第八十話 孤独を泣いた君へ
暗闇が、心地良かった。きっと、今までの俺なら暗闇を避けていただろう。暗闇は一人だからと。でも今は違う。暗闇には皆がいる。むしろ、真っ白に光に照らされるのは全てを明かされてしまうから、そこに何も居なかった事にされてしまうから。そっちの方が今じゃ怖い。
「……なるほどね、弘成」
健人の声色は元に戻っていた。お互いに距離を取り合い、いつ仕掛けるか間を保ち続ける。
「弘成、俺に任せてくれよ。この力なら行けるかもしれない」
「……攻撃も合わせる、だから任せる」
「分かった」
健人は言い切って直ぐに左手を突き出した。そして瞬く間にハザマが壁際まで押され、潰れ始める。
「……! さっきまでも力が強くなっている……いいぞ! もっと力を入れてみろッ! 全力を見せてみろ!」
「当たり前だ、全力でお前を潰すッ!」
壁が軋み、肉体が圧迫されるような音を出しながら、ハザマは抵抗している。そして壁が凹み、ハザマもめり込んでいく。が、ハザマの肉体は再生され、全身から植物が生えてきていた。
「チッ……なんて強さだ……!!」
徐々に健人が押され始めている。黒纏を放ち両手を翳しているが健人の足は少しずつ下がり始めていた。
「俺もいるぞ、健人!」
両手から糸を吐き出す。押される健人と、空気の壁を俺と糸で支えた。二人がかりの力でも拮抗している。それどころかほぼ無限の体力に恐怖していた。
「なぁハザマ。お前には俺達がどう見えてる。どうしようもない屑か? それとも、雑魚か? お前からすれば、どっちも正解かもしれねえけど、俺は否定してやる!」
地面が揺れる。暗闇の中、目が慣れてきているとはいえ奴の表情は捉えられない。
「だって……。お前はなんの為に戦ってるんだよ……」
「ずっと言ってんだろ……。お前らを全員殺して――」
「――そんなの、軽屋の言う通りにしてるだけじゃないのかよ!」
健人が叫んだ。ただその言葉は、俺にとってもハザマにとっても地雷でしかない。ハザマは怒りを吐露する。
「長い間、俺はお前らに苦しめられてきた。……分からないだろうよ、オレ自身の名前すら知らずに孤独で生きてきたオレをな!」
「……確かに俺達は間違えたかもしれない。だから、俺以外は皆君に吸収された。それでも俺は抗い続けないといけない。君からしたら、後は俺を食べて終わりだろうな。でも、俺にはこれからも生きていくって未来を見ている! 君とは違う!」
「なら、オレは生きてたらいけないのかッ!!」
ハザマが激昂し、再度力が押されだした。それでも俺達は引かない。
「いや、同じだ! だからこそ、そんな体は消す方が良い! 軽屋に利用され、明人の命を消して奪い取った。それじゃあ、君が背負うには重すぎるんだよッ!」
「弘成……終わりにしよう。黒纏をもっと……強く……!!」
二人で黒纏を更に使い、より多くの黒纏を放った。視界が一気に暗くなり、自らが飲まれつつあるのを自覚した。
「俺は、ここで君を止める。どう足掻いても二人で永遠に止め続ける」
「そ……そんな事して……どうなる。時は戻らない。永遠に行う事は不可能だ」
「ハザマ。お前は何も分かってない。俺は信じてる。皆が助けてくれると」
直後、眩しい閃光が背中越しに見えた。一筋の光が、誰の目に止まるわけでもなくただそのままハザマを貫いた。そして、ハザマは付近の壁ごと爆破された。
鈍い爆発音に俺と健人は耳を塞ぎ、思わず地面に腰を着いた。目の前には煙火が上り、何も見えなくなった。
「暗闇なら、皆を見つけられないからな」
「陽向、それに……命衣さん……」
振り向いた先の二人は、自然と光源のお陰ではっきりと照らされて見えた。
「仇を取りに来た」
「……弔い合戦、だよ」
二人は澄んだ目で、狂気的で、誰よりも哀しい目をして俺達を見ていた。俺達を見つけてくれた。
二人は俺達の目の前に立ち、ただじっと俺達の目を見ている。
「命衣さん」
俺が手を伸ばした時、命衣さんも手を俺に伸ばしていた。
俺達は躊躇わず手を握りあった。
「もう、後悔は増やさない」
俺と健人は、その場から立ち上がり、煙の先をじっと見つめる。しぶとく生きる少年がいた。




