第六十七話 夢見る者達
暖かい日差しが俺に当たる。いつもなら憂鬱な気分で起こされていたが、今日だけは違う。何故なら、今日は大晦日だからだ。家族と過ごす休日も楽しいが今年は友達達と年を越す楽しさを味わおうと思う。
俺は急いでラップで包まれた朝ご飯を食べて、色々と準備を済まして8時になる前には家を出た。約束の時間は9時。集合場所は全員の家の中間地点になる明人の家。皆よりも早く着くことになってしまうかもしれないと思い、俺は寄り道することにした。
「おー、弘成? どうしたんだよ大晦日に一人で、こんな朝から忙しそうにしてんな?」
「烈王さん! 今日は明人達と年を越す予定なんですよ!」
「楽しそうだね弘成! 私達はこれから貴田さんの家まで行って、そこで雅姫さんと合流して年越す予定なの!」
「希那さんも今日はいつもよりテンション高いですね!」
「いつもと別に変わんないでしょうが!」
二人とも笑顔で白い息を吐き出している。幸せそうな空間に入ることは出来ないなと思い、二人とはその後軽く話した後そのまま別れた。
* * *
「……や、やばい……寄り道し過ぎた……!」
巻いたマフラーを外して腕時計を見ながら走る。寄り道をしていたら集合の五分前になっていた。いつもだったら既に着いている筈なのに、このままじゃ最悪遅れる。
……能力を使おうか。そう迷っていると背後から肩をポンポンと叩かれた。
「――え、って俊樹かよッ! これ間に合わないんじゃ……!」
「だよね!? 最悪だー!! こんな時に寝坊するなんて……」
「周りに人いないし能力使ってくぞ」
「いや、俺はもう使ってきたけどね!?」
俊樹が俺の肩に触れたまま能力を使う。すると数m前に瞬間移動した。それを何回も繰り返して進んでいく。これなら、間に合う。
「もっとだ俊樹ィ!」
「うおおおおお!!!!」
* * *
「――それでそんな汗かいてんだ」
「ああ……はあはあ……」
「……はは、……それにしても明人、知音遅くない?」
「……健人。アイツはそういう奴だ」
汗をダラダラを垂らした俊樹を横目に健人と明人は出来ない辺りを見渡した。
「誰探してんだ?」
「だれって……お前じゃ!!」
「……知音、いつの間に居たんだ……」
もう10分も遅れているだぞと怒る明人に対して知音は知ったことかといった顔でなだめようとしているが、俺にはそれは逆効果だろと思ったが口にはしなかった。
「――で! 女子組はどこ行くって?」
「おい話逸らすなよ……まあ、確か陽向は『バオン』で何かのイベントがあるから行くっつってたけど」
「俺等も行ってみようぜ! どうせ俺等彼女居ないし少しでも女子と話したいだろ?」
「いや姉ちゃんの友達しか居ねえからヤダわ。クラスメイトでもな」
「……なんか馬鹿馬鹿しいの好きだな、俺は行きたいかも」
「『もぉ〜う健チャンたら、ムッツリね!』」
「……知音、今日はお前が陽向に告白するって聞いてたんだけど、本当か?」
「悪かったって! おいお前らマジで勘違いすんなよそんな事言ってないからな!!」
「ははははっ!」
三人の独特な異なる空気感で俺は笑ってしまった。今年が終わるのに普段と全く違わない会話が心地良かった。
まあ、そんなこんなで俺達五人でそのイベントを見るというていでバオンに向かうことになり、俺はマフラーを巻き直した。
* * *
一時間後。バオンまでそこまで遠くないので歩いて行くことにして、無事に辿り着いた。が、入口前の時点でバオンの異常さに気付かされた。
「……なんかいつもの十倍くらい混んでねえか!?」
「……気のせいだ気のせい……なあ、明人、陽向が言ってた事本当だよな? 俺等騙されてないよな?」
「……い、イベント会場は二階らしいから急いで向かおう! 確か10時半に始まるって聞いてるから!」
「……あと十分……間に合うのかなこの人混み……」
健人の言う通り普段とは比べ物にならない程混んでいて先がほとんど見えない。
「……しゃーねえー、皆俺に触れてくれ」
「……え? 俊樹それバレないか周りの人に」
俺はコソコソと周りに隠し事するように俊樹に訪ねた。
「そうだよ俊樹。どれだけ巻き込むかわからないからここは俺が使うよ」
そう言って健人は仕切り始めた。
「俺が先頭になるからついてきて」
「俺と俊樹
が後ろに付けばいい感じだな」
俺と俊樹が健人の肩に触れ、知音と明人が俺達二人の肩を掴んだ。
「よぉーし行くよ!」
そう言って人の群れに飛び込んでいった。奇跡的に人と衝突する事なく俺達は一階のエスカレーターまで進む事ができた。
「ふー、助かったぜ」
「……な! 魔莢!?」
「知音肩貸しサンキュー」
「おう」
「いや、気付いてたの!?」
「……誰かと約束か?」
「そう! 彼女と約束があってよ、まさか入口であんな混んでるとは思わないじゃん。マジで助かったわ」
そう、魔莢はこのメンバーで唯一彼女がいる。だから俺達は誘わなかった。俺達五人は悔しい感情を噛み殺し話を続ける。
「今日は何のイベントがあるんだ?」
「あーそれがさ、超人気アイドルグループがライブするってここで」
「やっば……」
「興味ない」
俺が絶句していると知音がとても興味なさそうな顔でエスカレーターから下を眺めていた。
「ボーカルの人がキンニクプリズンの実写に関わってる」
「「「「「マジで!?」」」」」
揃って大声で驚いてしまった。魔莢は呆れた顔をしていたが、二階に着いたときには一点を見つめていた。
「……あれ、先生だ」
「……鈴木先生? 隣にいる人は誰だろう……? 彼女……だとしても若そうだ……」
「絶対触れない方がいいやつじゃん」
健人と俊樹は空気を読み始めたのに、知音と明人はウキウキとして先生の元まで駆け寄っていった。
「……馬鹿だなあ」
* * *
「従妹の付き添いで来ただけですからね。勘違いして生徒達に話されてたら困ってましたよ私」
「君達カワイーね! 五人ともモテそうなのにねー。ま、この人にも彼女居ないから世の中分かんないね」
「ははは……」
そう言って二人は消えて行った。
「……とりあえずライブ見るか」
異様に疲れた俺達は一旦魔莢と別れて会場に向かった。
* * *
「……やばかった……」
「……ファンになってしまった」
「でも実写化は認められんねえよ……いくらアイツでも責任が重すぎる……」
「ああ……」
各々の感想を、フードコートで語り合っていた。俺は腕を捲り腕時計を見ると、時間は12時を過ぎていた。
「あれー? もしかして弘成? いっぱいいるね」
「お、真凛! それに利名子に陽向じゃん」
「……絶対明人が教えたよね? 私達がここに来てる事」
「……ごめん」
「……まあ、いいけどさ。どうする? 八人で行動でもする?」
「よっしゃああ! 今日は年越しまでだからな! 着いてこい俺に!」
「……やっぱり七人で行こうよ真凛、陽向」
「……お願いします。捨てないでください」
ちょっとした茶番を繰り広げ、何だかんだで八人で行動する事になった。
行く場所は既に知音が決めていて、天川街で年越しカウントダウンが行われるらしい。俺達未成年だのに大丈夫か?と聞いたが健人は最悪誤魔化せばいいと言っていった。健人も意外と適当だなと思った。
* * *
「……なんか疲れたな」
天川街に向かう最中で寄り道してプリクラ取ったり、ゲーセンで遊んでそのまま屋台で食べ歩きをしていたら年を越していないのに疲れが溜まりきっていた。
「……あと何分で年越す?」
「まだ三時間はあるぞ?」
「あー……眠いよ」
時間を確認するとまだ22時にもなっていない。疲れきった俺達三人はベンチに座り、健人と俊樹は疲れて今すぐにも眠りそうな顔をしている。知音と女子達はまだピンピンとしていて、どこかに消えて行った。明人はトイレに行っていって、俺はそれを待っている形だ。
「……今日は寒いな」
着けているマフラーを握った。息も白い。
「これから雪ふるってよ」
明人がトイレから戻ってきた。寒そうに手を擦っていた。
「……今日、お前達と遊べて楽しかったよ」
「何だよ急に?」
「……いや、何かさ、言っとかないとって」
「……良い奴だよ弘成は。――弘成が居なかったら陽向とまた仲良く兄妹出来てるなんて思わないし。未来を変えてくれたのと同じなんだ、俺にとっては」
顔を何かが伝って地面に垂れた。
「……雪が振り始めたな」
明人が幸せそうな笑みを浮かべて俺の目を見つめてくれた。
「明日は積もりそうだな」
* * *
「すまんすまん、楽し過ぎてめっちゃ時間経っちゃった」
「大丈夫。他の三人は寝ちゃったけど」
「……子供だなあ」
陽向が明人の寝顔を見て笑った。次に、俊樹の顔を見て睨みつけていた。
「……ムカつくけど、寝顔は案外普通ね」
「ハハハ……」
俺が苦笑いしていると、遠くから泣き声が聞こえてきた。
「お母さんー!! どこーー!?」
小さな子供が泣きながら一人で歩いていた。俺達は駆け寄ってその男の子に話し掛けた。近付いてその子を見ると肌はとっても白くまた、何処かで見た記憶がある顔をしていた。
「……皆、この子の親探そう」
「当たり前でしょ?」
真凛が寒さで顔を赤くしながらそう言った。
十五分間、俺達は全員で親を探し回った。それどころか人混みはどんどん消えていくばかりで全く見つからない。そんな時だった。
「お兄ちゃん」
「……どうかした? 大丈夫だよ、直ぐに見つけるから」
「うん」
「……――!! おかあさんだ!!」
遠くを指差した。俺達はそこまで急いで走って行った。
* * *
「助かりました……うちの子を知らない大人から守ってくれて本当にありがとう御座います」
男の子の母親に頭を下げられ、俺達は狼狽えた。
「そ、そんな! 頭は下げなくていいですって!」
「そ、そうです! 私達、当然の事をしたまででっ!」
「こっちの方こそ感謝でしゅ!」
緊張のあまりか利名子が噛んでしまうと男の子が笑った。その顔も幸せそうだった。
暫くした後にその親子とも別れ、カウントダウンまで20分を切っていた。
「今年も色んな事あったよな」
「楽しかったね」
「……俺は、嫌な事も多かったな……」
「そんな暗い事言わないでよ健人……健人は優しすぎるのよ」
「ああ、ありがとう陽向……」
「自分と比較したらそうなるね皆」
「は? 俊樹さぁ、殴り合いでも、やりたい?」
「やる?」
「おいおいそこら辺にしとけって……」
二人の喧嘩を仲裁していると、遠くに彼女の姿が見えた。
「――あ。ごめん皆、ちょっとトイレ行きたくなってさ……年越す前には絶対戻って来るから!」
「……そんな急にか」
「ごめんごめん」
「そうか……またな」
「ありがとう。明人」
俺は一人で彼女を追いかけた。ただ一人で歩いている彼女を止めたかったから。彼女は橋で川を眺めていた。
「……愛莉。ここで、何してんだよ。一人で」
「……年越すから」
「じゃなくて、なんで一人でここに? 家族は?」
「……今日は、本当は用があったの。でも、何か忘れちゃった、はは」
笑い方が下手くそで誤魔化すことも出来ない彼女の笑みは哀しそうだった。
「……なあ実は伝えたいことが」
「私、多分なんだけど、弘成の事が好きなのかもしれない」
思いがけない一言で俺は言葉を詰まらせた。俺が一番、怖い言葉。曖昧に過ごしてきた。明確になってしまったらどう返せばいいか分からないから。
「……ごめんね、変な事言って」
「違う。そうじゃないんだ。俺は……ただ……怖いんだ」
「……ずっと前から、俺も好きだったんだ。ずっとずっと好きだったけど、怖かったんだ。相手の気持ちなんて本当は何も何一つ理解できないから」
思いが零れていく。雪が積りだした地面を踏みしめる音が俺の耳を刺す。
「……良かったぁ。私達、両思いだね」
* * *
…………ここは一体……。
「ごめん、弘成。皆に夢を見せたんだ。希望の夢を」
ミナカさんはここに残る。その為、俺達と背中を押してくれたんだ。
「俺の夢は年を越す夢でした。絶対全員で生き残って、年を越しましょう。今年でも来年でもいいです。幸せになるましょう」
「弘成! こっち向け!」
「……何だよ」
知音が遠くから俺を呼んだ。俺が振り返るとカメラが光った後にカシャと音が鳴った。
「なんでカメラ取ってんだよ……」
「これで記憶に残っただろ? そうすれば健人が皆を思い出すし思い出させてくれる」
ボロボロの健人を見た。希望ならある。
「……愛莉、ありがとう。愛莉が居なかったら勝てなかった」
「……全然……問題ないよ。私を信じてくれて……ありがとう」
「…………愛莉」
愛莉の両肩を掴んだ。思っていたよりも肩が小さかった。
「俺、愛莉の事が好きだ。これが全て終わったら、俺と付き合おう」
愛莉の目だけを見つけて一言一句丁寧に伝えた。彼女は声を震わせながら一言だけ言った。
「私も、弘成が好き」
希望はある。年末最後の投稿残りの時間を楽しみましょう。
補足
知音は一切触れられてきませんでしたが、初日から学校に持ち込んでいました。描写はしてきませんでしたが、ちょくちょくクラスメイトと写真を取ったり、隠し撮りしてきたので沢山の写真と動画が保存されています。勿論、学校に持ってきてから撮影した物も沢山あります。




