アイスを食べる
今日もいつものように七時間予備校で授業を受けてから帰っていると、駅の前で、大学帰りの沙音華に会った。
「おつかれたいせ~。今日は水着じゃないよえらいでしょ」
「そりゃあ外で水着で歩いてたら大変だな。砂浜ならともかくこんな駅前で」
「そうやってすぐに常識人アピールして」
「……」
別に常識人アピールしてないんだけど……まあいいや。そう思って沙音華を見れば、視線がコンビニの広告に向いていた。
「今日暑いしアイス買おうよ」
「……ごめん。お金ない……」
「あ……それは大丈夫。私がおごるから」
「それは、もうしわけないから……」
「うーん。泰成そもそもほんとにお金ないの?」
「今五十円しかないよ。あ……でも、思い出せば、千円の図書カードならある」
でも、千円の図書カードでアイスは買えないな。
「わかった。じゃあ、私がアイスおごるから、たいせ千円図書カードわたしにちょうだい」
「……それ僕が損してね」
「ばれた……。『お、それいいな』って言って図書カード渡してくると思ったのに」
沙音華は残念そうにしながらコンビニの扉を開ける。今のでだませると思った人に入試で負けたのか僕は。
結局、次の時僕が何かおごるってことにして、沙音華にアイスをおごってもらった。
コンビニの前の食べれるスペースで袋を開け、食べる。
「あーこうしてると大学受験のことなんも考えてなかった高一を思い出すな……毎日コンビニのアイス食べてた気もする」
「……そうだね。私は今も受験とかないからそんな感じ」
そ、そうだよな。沙音華は……。うわ、羨ましすぎてアイス落としそう。
僕はアイスをかじりながら、スマホの単語アプリを開く。うう、高一の時はゲームしてたのに……。
「それ、いいよね。私も今もやってるよ」
沙音華がのぞいて言った。
「今もやってるの?」
「やってるよ。大学だってテストとか、受けなきゃいけない検定試験とかあるんだから」
「そうだよな……」
そりゃあ、大学生だって勉強するよな。そう考えれば、僕が勉強するのはすごく当たり前だ。
「はい、なにか考えてる間にぱくり……」
「わ、勝手にかじった」
沙音華かわいいのに、僕のアイスに残ったのはでかい歯型。でかいのはおっぱいとお尻なら大好きだけど歯形は需要ない。
……ほんと、小学生みたいなことしてきたな沙音華。でも、そういう沙音華がいるから、勉強ばっかりの僕も少し明るく過ごせてるところもある。
アイスをかじられたというのに、僕は少し感謝の気持ちを抱きながら、もぐもぐしている沙音華を見ていた。