新しいことがない
「そういや、沙音華は、なんかバイトしてるのか?」
「してるよ。家庭教師」
「おお、教えてるのか」
「そう。普通だと時給二千円。水着姿になるとなんか五千円くれるよ」
「は?」
「冗談だよー」
「は、は、よかった」
沙音華がなんかやばいビジネスを始めたかと思った。
「ていうか僕もバイトしたいな……」
「今は勉強に集中した方がいいでしょ」
「それもそうなんだけどな……」
僕は沙音華の方を向いていた椅子を回転させ、机にきちんと向かい直した。
「ちなみに、今教えてる人は……中学生の女の子」
「あそう」
僕は積分計算練習を解き進めながら相槌を打つ。
「可愛いよ」
「そうか」
「ねえ、なんか最近話すことなくなってない?」
僕の返事がてきとうだったからか、突然沙音華がそう言った。
「しょうがないだろ。だって僕は予備校行って帰ってくるだけなんだから。何にも新しいこととかないし」
「そっか」
「じゃあ、新しいことしようよ」
「勉強しなきゃな浪人生にできる新しいことってなんだよ」
「なんだろうね……」
沙音華は水着姿のまま机に上半身を預け、頭を抱えて考える。おっぱいが変形している。柔らかさアピールがとてつもない。
「ない! 思いつかない!」
「結局そうなのかよ」
「もうとにかくがんばれ! 夏休みになったら一、二回はリフレッシュのために遊びいこう」
「それはいいな」
「ちなみに私はすでにたくさん遊ぶ予定もバイトの予定もあります〜」
「自慢してきたか。くそ。僕も受かりたかった……夏期講習ならたくさんあるんだけどな……!」
僕は、夏期講習予約用紙とオススメ講座一覧の紙を出して見た。
ああ……このオススメ講座全部とったら、夏休み全部潰れる上にお金も取られる。これは大変だ。