第七十一話 対峙
暗闇。灯りが存在しない廃れた街を、人の気配すら感じない空虚を通り抜ける。次第に光に包まれた巨大な建物が見えてくる。
「俺の爺ちゃんが……怪物を作ったんだよな……?」
「……そうです、俺の記憶では」
俺がそう言うと愛莉も希那さんも首を縦に振った。
「……その、弘成。大丈夫か? 顔色があまり良くなさそうだが……」
後ろから心配する明人に向かって話す。
「大丈夫だよ明人。ちょっとさ、緊張してきただけだからさ」
「……ならいいんだ。もし弘成に何かあったら、必ず俺が守る。だから、一人で抱えすぎんなよな!」
「……おう!」
「……着いたね、降りる準備しないと……立花さんまで外に居るなんて、話が早いね」
希那さんはまだ止まりきっていないのに飛び降りた。俺達は完全に静止してから飛び降り、希那さん達の所に駆け寄る。
「……隆頼さん? 今日は星が綺麗だから屋上で眺めると言っていたけど……!? ってどうしたんだそんなに焦って……? ……あ、お帰り暁。どうした?」
「立花さんありがとう。俺達急いでるんです。上に行こう!」
「……何階建てでしたっけ?」
「二十一階!」
「はは……冗談ですよね」
暁さんは多少困惑しながらも建物内に入り、それに続いた。
階段とエレベーターがあるが、エレベーターは今は稼働していなかった。それを見て俺達は更に青ざめた。
「……先に行ってて、……ちょっと行きたい場所が」
「? 希那ちゃん、代わりに俺が行こうか? ほら、俺戦闘出来ないし」
「と、トイレ行きたいの! 一瞬で済ませるから! 能力使って早めに戻るから! 先に行っててよ! もう、察し悪いんだから!」
「……駄目男子?」
「……すみませんでした。」
暁さんは深く頭を下げ、希那さんは少し恥ずかしがった顔。陽向が突っ込んでしまうほどの暁さんは……天然だ。
ただ、そんな話をしている余裕は無い。
「行きましょう! 倒れないように!」
「分かってる!」
愛莉が先陣を切りそれに俺達は続いていった。
* * *
最初の勢いはどこへ行ったのか、残り僅か数階なのに息を切らして死に物狂いで走っている。暁さんが。
「ああ……今週何もしてなかったからかな……割と……キツい……」
「大丈夫ですか? 支えていきますよ」
「……いや、大丈夫だ。俺も少しずつ追いかける。足は引っ張りたくないんだ」
「! ……分かりました。休んでから、来てくださいよ!」
「当然!」
俺は暁さんを置いて皆にくっついていった。
「……俺だって」
小さく聞こえた声に振り向きはしなかった。
* * *
「結構、疲れるね……」
「……二人みたいな体力化け物でも疲れるのね……私も結構……きつい」
「……明人がいない?」
陽向がキョロキョロと周りを見るが、どこにも明人がいない。階段を下ろうとすると声が聞こえてきた。
「今夜は星が綺麗だ……」
「…………軽……屋さん?」
そこには何故か軽屋さんが空を眺めていた。確かに、空は星が綺麗に見える。だが、肝心の隆頼さんが見当たらない。ただ一人、空を眺める者が居るだけだ。
「……私はこうなるまでは、それなりに幸せな人生を送ってきたと思うんだ。世界平和を目指す者として、人として真っ当な人生を過ごしてきたと言える。でも――変わってしまったんだ」
俺には何が言いたいのか理解出来なかった。軽屋さんの震える声は何かを語りたそうだった。
「見つけたんだ、逸材を。眩く光る一等星をね。そう……君等とは全く違う存在をね」
「……弘成、陽向。こいつ、なんかおかしいよ」
「ど、どうしたんですか? 隆頼さんはどこに――」
「ハハッ、焦んなよ。隆頼? あの人は最期まで揺るがなかった。だから――殺した」
空気が重くなったのを肌で感じた。そして、その男は語る。
「ああそうさ。俺がこうさせた。怪物と人の殺し合いにした。理由? 理由は単純さ。前座。正確には、君達のような素材が欲しかったからさ。……君達は無事に全て倒してくれた。そして、殆どを扱えるようになった。素晴らしい事だよ。あと二人、彼が手に入れれば完全体となる。だから――」
「――弘成くぅん、愛莉ちゃぁん……! 彼の餌になってくれよ」
「――させるかぁッ!」
「ッ!?」
天から何かで見た大男が剣を構えて軽屋に襲い掛かった。それだけじゃなかった。
「陽向ッ!」
「弘成ァッ!」
知音と真凛も、今にも軽屋に斬りつけようとする寸前だった。
――軽屋に刃筋が触れる直前、軽屋の目の前に異様な者が立ち塞がった。まるで怪物のような、場違いな物体が、その全ての攻撃を弾き返した。
「誰だ……!?」
「負担デカすぎ……!!」
愚痴りながらも吹き飛んだ全員を支える健人。向こうの六人で、このデカイのは利名子のようだ。
全員が吹き飛び、全身がはっきりと見えるようになったその者はこの場を支配するに相応しい顔付きだった。
「……くくッ……」
軽屋が笑い始めた。肩を震わせ堪え切れない笑いを見せる。
「ここまで来た理由、分かるか?」
「当たり前だろ! 蹴りをつけに来たんだ!」
「……弘成。君は間烈王を覚えているか?」
想定外の質問だった。思いがけない応答に俺は、答えられなかった。
「…………弘成」
愛莉が俺に不思議そうに尋ねる。それが何を意味するか何となく察した。
「間烈王って、誰?」
誰もが沈黙した。俺も誰か分からない。雅姫さんも知らなそうだった。ただ一人、顔を歪める奴がいた。
「な、なんで……皆烈王さんを忘れ――」
健人の声をかき消すように、大声を軽屋が声を上げる。
「やれーッ! ハザマ」
俺の額から大粒の汗が地面に垂れた。正体不明の相手を対峙した恐怖からなのか、目的を忘れた事に恐れたのかは分からなかった。




