最終話 忘れないよ
「おい、離せっ! クソッ!」
「……健人、それってもしかして……」
俺の黒纏を見て驚いた顔を見せる知音達。そっか、俺と陽向以外はハザマとの戦いで使えるようになったこと知らないんだったな。知音は以前に見た事はあったけど。
「黒纏。初めて貴田財団で戦った時に使えた技だよ。ハザマとの戦いで思い出せたんだ」
「銃を返せよッッ!!」
「……こいつどうする?」
軽屋は知音によって縄で縛られ、俺と俊樹、空気と幽霊によって完全に押さえつけられている。
「殺す必要はないね。俺は弘成を助けに行く。今度こそ終わらせるために」
「……健人。私達も戦うよ」
「いや、もう二度と死ぬなんて荒業出来ない。だから、俺ら二人に任せてくれ」
「俺達は役立たずってか?」
俊樹、そうじゃない。言いたい事も沢山あったが、俺はここで争う必要がないと考え、そのまま駆け出した。
* * *
「弘成……殺すッッ!!」
「もう誰も死なない」
俺は刀を生み出し、すぐに黒纏を発動する。どうやら奴は幸いにも能力を完全に発動しきれない様子だ。今なら、勝てる。
「これで勝て」
「る、ト思ったか?」
「ッッ……!」
弱っただけじゃない、今まで唱える必要があった希那さんの能力を、話しながら使えるようになってやがる。黒纏が無かったら、危なかった……。
「斬るッ!」
「……くっ……遅い」
俺の刀はまるで何かに押さえつけられるように減速する。今度は烈王さんの力まで利用している。それでも、今までと比べたら然程危険ではない。
俺は全身から糸を吐き出し、ハザマに攻撃する。糸は減速せず、次々とハザマの皮膚を切り刻んでいく。
「ハザマ……前みたいに攻撃しないのか?」
「あ――」
「させるかっ!」
健人が2階から飛び込んで、ハザマを空気棒で殴り倒した。なのに、ハザマは動きもしない。これは推測だが、ハザマももう、戦いたくないのか?
「弘成! こいつ、様子がおかしいぞ?」
「ああ……」
仰向けになり静かに息をするハザマ。俺達はそれを見て攻撃の手を止めてしまった。
「……弘成、健人! 大丈夫か?」
「知音……」
上を見上げると、知音が俺達の様子を見下ろしていた。
「……勝ったのか?」
「勝ったというか、ハザマにはもう戦うつもりは無いみたいだ」
「そ、そうか」
目も死んだ魚みたいに焦点も合わず、ただただ息をし続けている彼を尻目に、健人はブツブツと考え込んでいた。
「……殺す、べきなのか」
「……ここで終わらせないといけないからな」
俺と健人は互いに目を合わせた。お互いに、考えている事は同じだろう。黒纏を解除し、ナイフを作り出した。そして、ハザマに振り下ろした。
* * *
「……あの人、もしかして命衣さん?」
住宅街の方から汗をダラダラと垂らし彼女は走ってきた。目の前まで来ると、息を切らし真っ赤になった顔で呼吸を整えながら話を始めた。
「ハァッハァッ……さっき急に思い出して……みんなを守ろうと……って」
「終わりましたよ、命衣さん」
地に伏せたハザマを見て、命衣さんは全てを察したようだった。俺達は命衣さんにある事を伝えた。
「……恐らくですが……健人と関わった事のある人達はさっきの黒纏を発動した際に、記憶が戻ってしまったかもしれません」
「うん……」
「だから、雅姫さんを守ってほしいのです」
「――健人ーーッ!!!」
突然、命衣さんと健人が話していると外からタイヤの擦れる音に、大きな轟音を鳴らしながら車が停車し、一人の女性が一目散にこちらに走ってきた。
「姉……じゃなくて、雅姫さん。……命衣さん、どうか、お願いします」
雅姫さんは汗を大量に垂らし、今にでも死に絶えてしまいそうな形相で、俺達の前に倒れ込んだ。
「雅姫さん。私達だって、覚えてますよ。誰も、忘れてないよ」
「忘れる訳、ないでしょ」
彼女は人目を気にせず泣き崩れていた。俺達はその言葉の意味を知り、ただ黙って二人を見守り続けていた。
* * *
ハザマと最後に戦った九月十五日。あれから3週間が過ぎた。雅姫さんが駆け付けてからはすぐに話は進んでいった。軽屋は銃を所持し、中学校に侵入した事で警察に逮捕された。その際に俺達が軽屋を押さえていたことから一躍勇敢なヒーローとして話題になっていた。
一方、ハザマはというと、雅姫さんと命衣さんに頼み、貴田財団まで持っていき、一旦治療を行い、そのまま貴田隆頼の元に渡した。勿論、貴田財団にいた人達は全て思い出していた。
ただ、結果として良い事だけでは無かった。あの時ハザマに食われた四人は俺達以外は覚えていなかった。記憶を思い出した人達も、殆どがその記憶が本物だという証拠が無い為、一時的に日本中で世満島の話題になったが、マンデラ効果?といった物だと片付けられ、次第に口ずさむ人は消えていった。
「弘成ー、おひさ」
「お久しぶりです! 暁さん!」
俺達は今、何でもない休日に、黒い学ランとブレザーを着て貴田財団まで訪れている。その理由は、4人の墓参り為。『最初から居なかった。なんて悲しい、だったら弔ってあげよう』と、初めに雅姫さんが言ったからだ。
「……さようなら、愛莉」
「さよなら、明人」
「……さようなら、れ……烈王」
「……さよなら希那」
それぞれが別れを告げる。当然、涙が溢れ、膝から崩れ落ちた。脳内では今までの記憶が巡り続けていた。愛莉と初めて出会った時も、十数回も別れ続けた俺と愛莉の思い出も、何もかもが二度と忘れる事が出来ないものになっていた。
「これから毎年、君の誕生日に花を渡しに来るよ。だから、待っててよ?」
震える声で、そう呟いた。だが、その声に対して返事は無い。それはこの世に存在していないから。震え続ける両膝を抑えながらゆっくりと立ち上がろうとすると何処からか、声が聞こえた。
「ありがとう。待ってるね」
綺麗で、立派な一輪の花がその先で花開いていたんだ。その花の名前は、俺にしか分からない特別な、花。
* * *
一人で理由もなく外を歩いていると、嫌な噂をよく聞く。能力を乱用している奴がいるとか、能力が関与した窃盗事件だとか。
「物騒な世の中になっちまったもんだなぁ……」
「そうね……あ、でもでも! あの子達がいるじゃない」
「……え、誰の事だ?」
「名前も姿も正体不明の子供達よ! あの子達が全部どうにかしてくれるはずよ!」
俺達は生き続ける。たとえ誰にも覚えられなくても、誰の記憶にも残らなくとも。怪物を宿した俺達は、人らしく生きていく。
「ありがとう」
透明で、穢れのない少年の声が病室に反響していた。
2年以上ありがとうございました!!
まだまだ足りてない部分の補完を近いうちにあげます!
今まで本当にありがとうございました!!




