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[05|Glossary]我が国における天使の就労状況

 現在、天使を天使以外の一般女性と比較した場合、第三次産業、すなわちサービス業が多いという傾向が僅かにあるが、その差は〇.五ポイント程度であり、総体としては殆ど変わりがないと言っても差し支えが無い。


 これは天使雇用均等法を始めとする法整備により、天使の社会的地位が安定した結果と言われており、天使人権上の見地からは国際的に見ても高い水準にあるとされているが、これに異を唱える識者も存在する。


 彼らの意見によれば、マクロ的な統計では隠れてしまうが、個々の事例を見ると、天使本人の希望が必ずしも反映されていないケースが多く見られるというのである。


 先ず、その身体的特徴から制約を受ける業種が複数ある。例えば、彼女達の運送業やバス、タクシー業種に対する就労率は極めて低い。これは、背中の翼が圧迫されてしまうため、一般的な車両の座席に長時間座ることができないことに起因している。


 翼の張り出しを避けるための構造を持つ、天使専用の座席は存在するが、問題の解決にまでは至っていない。これは、車両から座席そのものを交換する必要があり、車両間の可搬性に制約が生じてしまうことが原因である。必然的に、天使用座席に交換した車両が天使専用車両となる。このことが、主にこの業界での、普及率の妨げとなっている。


 これ以上に彼女達の就職選択を妨げているのは、通勤に関する問題と考えられる。これは都市部でより顕著であり、混雑時の満員車両への乗車が負担となり、公共交通機関の利用を躊躇させてしまうというものである。


 都市部の事業所への勤務が少なくなる分、自宅勤務や、徒歩圏内や自家用車の利用できる郊外にある事業所への勤務の割合が増えてしまう傾向にあり、その結果、彼女達の所得水準は、同業種、同年代間で比べると五から六パーセント、少ないと指摘されている。


 一方で、接客業における天使の就職は、他の業種に比べて極めて有利であると言われている。これは、雇用者側が天使の希少性を意識して、店員としての、彼女達の存在が売り上げ増に繋がるという判断を下すためと考えられ、逆の意味、つまり一般女性に対して不利であるという批判も多い。


 この件に関して、天使一般の容姿が一般女性に対して極めて優れているとされる考えが過去より広く信じられ、今も根強く残っているが、そのような事実も根拠も無いというのが学識経験者の共通意見である。


 なお、接客業においても例外があり、飲食業の一部では天使が敬遠される傾向があるとの見方もある。翼から羽毛が抜け落ちる可能性があるという、衛生面での理由である。アパレル業においても、天使の着用する服飾が一般向けと異なることから、採用を控えるケースが多いとされている。


 また、直接的な就労問題ではないが、労働監督署や人権保護組織が最も目を光らせているのが、天使に対して行われる、宗教関係者による搾取である。彼女達が太古より信仰の対象となっていることも関係して、信者獲得のため天使が不当に利用される事案が後を絶たない。その手口も年々巧妙になって来ており、予断を許さない状態が続いている。


 近代に至るまで、その名の通り天からの使いであると考えられた天使は、土着信仰の対象として大切に扱われていたが、その一方で自身の自由を奪われており、また、一部伝承では翼を持つ少女は天からの預かり物であるという信仰に基づき、その使命を終えた天使を神に返すという名目のもと、ある年齢になると命を奪われる風習が各地であったとも言われている。


 このような悲劇を再び繰り返さないためにも、天使の人権保護は今後も継続して努めていかなければならない、深刻な課題である。


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