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俺が求める青春の形とは、一体何なのだろうか。  作者: ダンテ
第3章 文化祭編
15/15

第15話 Wonderful Act 

勇作視点。第13話と第14話からの続きになります。

よろしくお願いします。 

____________

___________

 17時50分、新淵高校本棟5階、屋上入口前


「ハァハァ…。…ここだな。」


 メインアリーナからここまで無心にダッシュしてきた俺は

 ゆっくり息を整えながら顔を上げる。


「永田…。お前のこんなふざけた劇に巻き込まれる俺の身にもなれよ…。」


「全く仕方がない野郎だ…。」


 俺は覚悟を決めて屋上入口のドアに手をかけて、

 いつもより重く感じるドアを自分側に引いた…。

 そして俺が屋上に足を踏み入れようとした時

 俺の目に真っ先に飛び込んできたのはあり得ない光景だった…。


___________

 17時52分、本棟5階、屋上


「……!」


 屋上に入ってすぐに、そこにはドアの裏側で横を向いて寝ているかのような姿勢で

 床に倒れて気絶している女子が目に入ってきた…。

 そしてそれを見て俺はすぐに言葉が出てこなかった…。

 なぜなら俺の目の前で倒れていた人は…。


「…まさか。貴方は副委員長か…?」


「……ッ!」


「…何だよ…。これ…。」


 気絶している副委員長を起こそうと声をかけるために俺はその場でしゃがみ

 副委員長の肩に優しく触れた途端に副委員長の体はいとも簡単に仰向けになった。

 そしてその俺の目に入ってきたのは

 今まで見たこともないような見た目をしていたもので

 俺は直視していられずに目を逸らしてしまった…。


「ヤバすぎないか…。コレはあまりにも……。」


 仰向けになった副委員長の顔は所々腫れあがっていて、

 右頬が紫色に変色していておでこからは血が垂れてきているのが目に入ってきたのだ…。

 普通に生きていたら見ることがない状況に俺は遭遇してしまったのである…。




「…その程度でわざわざ驚かないでくださいよ…。子供じゃあるまいし…。」


 あまりの事態に呆然としていた俺の耳には

 呆れるような調子の声が何の前振りもなくいきなり飛んできた。

 俺はその声の方向に顔だけを向けた。


「クックックッ…。待ちわびたぞ、高野勇作…。」


「あまりにも来ないもんだから本当に逃げたんじゃないかと思ってたところでしたよ…。」


 そこにいたのは両手をポケットに突っ込みながら

 鋭い目つきをしながら不気味な声を放っている厳つい男子、

 それこそまさに俺をここに呼び出した永田隼人その人だった。 


「黙れ…!一体何なんだ、この状況は…!」


「何って…。決まってますよ…。これは復讐です…。」


「は?意味が分からない…!」


「俺が聞いてるのは何で副委員長がこんな状態になってるかってことだよ…!」


 15メートルほど離れている屋上の端の方にいた永田は

 それを聞いて左手はポケットに突っこんだまま、右手を頭の後ろまで持っていき

 冷酷な笑みを浮かべ俺から視線を外しながら

 めんどくさそうに話を続けてきた。


「あ~そっちの事ですか…。そんなの決まってます。…もちろん俺がやったんですよ。」


「コイツ、全然俺の言う事聞かないんです…。

 だから俺が少々教育して差し上げたんですよ。」


「…お前…!」


「…安心してください。ちょっと胸倉掴んで軽く4,5発顔面を殴っただけです。

 殺してはいないですよ。」


「何が安心しろだよ…。ふざけてるのか…!」 


 俺はコイツの言っている事のすべてが理解できなかった。

 顔面を何回も殴るなんて正気の人間がする事ではない。

 しかも相手は年上の女性だぞ。

 そんでもって全く反省の色も全くなく

 むしろ楽しそうに話すコイツのすべてが俺には理解できなかった。


「ハハハッ…。まさか貴方にはこの俺がふざけているように見えるんですか…?

 いちいち笑わせようとしないでくださいよ…。」


「…そしてコイツはこの壮大な復讐劇の前座ですらないです…。」


「この俺の計画の本質はただ一つだけ…。」


 そう言いながら永田は一歩一歩地面を踏みしめるようにしながら

 こちらに少しずつ向かってきた。

 その間も決して俺から視線を外さず

 絶えず睨み続けてきているのが見えた。


「それは高野勇作の心を根本から壊し、再起不能なまでにぶっ壊す事…。」


「その目的さえ果たせれば、途中がどんな過程があろうがそれは問題ですらないんです…。」


「俺は目的の為なら手段を選ばない男だ。…それは貴方もよく知っているでしょう…?」


 永田は俺の5メートル手前まで来るとその場で止まり

 首を少し傾けながら今までよりも更に鋭い目つきで

 ガンを飛ばしてきた。

 それはまるで俺を試しているようにも思えた。


「黙れ…。お前のそのくだらない正義を言葉で正当化しようとするな…。」 


 そしてしゃがんでいた俺はその場で立ち上がりまっすぐに永田に視線をぶつける。

 俺もせめて気持ちだけでは優位を取ろうと負けじとガンを飛ばした。


「くだらない御託を並べてないで

 まずはお前の後ろで怯えながら震えている彩華を解放しろよ…!!」


 俺は屋上に入ってきてすぐ気づいてはいたけれども

 わざと指摘していなかった奥の方で小さくなって震えていた彩華の存在を指摘した。

 ドアのすぐそばで倒れていた副委員長ももちろん心配だが

 俺にとっては何より彩華が一番心配だ。

 つい感情的になって自分の声が次第に大きくなっていくのが分かった。


「クックックッ…!中々面白いですね、貴方…!」


 こんな時まで茶化すような返しをしてくる永田に俺はついムカついてしまった。

 こんな事をしておいてタダで済むと思うなよ…。

 絶対に後悔させてやるからな…。


「…!!まず何でそんなに彩華は傷だらけなんだよ!!」


「俺はお前のあのくだらない命令に従っただろ!!

 なのに…。なのに何で彩華も副委員長もあんなに血だらけでボロボロなんだよ!!」


 それを聞いた永田は“やれやれ”というような素ぶりを見せ

 左手の手のひらを真上に向けてその手を俺の方に差し出してきた。

 呆れきっている様子が俺にまで伝わってきた…。


「はぁ…。とりあえずそのすぐ大声上げるの止めたらどうです…。小学生以下ですよ…。」


「…テキトーに誤魔化してんじゃねぇぞ…。真面目に答えろ…。」


 俺は永田に言われて声のトーンを落として冷静を装った。

 悔しいが永田の言う通り、さっきの俺はあまりに感情的になって冷静さを欠いていた。

 ダメだ、俺。こんな奴の言葉にいちいち乗せられるな…。

 

 俺は一拍置いてから再び顔を上げて永田と対峙した。


「せめてもの強がりってやつですか…。弱者なりの抵抗ねぇ…。

 あまりにも醜く、そして心底くだらない…。」


「黙れ…。」


「…まぁ教えてやってもいいか…。」


「な~に、簡単な話です。俺が副委員長と高橋彩華に危害を加えた理由はただ一つ…。」


「貴方はご覧になったはずです…。俺からの予告状を…。」


 予告状か…。メインアリーナまで加藤が慌てて持ってきたやつだよな。

 確か巡回中に4階の階段の手前に落ちてるのを見つけたみたいな事を言ってたな。

 それと彩華に攻撃しているのとで何の関係があるんだよ…?


「…予告状だと…?脅迫状の間違いじゃないのか?」


「フンッ…。あの内容をよく思い出してみてください…。そこに答えがあります…。」


「は…?」


 コイツのいう事に従うのは少々気が進まないが

 まず考えないことには事態が進まない事を察して

 俺は15分前に流し見したさっきの予告状を思い出し始めた。


【ーー


 高橋彩華の身柄はこの俺、永田隼人が預かった。


 高橋彩華を救いたくば高野勇作を1人だけで本棟屋上に18時00分00秒までに来させろ。


 そうすれば高橋彩華は安全な状態で解放してやる。


 もしも18時00分00秒までに高野勇作が来ない、


 もしくは高野勇作以外の人間が屋上に立ち入ってきた場合、


 高野勇作は高橋彩華に危害を加わる事を容認したものとみなし、


 身柄の安全は保障しない。これに従うも従わないも高野勇作の自由だ。


 ーー】


__________

 18時05分、本棟5階、屋上


「…俺はあの予告状にこう記載した…。

 ー高野勇作以外の人間が屋上に立ち入ってきた場合、

 高野勇作は高橋彩華に危害を加わる事を容認したものとみなし、

 身柄の安全は保障しないー

 …ってな。」


「…お前!…まさか…。」


「そうです。…この馬鹿な副委員長が屋上に侵入して来られたんですよ…。」


「全く何も知らずにたまたま屋上に来てしまったとかならまだ許して差し上げたかもしれないが…。

 コイツに関しては事前に警告しておいた上で侵入してるんだよなぁ…。」


「…だからってやっていい事とダメな事があるだろうが…!!」


 そうか…。メインアリーナで俺から副委員長にトランシーバで連絡を入れた時に

 聞こえてきたあの不自然な会話はそういう事だったのか…。

 でも…。…だからって気絶するまで暴力を振るう事ないじゃないか…!!


「へぇ…?ダメな事ねぇ…。」


「俺は約束を破っておいてそれはねぇんじゃないかなって思うんだが…?」


「黙れよ…。暴力自体がおかしいって言ってるんだ…!!」


 さっきからずっと思ってはいたがコイツはやっぱりどうかしている…。

 ここまで他人をボコボコにしておいて平然と笑っている事…。

 そして俺とのこの状況下の会話ですら全く感情が荒ぶらないコイツの態度…。

 コイツ…。…ガチのサイコパスじゃねぇか…。


「まぁいい…。貴方といくら話しても理解しあえる日なんて来ない…。」


「これこそまさに“時間の無駄”、、ってやつです…。」


「…お前、話をあまり逸らすな…。彩華を心身ともにこんなに傷つけたお前を…。

 俺は絶対に許さない…!!」 


「話を逸らしているのは貴方の方でしょう…?

 少しは物事を客観視できるようになった方がよろしいかと思いますが…?」


「…というか許さないって言ったってどうするんです…。

 貴方は口論でも武力のどちらでも俺には勝てないですよね…?」


 確かにそれはそうかもしれない。

 だからといって俺にはここから逃げる選択肢はない。

 立ち向かう以外に選択肢が無いんだよ…。

 今度こそ彩華から見て見ぬふりは許されないからな…。

 何より俺が一番後悔するに決まっている…。


「ここでお前を倒して彩華を取り戻す…。

 ここで見て見ぬふりをするのは一番許されざる行為だからな。」 


 そして俺は屋上の隅で体育座りで小さく縮こまっている彩華を見る。

 恐怖で視界が狭くなっているのか俺には気づいていないようだ…。

 彩華…。今度こそ俺はお前のヒーローになって見せるからな…。


「…倒す…? …貴方が…? …この俺を…?」


「ハッハッハッ…!…クックックッ………!!」


「アハッハッハッハッ………!!!!」


 すると永田はいきなり下を向いて肩を震わせて小刻みに笑い始めたと思うと

 顔を上に向けて口を大きく開けて大声で笑い始めた…。

 コイツまぁまぁツボが浅いんだな。

 まぁそんなことはどうでもいいが…。 


「あぁ…。クックックッ…。今日は本当に誰かによく笑わせられる日だな…。」


「何がおかしいんだよ…。俺がお前を倒せないとでも思っているのか…?」


「はぁ…?ナメてんじゃねぇぞ…?」 


 永田は途端に顔がヘラヘラしていたモノから一気に険しいモノに変わった。

 

「…あえてもう一度言うぞ。

 俺はお前から彩華を取り戻す。それだけだ…!」 


「フンッ…。貴方のくだらないヒーローごっこなんて興味ないです…。」


「俺は貴方を跡形もなく潰せれさえすればそれで構わないんですよ…。」


「それに戦う気の無い相手を倒したところで少々面白みに欠ける…。

 相手もやる気の方が俺からしても都合がいい…。」


 するとその場で軽く何回か跳ねながら手を軽く振った後

 両手をグーにして顔の前まで持っていき

 いかにもボクシングの戦闘態勢といった姿勢を取った。


「いいですか…。…俺は今から貴方に復讐する…。」


「さぁ…。」


 永田は一言呟いた後、何かを考えるようにしてその場で真下をみてうつ向いた。

 大きく深呼吸して息を整えているようにも見えた。

 何だよ…。俺まで緊張してくるじゃねぇか…。


「…ッ!!」


 俺はこのあまりにも切羽詰まった状況に息を呑み

 仕方がなく覚悟を決める。

 本当にコイツと喧嘩しあうのか…。

 誰かを殴ったことなんてないぞ…。

 俺の両手が恐怖で震えているのが分かる…。 


 そして10秒ほどして永田の顔が上がる…。

 永田のその目は今までに見た事が無い程、狂気に満ち溢れていて

 もの凄い圧倒感を前に俺は背筋に寒気が走った…。


『ショータイムだ…!!高野勇作!!!』


_________

 18時20分、本棟5階、屋上


「…!」


 そう言うなり永田は俺に向かって勢いよく走ってきた。

 大した距離もないので俺と永田の間の距離はぐんぐんと縮まっていく。

 

 そして永田の右手が俺にとってはまるで弾丸のようなスピードで

 俺の顔に目掛けて飛んできているのが分かった。 

 あまりに急な数秒の出来事で頭が回らない状況だが

 俺はとっさに左手を出しとりあえず受け止めようと試みた。


 バチンッッ…!!


 しかし永田の左手によって俺は手首をえげつないパワーで掴まれ

 その左手で永田の右ストレートを防ぐことは出来なかった。

 恐怖で咄嗟に顔を後ろに引いてしまったが

 その抵抗もまるで意味をなさずグーパンチをもろに左頬で受けてしまった…。


「ガハッ…!!」


 激しいグーパンチを食らってしまった俺はよろめきながら

 ドアの左側のスペースに5メートルくらいは吹き飛ばされたような感覚だった。

 その視界がぼんやりとしている中で永田が更に接近しているのだけは分かった。

  

 そして俺があまりの痛みで倒れそうになり

 何とか立っていようと踏ん張り、俺が前かがみになった所に

 永田は右腕ごと俺の腹に食い込ませるようにして

 全力で斜め後ろに振りぬこうとしているのが見えた。

 俺はそれを防げるほど頭が回っていなかったのもあり

 またしてもそれをもろに食らってしまった。


「グッヘヘェェ………!!!!」 


 俺は体が宙に浮いたかと思うとその後

 全身に今までに感じたことのないレベルの痛みが走った。

 内臓が口から飛び出してきそうなほどお腹と肺の辺りが痛み

 激しく地面に打ち付けられてたせいか背中と後頭部がジンジンとしていて

 俺は何も考えられないほど頭がクラクラとしていた。


「おい…!何だよ。まさかその程度だなんて言わないよなぁ?」


「俺はこの瞬間を3年待ち焦がれていたんだ…。

 お前はこの程度で根を上げるほど雑魚なのか?」


「俺をどん底に突き落としたのがこんな雑魚だなんて納得いかねぇな…。」


 息が苦しい中俺は何とか顔だけを上げて前方を確認すると

 永田は倒れている俺を見下しながらゆっくりとこちらに歩いていた…。

 そして永田は俺のすぐ手前で止まり、立ったまま俺を睨みつけていた。


「おい…。立てよ、高野勇作…!」


「俺を少しくらい楽しませてくれよ…。

 そうでなきゃ俺の3年間が報われねぇ…。」


「ウッ…。やっ……。」 


 俺は“止めろ”と言いたかったのだが

 上手く息が吸えずそれを言葉に出して喋る事は叶わなかった。


「声すら出ないか…。全く、情けないことこの上ない…。」


 体が動かずその場で為すすべもなく横たわったいる俺を

 永田は俺の制服のシャツを両手で乱暴に掴み

 その場で俺は宙に浮くまで持ち上げられた。

 

 胸倉を掴まれているせいで苦しさのあまり

 永田の両手を俺は両手で掴み、離させようとするが

 俺の抵抗はコイツには全く通用していないようだった。 

 クソッ…!何てパワーなんだ…!


「フンッ…。本当ならここで殺してやりたいところなんだが…。」


「あくまで復讐する事が目的だからな。

 …俺の気が済むまでお前にはとことん苦しんでもらう…!」


「クッ……!!」


 俺の苦しさ具合は先ほどよりも増していて

 やはり未だに声を出して永田に抵抗することが出来なかった。

 シャツで首を引っ張られているせいで余計に苦しく

 頭に血が上っていかないせいで視界まで薄くなってきていた。


「はぁ…。…このまま俺が一方的に攻撃し続けても俺の目的は果たされないな…。」


「多少は戦えると思ってのこの計画だったんだが、正直失望したわ…。」 


 ため息交じりに永田がそう呟いた直後

 いきなり俺のシャツを掴んでいた両手を離したせいで

 俺は肩から地面に叩きつけられて再び上半身を中心に痛みが走った。

 コイツ…。人の心とか無いのかよ…!!


「なぁ…。お前がここに来た目的はなんだ…?」


 永田は地面でうずくまる俺を真上から見下ろすようにして

 俺に冷静に畳みかけてくる。

 俺は全身の走っている痛みに耐えながら

 せめて口だけでは永田に負けないようにと必死に言い返す。


「彩華を…。彩華をお前から取り戻すことだ!!」


 俺は何とか息を大きく吸い、何とか自分の意思を言葉に変えた。

 永田には勿論、俺とちょうど対角の位置にいる体育座りで

 小さくうずくまっている彩華本人にも届くくらい大きな声で俺は3度目の宣言をした。


『…!!…勇作君…?』


 ずっと顔を塞ぎ込むようにうずくまっていた彩華は俺の声に気づいたのか

 彩華は顔を上げて俺の方を見た。

 もうすっかり日が沈んでいて暗くて見えづらくなっている中、

 その彩華の顔が所々腫れあがっているのが気にはなったが

 それ以上に歓喜の表情がまっすぐに感じられた。 

 

 ゴメンな、彩華…。こんな事になるまで助けに来れなくて…。

 こんな情けない俺を許してくれ…。


「彩華…、、…。」


「勇作君…!!」


 彩華はよろよろと立ち上がり嬉しそうにこちらに小走りしてくるのが見えた。

 しかし彩華は永田を見るなりすぐに驚いたような表情をして立ち止まってしまった。

 何だ? 一体どうしたんだよ…。

 

 俺はとりあえずその永田の方を見てみると

 そこには黒い何かを持ってそれを彩華に向けていたのが見えた。

 まさか…。その黒い塊は…?


「拳銃か…?」


「そうだ…。察しが良いな、高野勇作。」


「おい。勝手に動き回るな、とさっきからずっと言っているよなぁ…?」


 そう言うと永田が持っている拳銃は“ガチャ”と音が鳴り

 右手に持っている拳銃の銃口をそのまま彩華に向けた。

 

 というか何で拳銃なんか持っているんだ…。

 ゲームでしか見たことが無いし実物は初めて見たぞ…。

 しかもあれは確かコンバットマグナムじゃないか…?

 それに銃を持っている永田は何故か様になっていて

 銃を持っていても全く恐怖を感じていないようだった。

 本当に何者なんだ…。コイツは…!


「ヒッ…。」


「死にたくなければ元の場所に戻り座っていろ…。」


「この状況でお前が出る幕は無いんだよ…。」


 彩華はゆっくり後ずさりしながら

 永田の言う通り先ほどの場所まで戻り座り込んだ。

 あんな風に脅されたら誰だって恐怖を覚えるに決まっている…。


「さてと…。…話がすっかり逸れてしまった。」


 永田は右手で持っている銃の銃口を下に向けて俺の方を振り向いた。


「高野勇作。」


「“お前は高橋彩華を助けたい”と、そう言ったな?」

 

 彩華と永田のやり取りで時間を稼いでくれたおかげで

 俺の体の痛みは半分くらいは回復して

 何とか無理をしなくても幸い声は出るようになっていた。

 俺は重い体を起こして座り込むような姿勢で永田を見据える。


「あぁ…。何度も同じことを言わせるな。」


「ハッ…。まぁそう言うなよ…。」


「ならば俺の要求を1つ飲めば、高橋彩華と副委員長は解放してやる。」  


 永田はそう言うと俺の前でしゃがみ込み

 拳銃をブレザーの内ポケットにしまいヤンキー座りのような姿勢になった。

 そして何かすればやり返されるとは思いながら

 俺は常に反撃の瞬間を窺っていた…。


「お前がこの屋上に残り、逃げずに俺とタイマンを張る

 って言うなら高橋彩華と副委員長は見逃してやるよ…。」


「ただしお前の事は本気でボコボコにしてやるがな…。クックックッ…!」


 やはりそれか…。どうせそんなことだろうとは思っていた…。

 彩華をこれ以上傷つけない為にはこの脅しを呑むべきだろう…。

 だが俺に勝機があるのか…?

 コイツと喧嘩して俺は生きて帰れるのか…?

 真っ向勝負して勝てる相手ではない事はさっきの事から分かる事だ…。


【…絶対戻ってきてね。…信じてるから、私。】

 

 俺はふとメインアリーナで去り際に加藤にかけられた言葉を思い出した…。

 …俺の帰りを待ち望んでいる人がいる…。

 …俺が傷つけば同時に悲しんでくれる人がいる…。

 だがここで逃げれば彩華は助けられない…。

 俺の選択で全てが変わるんだよな…。

 俺は…。俺はッ……!!



「自分の安全か…、他人の安全か…。」


「さぁ…。どちらか選べ…。高野勇作…!!」


_________

___________

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