パーティー 1
何か新しいことを始めてみたくて、全く初めての挑戦なので拙く至らない部分も多いと思いますが、誰か1人にでも面白いと思って頂けると嬉しいです。
僕の名前はセシル・アスカルト、アスカルト王国の第1王子として生まれ、眉目端麗、頭脳明晰。火の打ち所がない完璧な王子というのが僕の肩書きであり、僕自身ではなく、そういう存在でなければならない僕の全てだった。
そう。あの日、あの時、あの場所で、彼らに会うまでは…………彼女に出会う前までは。
ここアスカルト王国は大陸の最東端に位置し、縦長で広大な国土を有していることから気候が場所により大きく異なっている。同じ国内でも北側と南側では作物の種類や実り具合、暮らしぶりも全く違う。
これといっためぼしい資源がないため貧しくはあるがそれぞれの土地を、温暖な地域では農業を、そうでない地域では酪農を、沿岸部では漁業をと上手く活用することでまわしていた。
貧富の差は同じ平民間でさえ大きくあれど、普通の平民であるならば、冬が越せずに飢え死にするような国民が居る国でもない。
(………彼らが普通の平民であるならば、ね。)
他国より国土が広く人口が多い程度の強国ともいえない国が、近隣諸国から狙われるのは至極当たり前の流れである。
(主に注意しなければならない国は、3つ。)
大陸の最北端に位置するルスター国。
ここは年中雪に覆われているような国で、作物を作ることすら困難なうえに、国民には白髪赤眼という特徴があり、各国から迫害の対象とされている。
だが、ルスターは鉱山資源に恵まれていた。
貴重な鉱石から宝石に至るまで、他国が喉から手が出るほど欲しがるような文字通りの宝の山だ。当然、備蓄という面でも人口という面でも周辺国に劣るルスターは格好のカモだった。
どうにかして手に入れようと試みた国は、後をたたなかった。しかしその国々は、1つの例外もなく散っていった。
その理由はいくつかあるが、最大の理由はルスターの環境と、文化からくる特殊な騎兵故だろう。
ルスター国は、敵国が攻めてきた場合戦線を開かず、国内深くに誘い込み篭城戦の構えを取るのだ。
雪深い山々を越え進むことを強要される兵達は、まともに馬も扱えず。やっとの思いでたどり着いた王都には、頑丈な城壁に阻まれ、今度は極寒の地のど真ん中での野営を余儀なくされる。
補給もままならない状態で日々体力削られ続け、その傍らには常に凍死の恐怖が控えている。
兵にとっては最悪の状況下。更にルスター国独自の牙狼騎兵団が襲ってくるというのだ。馬と違い、雪原の中を縦横無尽に駆ける狼の機動力と騎乗する兵士の破壊力は言うまでもない。
もし攻略法を思いつける君王ならば、まず挑むことをやめるだろう。
自国における戦争では無双を誇るルスター国に対し、では貿易で利を得ようと考えるのは自然な話だったが、………ルスター国が首を縦に振ることはなかった。
(自分達が蔑んでいる相手に対し、平等な取引を持ちかける者などいる訳がないし、自分達を迫害する相手を好意的に見る者がいないのも、子供でもわかることだろうに……)
実際これまでの歴史を振り返っても、ルスター国とは長年奪い奪われる関係しか築かれてこなかった。貿易も、ましてや和平など夢のまた夢だ。
5年前までは。
(まぁ。戦争なんてくだらないうえに至極面倒な芽は、僕が外交に直接関与できるようになった時に、早々に潰させて貰ったんだけどね)
セシルは10歳になってから周辺諸国との外交に力を注いだ。
他国との繋がりを脅しに使いつつ、それぞれの国との関係を深め、自国では地盤固めに従事した。
それが5年前である。
結果他国との関係は良好とはいえないまでも、ここ3年間では小さな小競り合いすら起こっていない。
次に大陸の最西端に位置するマリリス国。
マリリスはルスター国と違い温暖な気候で、国の運営や国民自体には特に問題はない。
だが、余裕があると欲が出るのが人間という生き物である。
(ここは戦争にならない程度で、隙あらば国土拡大を狙って国境線近くを何かしらつついてくるから、目障りなんだよな~)
地盤固めは勿論自国のためであるが、マリリス国を黙らせるには1番手っ取り早い方法であったため、急いで取り組んだのである。
(面倒ではあったけど、どうせ王太子としてやらなきゃいけない仕事だったし、一石二鳥か……)
最後に海を渡った向こう側にあるグロッサム国。
グロッサムは商業国家で、ルスター国やマリリス国と違い1度でも敵に回したくはない国である。
(ここの国民は商売根性逞しい者が多いから、戦争なんて非生産的なことには全く興味がない連中がほとんどだ。だから、そっち方面の心配は必要ないんだけど……)
1番敵に回したくないのは、個人で貴族に取り入り莫大な利益を得ている連中がいるからだ。
(個人である商人を相手にするのは、正直戦争を止めるより面倒くさい…………)
戦争なら国家間での対応で、つまり王太子である僕の立場を使えば、ある程度はどうとでも出来る。だか、貴族の個人的な関係に口出しするのは王族の過干渉だと騒がれるのである。
はぁ~。
(かといって、簡単に他国の商人につけ込まれるような無能達に、自国の金が他国へ一方的に流れていることに対する危機感なんてものを求めるほど、僕も鬼じゃない。あいつらにそんなこと出来る頭は、元々ないんだから………)
内心で肺の中の息を全て吐き出した程の大きな溜息をつきつつ、溜まっていたものが少しも減っていないどころか、自分を取り囲んでいる現状のせいで増え続けるのを感じる。
僕は自分の中の減ることを知らない黒い塊にうんざりとしながら、目の前に広がる赤や黄色や青なんかをぼんやりと眺めながら考えていた。