこの学校は文化祭は教師も含めて、全校生徒一丸となり力を注いでいる事で有名だ。

 文化祭実行委員会を生徒主体で立ち上げて、文化祭の運営はすべてその実行委員会が行い、

 各クラスが出し物を出して学校全体がテーマパークのようになる。

 また生徒主体の団体や教師の団体等がバンドやダンス等を披露したりする等、

 生徒と教師の垣根を越えて盛り上がれる祭典なのだ。


「高野、お前実行委員やらないか?」

「なんでだよ。」

「馬鹿か、お前は!文化祭といえば恰好の出会いの場だろ!実行委員になれば先輩、後輩色々いるぜ!」

「出会い厨みたいな事言ってんじゃねぇよ…。」

「とーにーかーく!やるんだよ、実行委員!俺もやるからさ!一緒にやろうぜ!」


 どうも今日の飯田のテンションがおかしいな。

 元々こんな感じだったような気もしなくはないが、

 夏休み前の飯田はこんなにやかましかった記憶はない。

 一体夏休み中にコイツに何があったのだろうか。


「お前…。さっきも言ったけど今日テンションおかしくねぇか?何かあったのかよ?」

「ふっふっふっ…。分かるか、高野。さすがだな…。」


 よく分からないがコイツは何かを悟ったかのように、目を瞑り右手を顔に当てて、

 いわゆる【厨二病ポーズ】をして小声で呟いた。

 ぶっちゃけ信じられないくらい似合ってないが、

 直接言うのはかわいそうな気がしたので止めてやった。別に言っても良かったけど。


「言わずもがな夏休み中のことだ!俺の彼女である那奈と誕生日デートをしたのさ!」

「あぁ…。なるほど…。」

「那奈の誕生日である8月13日に、二人で渋谷に行ったんだ!無茶苦茶喜んでくれて、そこから俺のテンションは爆上がり状態ってわけだ!」


 そういえばコイツにも彼女いたんだったな…。

 けれどコイツは彼女いるくせに出会い厨な所が意味が分からな過ぎて、

 たまにコイツに彼女がいることを忘れてしまうのだ。

 どう考えても彼女が居る奴の発言じゃないのが多すぎるんだよなぁ…。


「8月13日って…。今日9月1日だぞ。3週間近く経ってるじゃねぇかよ…。」

「那奈が喜んでくれたんだぞ!3週間でも2日でも喜びは変わらないだろ!」

「あ、そう…。」


 ちなみにコイツの彼女の名前は吉岡那奈。

 俺から見れば高1からのクラスメイトで、かなり口が上手くポーカーフェイスが上手い

 といった感じで、何を考えてるんだかよく分からない印象がある。

 ただ飯田の前では、とてつもなく従順な女の子でデレデレしている所しか見たことがないので、

 俺はいつだか吉岡さんを見て、『女って怖えぇ…。』って思わされた記憶が強くある。

 それに比べれば同じく高1からのクラスメートの高橋さんの方がよほど可愛いし、

 気さくに話してくれるから、俺は高橋さんの方が好みだ。

 まぁ高橋さんがどう思ってるかは、分からないけどな。


「どうしたんだ高野。いきなりボーっとして。」

「悪い、考え事してた。」

「……。もしかして高橋さんの事でも考えてたのか?」

「バッ!何言ってんだよ!違うに決まってるだろ!」

「高野、お前どんだけ分かりやすいんだよ!」


 飯田に図星を突かれると何だか無性に腹が立ってきた。

 てか俺も何であんなに高橋さんの名前が出ただけであんなに動揺したんだ……?

 今考えると自分でもよく分からない。何故だ?


「高野。さては自分の思考回路がよく分からないって感じか。」

「あぁ…。」

「ーーお前にもその感情の正体が分かる時がきっとくるさ。」


 飯田はそう言って俺の肩をぽんぽんと軽く叩いてきた。

 なんだかコイツにそういうことされると物凄く変な感覚になるな。


「飯田、お前がそういうことするの、あんまり似合ってないぞ。」

「ハハッ!冷やかすんじゃねぇって!そういう時はスルーするもんだろ!」

「知るか。」

「高野…。お前なぁ…。」


 俺が軽く受け流してやると飯田は軽く不機嫌そうな感じになった。

 まぁコイツが不機嫌になろうが、別に俺には関係ないしどうでもいいけどな。

 そして騒がしい教室の中を見渡していると、俺は不意に誰かに、

 まるで睨みつけられているかのような、鋭い視線を感じた。

 

「…ん?」


 俺は何秒かして、その視線が教室の後ろの扉の方からの気配であることに気づいた。

 そして俺はすぐさま教室の後ろの扉の方に視線をやったが、既にどこかに行ってしまったのか、

 そこには誰もいなかった。


「…気のせいか。」


 特に気にすることでもないと思った俺は、再び教室全体を見渡してみた。するといつの間にか俺の視線は廊下側の席の高橋さんの方向へ向いていた。


「それでさ~、その後ホンっとに大変でさ~。」

「マジで?大丈夫だったの?」

「理紗ってば大変な目にあったんだね~。」


 高橋さんは加藤と吉岡さんの3人で楽しく(?)夏休み中の思い出を語り合っているようだった。

 とても楽しそうに笑う高橋さんの顔の美しさと、

 少しだけ残るあどけなさを感じられる横顔にとてもドキッとしてしまった。

 俺に見せてくれる笑顔とはまた違った感じの笑顔に、

 俺は何だか心がフワッとしたというか、穏やかな気持ちになれたような気がする。

 この気持ちを言葉に表すことは俺には難しかった。


「高橋さんって可愛いよな。」

「そうだな。」

「でもさ~。その隣にいる那奈だって負けてないぜ!那奈が甘えてきた時のあのトロンとした表情!!たまらなく可愛いんだぜ!」

「ヘー、スゴイネ。」

「そんでもって、俺にだけ向けてくれる特別な表情ってやつがあるんだよ!それに関して言えば夏休み中の誕生日デートの時だって……---。」


 出たよ、また始まりやがった。

 コイツ吉岡さんの事になるとマジで3時間でも話し続けやがるからな。

 こんなの聞き続けてたら、頭おかしくなるわ。どんだけ吉岡さんの事好きなんだよ。

 こういう時はテキトーに聞き流して、聞いてる風にしとけばいいんだ。

 コイツのそう言う所、マジでめんどくさいと思う。


「---途中でカフェに寄った時なんて凄かったんだぜ!あの時のしぐさと言ったらそりゃもう……!---……。」

「だぁ~~!!うるせぇよ!自慢話ならよそでやってくれよ!」


 俺がそう言うと、飯田は『ごめんごめん、ついww』と言ってチャラい感じで軽く会釈してきた。

 ヤベェ、無茶苦茶腹立ってきたわ…。


「悪かったよ、高野~。残りの話は前田にしてくるから!それで勘弁してくれよ!」

「勝手にしてくれ…。」

「あぁ!勝手にするよ!」


 そう言って飯田は教室の真ん中で座っていた前田の所に、軽快なステップで飛んで行った。

 あぁ…。前田…。ご愁傷様…。遠目から見ても分かるが、

 飯田の自慢話を聞かされている前田は、明らかに嫌がっているのがすぐに分かった。

 …ごめんな。…前田。俺は悪くないんだよ。


「勇作君!…今、ちょっといいかな?」

「あぁ、高橋さんか…。どうしたの?」


 またもやいきなり話しかけられたもんだから、結構びっくりしてしまった。

 ついさっきまで女子3人で楽しく話してたじゃないか。

 不意打ちって中々メンタル的にくるんだな。よく覚えておくわ…。


「彩華だけじゃなくて私もいるんですけど~。私の事忘れないでよね~。」

「加藤もいたのか。悪いな、いきなりでビックリしたんだよ。」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてよ~。」


 高橋さんが喋るだけで、俺の幸福度が何だか知らないけど

 上がっているような気がしなくもない。 

 なんかさっきからずっとこんな感覚なんだよな。今日の俺、変だわ。


「どうしたんだ、俺に何か用があるんじゃないのか。」

「そう言えばそうだったね。」

「私さ~、文化祭実行委員やりたいと思ってるんだよね。」


 高橋さんが文化祭実行委員に興味があるだなんて意外だ。

 この子は文化祭を運営する側じゃなくて、

 楽しく友達と文化祭に参加する方が好きそうだと思ってた。


「クラスから4人を選ぶんだったよね。だから勇作君もどうかなって思ったんだけど。」

「ちなみに私もやるからね、高野。折角なんだからアンタも実行委員やりなさいよ。」


 まさかの高橋さんと加藤から文化祭実行委員に誘われることになるとは。

 さっきは飯田からも実行委員会に誘われたし…。

 これは一体どういう風の吹き回しだ?


「あぁ。分かったよ。さっき飯田にも言われたところだし、やるよ。」

「飯田にも言われたの?アイツってば彼女いるくせに、ホントに貪欲だよね。」

「どういう事だ?」

「え?どうせ飯田の事だし、実行委員に入れば1年生の後輩とか、3年生の先輩とかの出会いの場だとか言う不純な事考えてんじゃないかな~って思ったんだけど。」


 大正解です、加藤。

 同じような事をたった5分前、飯田の口から直接聞いたばかりです。

 飯田の考えは加藤にも筒抜けだったのか。

 飯田が知ったらどう思うんだろうな。アイツだったら発狂とかしそうだわ。


「よく分かったな、加藤。ほぼ同じ事を本人から聞いたばっかりだ。」

「やっぱりね~。那奈という良くできた彼女がいるくせに、よくそんな事を考えるもんだよ。あれはもはや浮気なんじゃない?」

「まぁ直接手は出してないし、ギリギリセーフなんじゃね?それに飯田の奴、吉岡さんの事は度を越して大好きみたいだしな。」

「確かに。飯田ったら那奈の事は大好きだもんね。でも裏で那奈にあんな事を言われてるとは知らずに…。あの時は少しだけ飯田が可哀想だと思っちゃったよ。」

「…え?」


 何?飯田の奴、吉岡さんにまで裏で悪口言われてんの?

 飯田が聞いたら多分ショックで失神するんじゃないかな。

 女ってマジ怖えわ。

 何? 女子は人の悪口を言わないと生きていけないんでしょうか。

 マジで怖いです。はい。


「加藤にまで同情されるなんて。さぞえげつない事を裏で言われてるんだろうな。」

「マジでそうだよ。てか高野、私にも同情されるなんて、、じゃないよ。私を無慈悲な女みたいに言わないでよね。」

「なんだ、違うのか?」

「そんな事言っていいのか~?高野も悪口言われたいの~?」


 怖えよ、怖いって。

 何で顔は笑ってるのにそんなに冷たい声が出るんだよ。


「滅相もないです。」

「うむ、分かればいいんだよ。」

「二人とも飯田君と那奈ちゃんの話はその辺にしてさ~。理紗も言い過ぎだよ。」

「そうかな?こんなのまだまだ序の口だって~。」

「ダメだよ、理紗。私達は勇作君に文化祭実行委員を一緒にやろうって話をしにきただけでしょ?」


 高橋さんがそう言うのを聞いた加藤は急にニヤニヤして、

 高橋さんに耳打ちして何かを伝え始めた。

 一体何を話しているんですか。自分、とっても気になります!


「ひゃぁ!?り、理紗!そ、そ、そんなわけないじゃん!!」

「そんなに動揺することないじゃん。彩華ってばホントに面白いね~。」

「も、もう……///」


 今俺の目の前で顔を真っ赤にして恥ずかしがっている高橋さんが、

 反則級に可愛い過ぎる件について。

 てか加藤、ホントに何を言ったんだよ…。

 普通二言三言で人がこんなに慌てふためくことなんて中々ないぞ…。


「ま、そういうわけで私達そろそろ席に戻るから~。高野、アンタ文化祭実行委員やりなさいよ~。やらなかったらアンタの潰しちゃうからね。何をとは言わないけど。」


 そう言って加藤は赤面している高橋さんを連れて、廊下側に戻っていった。

 てか何を潰すんだよ。

 平気でそんな事を言えてしまう加藤には、恐怖を超えてもはや関心してしまうレベルだ。


「9時15分になったしLHR始めるぞ~。席に就け~。」


 席に戻った加藤と高橋さんがちょうど座った頃、斎藤先生が教室に入ってきた。

 もう10分経ったのか。人と会話してると時間が過ぎるのが早いな。

 普通に休憩しようと思ってたのに、全く気が休まらなかったんだよなぁ…。

 そしてなんだかんだ夏休み初日のLHRが始まっていったのである…。

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