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クリティカル・リアリティー  作者: ガラン/藍染
最終局面(VS存在しない怪物)
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第七十八話 二死一塁

「愛莉ッ……?」



 愛莉は髪をなびかせながら、魂が抜け落ちるように倒れた。そして、目線の先には奴がいた。

 折角弘成が治りかけてるんだ、少しでも時間を稼いでやる。左手を弘成に触れながら目を合わす。



「何故、そこまでソイツを頼る。オレからしたら、弘成と愛莉さえ手に入れれば無敵なんだ。最悪、お前は生かしてもいいんだぞ?」


「そんなの決まってんだろ。お前に従って生きるくらいなら、()()()()()()()()()


「ハハッ、答えになってねえよ」



 目前に奴の蹴り。避ける事ならギリギリ出来るかもしれない。でも、それをしたら弘成まで守れない。



「ん?」



 俺の顔面寸前で蹴りは止まった。ハザマは辺りと見渡し始め、声を荒げた。



「さっさと姿を現せよ」


「穿け」



 さっきまで空気と壁となっていた物全てがハザマに針のように突き刺さっていく。

 ハザマがほんの一瞬だけ怯んだ。弘成を抱えながら愛莉に手を伸ばした。



「愛莉は渡さねぇえ!」



 健人が暗闇から飛び出し、愛莉に手を伸ばしていた。



()()が先だ」



 俺も、健人も、届かなかった。俺は弘成を能力で遠くに投げる。そして、愛莉の近くに落ちた花を見つけた。俺は咄嗟にそれを拾って散らないように抱き締めた。



 ――あれ、誰の花だっけ。ああ、畜生。涙が――



「ッッ!!」



 俺と健人の全身を蔦が絡み、枝が腕や足に突き刺さった。全身に力が入らない。能力も当然発動出来なかった。健人を見ると、気絶して抵抗すらしていなかった。俺達もここで、消えるのか。後は弘成が目を覚ましてくれるのを期待するしかない。いや、それとも……眠ったままの方が、弘成にとって幸せなのかもしれないな。



「じゃあな弘成……今度は……」


「お前みたいな()()()()になってみせる」























 * * *

 どうやら俺は眠っていたようだ。俺は起き上がり、ここはベッドの上だと分かった。来た覚えのある場所だが思い出せない。()の部屋だろう。そう考えたらすぐに思い出せた。



「愛莉。ここ愛莉の部屋だ。何度も来た事があるのに、なんで忘れてたんだろう。なあどう思う? えーと」


()()()。私にもそう言う名前が付けられていたの」



 部屋の扉の近くに巨大な俺の怪物が壁にもたれ掛かっていた。無表情のまま腕を組んで俺をじっと睨んでいた。



「何か言いたい事でもあるの?」


「当たり前。なんであんな死に急ぐ事したの」


「俺はああしないと勝てないと思ったからだ。誰かが犠牲になるなら、俺を選べばいいと考えた。それに、戻りたくても元の体に戻れないんだ。この世界はもう現実じゃないって、俺も分かってる」


「貴方、今まで友達を見下して生きてきたの?」



 彼女の言葉がやけに重く感じた。さっきまでの無表情な顔ではなく、明らかに怒りを顕にした表情に俺は反抗した。



「見下した事なんてない。皆良い奴だ。皆が勝つって信じてるから犠牲になったんだ!」


「そんなに自分が犠牲になる駒として役に立ってると勘違いしてるのね」


「何だと」


「――貴方の攻撃は、ハザマにとってはただのかすり傷だった。そこまで言ったら理解出来る?」


「な……」



 決死の攻撃でさえも無駄だと伝えられ、俺は言葉が出なかった。



「貴方のせいで真凛と俊樹は死にかけ、明人と健人はそのうちハザマに喰われる。()()()()()()()()()。全部、原因は深谷弘成」


「…………愛莉は、消えたのか」



 そう聞いた瞬間、この部屋は少しずつ崩れていった。まるで思い出が失われていくように、気が付いたら何も残ってなかった。



「……でも、こうなったのも全部貴方のお陰。貴方のその行動に皆は付いて来た。愛莉も、貴方の為に遺言を残していたからね」


「それは、どんな?」


「話してもらうよ、愛莉」



 トントン、と背中を軽く叩かれ振り返ると、そこには正真正銘本物の愛莉がいた。



「『今までありがとう。ずっと好きだったよ。この花、あげるから……忘れないでよ?』」



 そう言って愛莉は小さな花を俺に差し出してきた。この花は図鑑にも載っていて、俺が必死に覚えた花の一種だった。



「この花の名前知ってる。()()()だ」



 愛莉がどう思ってこの花を俺に渡したかったかなんてきっとこの先理解出来ないだろう。それは、俺が不完全で未完成である事の証明で、非現実的な世界を生きてきた証明。無意味では無かったんだ。何もない世界で、いつの間にか無数のエリカが咲いていた。



「……弘成。残念だけど、貴方はまたあの地獄に戻れるよ。彼が作ったラストチャンスを活かしなさいよ」


「……ああ。カッコつけようとしてた自分が、恥ずかしいよ」



 サイコの顔は見れなかった。今の顔を誰にも見せたくなかったから。



「ありがとう、愛莉」



 サイコに背を向けたまま目の前にいる明人に目を合わせた。



「明人も……か」


「……ああ、うん。ごめんな」



「……俺はもう孤独じゃない。明人と愛莉がいる。そしてサイコがいる。二人の事も絶対に忘れない。もう二度と自分から犠牲になるなんて言わないし、最後まで抗ってみせるよ。だから逆に、()を忘れないでくれよ」


「……当たり前だろ。弘成は誰かにとっての支柱。大黒柱みたいなものだよ。そんな奴が一番強いに決まってんだろ」



 肩を軽く殴られた。いつものじゃれ合いと同じ強さで。叱咤激励を受けて俺は、不思議と笑みが溢れていた。



「弘成。()()()()()()


「ああ、今日はさようなら」



 元の世界に引き寄せられていく。視界が眩み、明人が見えなくなった時に、怪物の姿が見えた。俺は、彼女に向かって手を伸ばした。



「引っ張られなくても、私は行きますから。私は自分で決めてますから」



 紫に染まった視界は段々と暗闇に変わり、今度こそこの空間は無くなった。












 * * *


「これが愛莉の能力か……そして、明人……だったか、彼の能力まで手に入れられるとは。さあ健人。もし貴様が黒纏(コクテン)を操れるなら見せてみろ!」



 だが、健人は微動だにしない。健人は目を瞑り、死んでいるように気絶していた。



「……無駄か」


「いヤ……私ハまだ生きてイる……!」


「……! 健人、まだ生きていたか! だが、様子がおかしい……口調も変わっている、何故だ」


「それハ……第二ラウンドってことだ」



 全身に黒い物を纏い今までとは違うオーラを放った。健人は正に怪物と等しかった。厳密には健人の身体を操っている人格は健人ではなく、その元の怪物である『ソラ』ではある。



「やっぱり面白いよ君達二人は……四人を飲み込んだこのオレに勝てるかなぁ?」



「お前に……負ける事など有り得ない。所詮独りぼっちの君に私()は絶対に負けないから」



 地下室で、唯一音が残る場所で戦いが再度始まる。反撃の狼煙が既に上がっていた。

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