エネルギーがない浪人生
「お待たせいたしました。ご注文をお伺いします……」
店員さんが来て、沙音華、僕、榎咲、沙音華の友達の順で注文していった。つまり反時計回りだ。点Aが、サイコロを振って一か二だと反時計回りに2進み、それ以外だと反時計回りに1進む……あ、それ今日の午前中の演習の問題だ。あれ(1)からまちがえたんだよなあ。
店員さんが注文したものをもう一度繰り返して確認してから去ると、沙音華が言った。
「ずいぶん少食だね、泰成。単品一個だけ?」
「まあな、予備校にずっとこもっててもお腹すかないから」
「ほんとお腹すかないんだよな……」
榎咲が同意してくれる。嬉しい。やっぱり同じ生活していると同じ状態になるもんだ。
「なんか私たちの方がいっぱい頼んでて恥ずかしかったんですけど……」
そうなのかよ。水着姿で踊るサークルに入っている人の考えとは思えないな。
そもそもたくさん食べる女子は何も悪くなくて、悪いのは浪人して少食になった男子なので……やばいネガティヴになってきた。
と、ここで、
「私はそんなに頼んでないよ」
と、沙音華の友達。
ほんとそれな。自分がたくさん注文しただけのくせにだよな。まあ沙音華は、受験生の時も普通に食欲ありまくりだったから、水着で踊ってカロリー消費? してたらさらにお腹空くんだろうな。
とか思っているうちに、沙音華はドリンクバーをとりに行った。
僕は机におでこを乗せて休む。高校の時はコーラたくさん飲みたいとか思ってたけど、浪人するとそれも思わない。
コーヒーでも飲んでカフェインとって目を覚ましたいと思いかけたけど、それなら料理が来るまで寝ていた方がより健康的な気がしてドリンクバーを頼まなかった次第だ。
エネルギーってものが白紙の答案のようにないんだよな。予備校にいると。
榎咲は沙音華の友達と何か話していた。コミュ力高いな。僕は寝てよ。
寝ないと自習室で寝落ちして、見回りのスタッフに起こされて、周りの人の注目を浴びることになる。
「はい、泰成、水とってきたよ、どうぞ」
沙音華が僕の頭の上にコップをつけた。頭の上かよ。手を離したりはしてないよな。
僕は頭を動かさずにコップをそろそろと掴み、それを机の上に無事着地させてから頭を上げた。
「ありがと」
水くらい飲むか。そしたら眠いのも収まるかもしれない。いや、今収まっても自習室でまた再来するだろうから意味ないんだけどね。