第七十九話 黒纏う者達
身体が軽い。前回の美奈香と戦ったときにも思ったが、以前と比べても健人自身が鍛えられたお陰で格段に強くなっている。そして、この黒纏と呼ばれる物。
「そうだ、黒纏について説明してなかったな……」
「私が貴方みたいな人の話聞くと思う?」
私はハザマを無視して攻撃を始めた。健人ならこういう攻撃は好きじゃないから、彼がみせない技がある。
「潰れろ」
ハザマの全身を覆う空気を握りしめ、一気に圧縮した。私が怪物だった頃に使っていた技だが、グロテスクすぎるな、なんで今まで使ってきたんだろうな。
「……黒纏は怪物を完全に操り、尚且つ研ぎ澄まされた精神力が必要になる」
まさか! 圧縮しているのに肉体が抵抗して、全く潰せない。明人の能力を応用しているようだ。そしてハザマは話し続ける。
「健人は素晴らしい。ただ、怪物。お前の精神じゃ黒纏を出せないようだ。早くさっきの子に変えろ。それじゃ、意味が無い」
あと一つ必要な物があるなら、それは圧倒的な攻撃力。欠けたピースを誰かが埋めないと勝てない相手だと分かっている。ただ、そんな人はもう……。
一瞬、嫌な予感が脳裏を過ぎたのと同時に、異常な気を感じ取った。
* * *
明人が死んだ。愛莉も死んだ。記憶があの二人と同じように流れる。私が瓦礫の中、奇跡的に生き残っていた。横を向くと額から血を垂らし意識を失っている利名子が倒れていた。そうだ、崩落している時に利名子に救われたんだ。利名子は眠っているが、呼吸はしている。私の上にある瓦礫を全て壊せばここから出れる。私は利名子を引っ張って身体を探り寄せ、抱き抱えて思い切り能力をぶっ放した。
「ハァッハァッ……」
視界の先には真っ暗な世界。全力で撃ったが横の空間がほんの少し緩くなり、外の風景が僅かに見えるだけで身動きは未だ取れない。うっすらとした月明かりだけが私達を照らした。
「キャッ、陽向ちゃん!?」
「あ……命衣さん!」
瓦礫の上には命衣さんと暁さんに、俊樹がいた。
「今、助ける」
俊樹がそう言うと目の前から消え、一瞬で私達を触り、景色が変わった。
「瞬間移動ありがとう」
「そんな事より……能力持った人が襲って来てる。俺はすぐに戻らないといけない。利名子は……暁さん達に任せて、陽向も戦おう」
「……雅姫さんは?」
「雅姫は……」
そこまで言って、暁さんは口をつぐんだ。
「……雅姫さんが、最後の怪物の魂を持ってる。今能力を持っていない暁さん、雅姫さん、そして命衣さんの内一人が能力を手に入れて、ハザマを倒しましょう」
「陽向、聞いてたか? 能力持った人が襲って来てる。俺達がここを抑えてないと下に勝ち目はねぇんだよ」
俊樹が口を挟んできた。結局こんな状況でも俊樹とは意見が合わないみたいだ。
「真凛死んだからここに居るんだよね? 残ったメンバーだけじゃそもそも勝てないと思うけど」
「……記憶見てたら分かるか。ああそうだ、でも他にも分かんだろ? 誰かがまた殺されたら強くなって一気に不利になる。今まで戦った事もない人が増えた所で奴には勝ち目がない」
「それはまだ分からないよ」
「いいや分かるさ」
私と俊樹がいがみあって喧嘩していると、気付くと隣に雅姫さんが居た。
「……能力なら、私、要らない」
そう言って、鞄を彼女は投げ捨てた。
「……」
残りの二人はただそれを見つめていた。その内俊樹が痺れを切らして何処かへ行った。多分、二人なりにも考えはあるのだろう。そうしてちょっとずつ時間が過ぎていく。手を伸ばしたのは一人だけだった。
「……命衣さんいいんですか」
命衣さんは無言で頷き、鞄を拾った。中を探ると魂が出てきた。それを触った直後に命衣さんの全身が真っ白に輝いて見えなくなった。暁さんもそれをじっと見つめていた。
「……私が手を伸ばした理由。たった一つしかないけど、私にしか出来ない役割があるって気が付いたからなの」
「役割?」
「雅姫さんの事は誰よりも尊敬している私がやるしかないって。暁が迷うのは体力に自身が無いとかそういう理由だと思うし。陽向……一緒に戦おう」
命衣さんは私の手を握った。その手は冷たくて大人の手だった。視線を顔に向けると、今までとは違う雰囲気が漂っていた。
* * *
音が聞こえた。健人とハザマの声だ。あまり近くないが、位置はすぐに把握出来た。
全身に意識を分散させて、糸を散らした。
「待ってろよ、健人」
糸を出して壁を破壊しながら向かっていく。一枚、また一枚と壊していくとすぐに二人の姿が見えた。
「ハザマァ!」
ハザマを見つけて俺は叫んだ。明人と愛莉の姿がハザマに重なって見えた。愛莉やサイコのように糸を無数に出し、その全てをハザマに向けた。
「……ッ」
ハザマはそれらをするすると避け、愛莉の能力を使った。蔦が俺を絡め取ろうとしてくるが、右手に刀を握り、蔦を切っていく。
巨大な蔦が一本、俺の目の前に現れた。それを刀で断ち切ると、目の前にハザマが出てきた。蔦を囮にして詰めてきていた。
「その程度、聞かないぞ」
「ッ!」
刀でその拳を受け止める。今にも刀が折られそうになったその時、また二人の声が聞こえた。
「まだ……まだ、力が足りてねえ……!」
「……なッ、弘成、まさかお前も……」
「! 弘成、畳み掛けよう! 黒纏があれば、私達勝てるぞ!」
刀は黒の煙を纏い、糸は闇に染まっていた。
一息、呼吸を正した。その息は暗闇に溶けていった。




