第六十八話 闘争心
前回まで
トラバネ戦終了、そして愛莉との関係も明らかになった
「はぁ……はぁ……はぁ……」
思わず息が切れる。どれだけ動物を出したかも分からない。そして、どれだけ経ったかすらも体感でしか測れない。
「……どこいったのかなぁ?」
遠くから奴の声が聞こえる。息を殺して崩壊した瓦礫の隙間から覗き込む。
姿は利名子の形をしているが中身は全く違う、ただの怪物だ。
悪趣味な癖を持っているようで、ずっとあの姿で襲い掛かってくる。
「これからカイも来るんだ、逃げても無駄さ。聞こえてんなら出てきなよ!」
大声で怪物は叫ぶ。利名子の真似をしているつもりなのか、わざとらしい甲高い声が耳障りだ。
「……お姉ちゃん……ど、どうしたの……?」
「……ッ!?」
見知らぬ声。振り返ると返り血で染まった真っ白なワンピースを着た少女が立っている。
「!」
瓦礫を砕く衝撃が飛んでくる。
「ひっ」
「……惜しいなぁ……咄嗟に鷲を生み出して防ぐとは思わなかったよ」
「……黙れ」
私は左手で少女を抱え飛び立った。
「えええ!? ななにがおきてるの!」
「ごめんね、お姉ちゃん普通じゃないんだよ……」
泣き叫ぶ少女を落とさないように体勢を変え近くのアパートの窓を割って倒れ込んだ。
「君、大丈夫? 怪我はない?」
「う、うん。無いけどお姉ちゃんは」
「――私は大丈夫。それよりなんであんな所に?」
「な、なんでって……わたしたちの家だもん」
「あ……」
戦いに夢中で気が付かなかった。と、なると……彼女以外にもまだ残っているかもしれない。助けないと……。
いや、待て。ここでこの子と別れたら悲惨な目に遭う。どっちかが姿を利用された時点でこの少女は死ぬ!
最早、助ける事自体を放棄してしまった私の思考は完全に停止していた。
「君のほっぺについてる血、貰うね」
「え? き、汚いよって、え、血?」
誰のかも分からない血を、指で奪い舐めた。たった一滴分だとしても力が溢れ始める。
「……この大きな鳥と、ワンちゃんが君を守ってくれるよ。もし、どんな知り合いでも私が来るまではこの二匹連れて逃げてね」
「う、うん!」
そう告げて、血を混ぜた狼と鷲に任せて入ってきた場所とは全く違う場所から飛び出した。
飛び出た先では無数の悲鳴が飛び交っていた。
「だれか……助けて」
「痛いよぉ……!!」
「おかあさんどこ!?」
ここが何処なのかも理解してしまった。ここは幼稚園だったんだ。数え切れないほどの悲鳴、血の匂い。頭部から血を流して倒れている大人も何人もいる。もちろん……大量に血を流す子供もいる。
「……あ」
子供達が一斉に私を指差す。
「天使さんだあぁ……」
やめろ。指を指すな。私はこれ以上救えない。この中に紛れているかもしれない怪物に、殺されたくないからだ。
子供達は数秒の間視線を向け、指を指しながら目を閉じた。
「……そんな所で何してるんだよ」
呆然とした私に下から声をかける者がいる。姿も声も弘成だった。
「……何が目的なの」
「目的……か。何だろうね、世界を握るのはどっちなのか競っているのかな?」
「……くだらないよ、私は天使でもないし、救世主にもなれやしないよ。だから、私が選ぶ事じゃない」
「……そうか。君が選ぶ事をしないなら、勝手に未来を変えてあげる」
「!!」
瞬きと同時に刀を持った弘成が現れた。同様で思わず左手で受けた。
「……やっぱり威力ないなぁ、変身した意味がないや」
左手を斬られ、激痛が走る。
「……オレのフルパワーでも食らっとけ」
「この距離なら当たる……ッ!」
右腕に獰猛な爪を生やし頭部に向かって斬りつけた。拘束が緩くなり、溝を打ち壁際まで下がった。
「……そうだ! 君達が見ているような漫画のキャラを最近知ったんだけど、どうかな? これで君を殺してあげるよ」
顔が溶け、お馴染みの顔に変わった。
「『キンニクプリズン』の『キング』さ! どう? 黒騎士最強なんだってね! いやー自分自身倒し方が分からないほどの強さ、素晴らしいよね」
「バカげてる」
「……ま、いいや。黒の終止符」
私も知っているその技で、私は吹き飛ばされた。そうして、周囲の全ての建物が崩れ去った。
* * *
「……く、くっ」
意識を失わずにすんだが身動きが取れない。あの少女も逃げ切れたのかも分からない。
「……虎。瓦礫を退かして」
体力を消費して二匹の虎を作る。二匹は私に従い、瓦礫を退かす。そしてすぐに消した。辺りから血の匂いと独特な匂いが混じったものが漂っている。
「お、お姉ちゃん?」
「……なんでここに」
「怖いよお……お姉ちゃん。なんで私を置いてったの」
どうやら二匹が犠牲になって彼女は守ってくれたようだ。
「……ごめん、友達助けられなかったんだ」
「う、ううん大丈夫、に、逃げよう」
「……ねえ」
震える声を途切れ途切れに語った。
「運良く助かったのね、君」
「うん、奇跡的に助かったの」
ああ、そうだ。疑惑から確信に変わってしまった。まただ。
「……ごめんね」
「え、え? 大丈夫だよ――――あ」
顔がドロドロに溶け元の怪物が現れた。
「強制的に解除されちゃったぁ……!」
何かが私の中で切れた。今までの躊躇いが馬鹿らしくなって、無我夢中になっていた。どうやらしばらく自我を失っていたらしい、自我を取り戻したのは園児達の血を取り込んでからだった。
「わお! 天使は血を飲むために現れたんだ」
マトモな言葉が出て来ない。代わりに無限に力や能力が抑えきれなくなり、全てが発動した。




