第六十五話 トラバネ
言葉が聞こえた。身体は縛られて動かない。ここで死を悟った。オレは死ぬのだと。能力を使用したところで跳ね返せない。人生を振り返ってみたら、大したことはしてなかった。
……少し前に蘇った記憶が再度オレの脳裏に流れる。
「いい加減、真面目に生きる覚悟をしなさい」
あれ、誰の事?
「兄さんは、なんで僕らを裏切ったんだよ」
あ。これは数週間前の記憶。永久の最期の言葉。
「キミはもっと強くなれるよ……!」
アイツの声がする。オレをこんな姿に変えた男。あの時のオレは……
泣いていた。
思い出した。弟だけでも守りたかったはずなのに、オレが稼いで親の看病をしてあげるはずだったのに。何処で狂ったんだ。
こんな所で思いを告げても、相手は居ないから。ここにはオレしかいないから。だったら、この命は捨てたら駄目だ。拾えなくなる。
「硝子の世界ォッ!!」
蔦越しに聞こえる女の叫び声。次の瞬間で全てが決まる。オレも叫び返してやった。
「オレ、真面目に生きるわ」
* * *
「弘成!」
「分かってます!」
俺は希那さんの手を掴んだ。そして、希那さんは唱える。
「硝子の世界ォッ!!」
「オレ真面目に生きるわ!」
トラバネの声が耳に入った瞬間に硝子の世界に入り込んだ。あの発言に疑問は残るが、今は切り落とすしかない。
蔦も止まった砂埃も破ってトラバネに迫る。そして、二本生み出し片手で握る。
「くたばれぇええええ!!」
刀を振りかざす。全力を出し切ったこの刀は頭と首を斬った。それもかなり深く入った。首元からガラスにヒビが入りどんどん広がっていく。そして、全身が砕けた。
「!! やったぞ!」
「!? 弘成! 避けて!」
「え……」
砕け散ったガラスの中身が現れた。それは……
「よぉ」
「な――」
言葉を発する前に飛ばされた。正確には、トラバネが生み出した刀を右手の刀で受けた からだ。
「ぐはっ」
地に顔から落ちる。顔だけでなく全身に痛みが走る。直ぐに起き上がったがトラバネの攻撃は止まらない。
「お前等のお陰で目が覚めた。オレは少しフザケ過ぎたようだ。今から皆殺しにする。この世界をオレが制覇してやろう」
何を言っているのか分からない……。
「……まずはお前ら二人な」
対策する事も間に合わない速度で、刀を振り落とされる。もしかして、これは俊樹の能力か?
さっきまで使ってなかった俺の能力も含めて考えると、今の一瞬で使えるようになったのか!?
「くだらねえ事考える暇あるなら、手を動かせよ」
その声が、何故だか烈王さんに言われた気がした。
「…………いや、何で終わらない……?」
世界が戻らない。今までなら強制的に戻る筈だが、数十秒経っても戻らなくなっている。
「オレの能力でこの世界は今、存在している。一分は持つ。その間お前らをボコす」
「ウッ!?」
希那さんのうめき声が聞こえ反応したが、希那さんの周りには何もない。なのに、腹を抑え苦しんでいる。
「合わせ技だよ。本気で勝ちに行く」
トラバネの背後から無数の蔦が伸び、俺達に向かって襲い掛かってくる。
「こんなもの!」
刀をもう二本また作ろうとしたが、また記憶が飛んでしまうかもしれない。それを危惧し右手に一本だけで受け流す事にした。
目の前に来た蔦を叩き斬った筈だった。衝撃が突然刀に伝わり手が痺れる。動作が遅れたと同時に数本の蔦が向かってくる。
「受け切れな――」
当たる直前に衝撃が飛んでくる。5発喰らっただけで立てなくなった。そうやって何度も何度も衝撃をくらって意識がかすみ始める。周囲では硝子が砕け散る音が響いているのが聞こえる。
「ぐっあぁ!?」「キャッ!?」「っ……」「うっ……!」
四人のうめき声が聞こえ、一分経った事に気が付いた。顔を上げるどころか身体を動かすことさえ出来ない。多分、全身の骨が折れてる。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……………………。
「……校舎を全て崩す。そうすれば、お前らの仲間とまとめて殺せる。……あと五人か?」
「……! ふふ、カモがまた一人」
誰かが階段を登ってきたようだ。だが、登ってきた者は声を出さない。健人、なのか?
「……俊樹は、陽向が持ってる怪物を。弘成は今から俺が渡す」
「…………トラバネ、言っておくが絶対に逃さないからな」
「……崩れろ校舎」
そうトラバネが言い放つと、地面が揺れ天井が落ち、壁が折れて倒れていった。一秒も経たないうちに建物全てが崩落していることが分かった。
「……ッ」
「…………?」
「何故、この階は無事なんだ?」
地面に伏せていたが、二階が丸ごと一階に落ちたような感覚があっただけで俺達は無事だ……動けはしないが。
「……お前が強くなったって言うなら、俺は、俺達はその何倍も強くなった。お前を倒して財団に向かう。ここで犠牲を出す必要なんてねえんだ。……そうだ。三人追加でどうかな?」
健人がどういう表情をしているかなんて見えない。突然の切り替えにトラバネの困惑した表情だけが見えた。
「……ハアハア……」
何も起きていないのにトラバネだけが息を切らし冷や汗をかいている。
「……俺が戦える状態でその能力は効かないと思った方がいいよ。それ、希那さんのだろ?」
「……雑魚がよるな!」
「なっ!?」
聞いたことのない声の男が能力を使ってトラバネに殴りかかったが衝撃波で跳ね返された。何が起こっている?誰だ。そう考える暇もなく次は見覚えのある女が現れた。
「ヒリュウ……さん」
「……オレに味方はいねーようだな」
「山田、良くやったわ。囮役最高」
「へへ……あざす」
ポンと肩を誰かに優しく叩かれた。振り返る事は出来ないから誰か訪ねた。
「だれ……?」
「……シーッ。明人だよ、お前達の怪我今から治すからじっとしてな」
明人は能力を扱うのが上手い。身体に巡っていた痛みを徐々に消えていく。そして俺は起き上がり、健人に目を合わせた。
「……これが、下にいた怪物だよ。俺が倒してきた。能力は、糸を操る。どっちかというと硬いね」
心臓の形をした怪物を軽く投げられた。それを捕ろうと触れた直後に光った。その光が全身に流れていくのを感じる。
「……おい、何をした?」
「本物の怪物を弘成は手に入れたんだ。俺と陽向はお前に攻撃しないから。見た感じ俺と陽向の能力を受けていないっぽいからさ」
「……俊樹、まだ動ける?」
「あ、ああ一応は……お前大丈夫か?」
「……これ。まだ戦う気があるなら強く握って。怪物にも言っておくけど、生きたいと思うなら縋って。お互い縋り合って生きよう」
「邪魔を………するなァ!!!」
トラバネがキレる。この距離だと刀じゃ間に合わない。だったら、この能力を利用する。
「届け!」
鎖のような、アンカーのような、太く強度のある糸をトラバネの右腕に向けて飛ばした。これで何となく分かったかもしれない。重ねれば重ねるほど威力は増す。これを扱えれば勝てる。
トラバネの腕には刺さらなかったが俊樹が陽向から受け取る余裕を与えることに成功した。
「……トラバネ、もうお前に人を殺させない。俺が殺すから」
「意味分かんねえこと言ってんじゃねえよ」
「……」
俊樹が怪物を強く握り出すと、俺と同じように光り全身に巡っていくのが見えた。
そして、一瞬で透明になった。
「!? どこに行った!?」
トラバネは今まで一番動揺している。だが、こっちも同じだ。俊樹の能力はどちらともステレスタイプ。直接戦えるのは俺、明人、愛莉、飛龍さん、山田……さん?それに加えて俊樹もいる。
今度こそ決着を付ける。先程までの不安は何も無い。俺の心は一つじゃない。俺には仲間がいる。俺には、怪物がいるから。
八人もいれば勝てるよ多分




