[15|Glossary]天使遺伝子の発現
天使に関わる四つの遺伝子のうち、最後のスイッチが押されるのが少女期のことであり、記録上は最短で六歳八カ月、十六歳二カ月という例が残っているが、統計上九十八パーセント以上が、九歳から十三歳の間である。
天使遺伝子は、劣性遺伝の最たるものでもある。翼と羽の発生に関係する四つの遺伝子は封印されており、通常、活動することは無い。そのうちの一つの遺伝子、これは翼骨格の原組織となる部位の分化に関わるホメオドメイン蛋白質生成に属するものだが、この遺伝子に複数の型があり、特定の型を持つ家系にのみ天使が生まれる。これは約八十人に一人とされている。
天使遺伝子が発動する最初の切っ掛けとなるのは、天使遺伝子とは直接関係のない、免疫に関わる遺伝子の発現である。特定の伝達物質が蓄積されて引き金が引かれる。同時に、突如分化を始めた翼が、自己免疫機構の攻撃対象とならないため、抑制酵素の分泌を司る遺伝子による調整機能が働く。そして、これらの機序が上手く噛み合う確率の低さこそが、天使としての属性を獲得することの難しさ、つまり八十人に一人程度存在するはずの天使因子保持者の殆どが、翼を持つことなく通常人類のままの形態を保持し続ける理由へと繋がる。
またY遺伝子に起因するヘッジホッグシグナルの発現により、この働きを抑止するペプチドの生成が行われるため、天使となるのは女性のみである。長い歴史において、男の子が天使となったとする記録も数例残されているが、その真偽は明らかになっていない。
第三、第四遺伝子の発現と共に、母体に対しても恐竜由来、あるいは鳥類由来の代謝系が導入されることが、彼女達の持つ、老化が遅く、長寿であるという特色の理由とされている。このことについては、チャーチ生理学研究所のドジソンらが積極的に研究を行っており、その成果が待たれる。




