パーティー 2
僕の現在地は、東西に伸びるアスカルト王国、その丁度中心辺りに位置する王都の王城。
王宮のダンスホールだ。
今日そこでは僕、セシル・アスカルト15歳の誕生パーティーが盛大に執り行われている。
会場のホールより数段高いステージの上には、椅子が3つ。
横1列に、会場を見下ろせるよう並んでいる。
真ん中の椅子には僕の父、つまり国王。
その奥、王の右側に僕の母である王妃。左側に僕の順だ。
本来ならば、ここにはあと2つ椅子が必要なのだが、今日は他の用事などで欠席しているため片付けられているようだ。
パーティ前の国王への挨拶に。
「本日はご招待頂き、誠にありがとうございます。皆様が、ご創建そうでなによりでございます。」
「両陛下、殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。本日のこのよき日にお招きいただきましたこと、身に余る喜びでございます。」
「本日は、お招きいただきありがとうございます。我らがアスカルト王国の繁栄に陰りが無きことを、心よりお慶び申し上げます。」
異口同音の決まりきった、口上文が並ぶ。
「あぁ、貴公も遠路はるばるご苦労であった。本日は心ゆくまで楽しんでいかれると良い。」
父の決まりきった返答。
何十人と続く、同じやり取り。
「王太子殿下におかれましては、本日の15歳のお誕生日、誠におめでとうございます。」
「あぁ、ありがとう。僕もこんなに大勢の人に祝って貰えて嬉しいよ。」
僕も父と同じように、一定の返答をかえす。
「何を仰います殿下。殿下程の御方の誕生パーティをこのような人数で多いなどと、実際はこの数十倍の人数がここに来たがったと伺っておりますぞ。」
「殿下ほど才知に溢れる王太子は、どこの国にもおりますまい。そんな方に仕えることが出来る我々は本当に幸せものですなぁ。」
「他国の嫉妬の視線が恐ろしいといったらないですなぁ。」
「来年までには、殿下も社交界デビューをなさらねばならぬお歳。今や社交界は、殿下に愛でられたい花々で溢れかえっておりますぞ。」
僕に話しかけては心底愉快そうに、豪快な笑い声をあげる大人達。
この会の主役である僕への祝いの言葉。
より正確にいうなら、祝いの言葉というていをとったゴマすりという名の毒である。
(……あぁ、本当にここはつまらないな)
絶え間なく続くおべっかと、腹の探り合い。次期国王に取り入ろうとする者。僕に自分の娘をあてがおうとする者。弱みを握ろうとする者。
己の私腹を肥やすことに、彼らはとても忙しいらしい。
群がってくるものは、全てをいつも通りに笑顔で躱し、余りにしつこく食い下がるようなら逆に探りをいれ、弱みを握り黙らせる。
そんなことは僕にとってのただの日常で、息をするのと同じだ。
だが僕が主役のパーティともなれば、人数が人数なだけに面倒なことには違いない。
(さっきの赤いドレスで白髪赤眼のご令嬢はルスターの第2王女、最初に挨拶した小太りの男性はマリリスの公爵。それとあそこの左から2番目、男爵婦人の腰巾着がグロッサムの中でも有力な商人)
挨拶に来た者達が3桁に届きそうな数に差し掛かったころ。
やっと挨拶に並ぶ者も居なくなり、疲れて少し息抜きがてら先程の様に目の前の光景をぼんやり眺めつつ現実とう………今後の他国との関係せいについて頭を使い始めたのが30分ほど前。
やっとダンスが始まった。
勿論そんなものに参加したくて待ち望んでいた訳ではない。
ダンスというプログラムが終わりさえすれば、この長くくだらないパーティもやっとお開きになるのである。
もう少しの辛抱だ、といつものどこからどう見ても完璧な王子様という笑顔を貼り付けて、愛想を振りまく。
今日は父上としていた大切な約束の日だ。そう思うと少し気が楽になった。
暫くたって何曲目かの曲が演奏し終わった時、不意に隣から声をかけられた。