第六十三話 思い出を
「これで思い出した?」
私ははにかんでみせた。健人の表情筋は思ったよりも固く不自然な笑みを見せているような気がするけど。
「……あ……あ」
彼女は震えている。冷静になって、失った記憶に気が付いたか。
「……記憶を継ぎ足しているだけに過ぎない」
「私達は死んだのね。人として」
……理解が早い。彼女は人間の頃からカイに並ぶ知能を持っていた。
「……ただ、理由もなく生きていたんだよ。人を殺し続ければ、いつかはきっと終わる……って」
私は言葉を詰まらせた。怪物だった私と同じだったから。
人間だった頃、私と彼女は対して仲は良くなかった。だから知らなかったんだ。
ああ、人間だった頃に知っていれば親友になれただろう。醜いこの姿になってから気付いても遅い。
「……こっち側の怪物だって皆そう思っていたさ。でも、誰もこの醜い魂ですら捨ててはいないよ。人の魂と結び付き共に生きる事を選んだんだ」
彼女の目から雫が溢れた。儚い涙が、頬を伝って教室の床を濡らす。
「……誰なら私を受け入れてくれる?」
「貴方に見合う子なら居るわよ」
「深谷弘成。彼の名前」
「聞いたことある……あの男の息子よね?」
「そう……この先弘成君が戦うと言うなら、貴方が必要。いつかは彼も深い絶望に叩き落とされる。その時支えられるのは私達の魂だけなの」
「…………………」
長い沈黙が続いた後、ゆっくりと彼女は口を開いた。
「ありがとう。これでこの体から解放されるのね」
周りの糸が動き出した。弦を張ったように伸びきったそれは彼女の首を撥ねた。
首はポトリと落ち、濡れた床の色は赤黒く染まっていた。
落ちた魂を私は拾い直す。抱き抱えたまま二階へ向かった。
* * *
「黙れよ!」
「っ!」
俊樹は陽向の声を遮り、何も聞こうとしない。そして俺達はトラバネの猛攻をただ受け流すのが精一杯だ。
「俊樹ィ……! お前と戦いたくないんだ! 話を、聞いてくれ!」
「……弘成……オレはお前達を信じてねぇ! こうなったのも、全部お前らのせいじゃねえかよ!」
「……!陽向ァ! 邪魔だァ!」
俊樹はゴーストを操り、陽向の身体を持ち上げた。陽向が一瞬抵抗しようとしたのが見えたが直ぐに外に向かって投げ出され、ガラスを割って二階から転落していった。
「皆を護らなくていいのかよぉ! なぁ愛莉?」
……愛莉? なんでその名前が……。
――来る。愛莉の蔦の気配がする。どの方向から来るか分からない。俺は刀を再度握り締める。受け流さければ……。
「二刀流……!!」
片手で刀を持ち、もう一本増やした。あの敗戦から戦法を考え直し、重さならカバー出来ることに気付いた俺は二本使う事を考えていた。
最後の決め手用に取っておきたかったが、死んだら意味が無い。
「オラオラオラオラッ!! くたばれや!」
衝撃波の連続攻撃。一撃は重いが、手加減をされているからか吹き飛ばされるほどじゃない。
「消失切り!」
これも、新技だ。右手で握った刀を投げ、刀を作る。この空間に3本ある。握った二本で、左腕は首を、右腕は脇腹を、投げた刀は胸に向かう。
「何がいいんだ?」
突然余裕の表情を見せられ動揺したが、これが破れるわけがない。
「ほらよ」
!! トラバネは右腕側の刀を握り、血を垂らす。直ぐに俺は右腕の刀を消し投げつけた刀に掴んだ。
「予想通りだぁ!」
投げた刀を、折られた。右腕ががら空きになり、振りかざした刀だけじゃ、腕をおられてしまう。
「まずい――」
「――ッ!」
蔦がトラバネの右腕に巻き付き、動きが止まる。男に対して重心を後ろに変えて距離を取った。
愛莉が俺を助けてくれたのか。
「……何故だが分からないけど、思い出せたの。弘成、希那さんの事も、忘れようとしてた事も。トラバネ、貴方も多少は思い出せたんじゃないかな? なんて。……よろしく♪」
愛莉が、俺の背後の窓から入ってきた。あの時と変わらない愛莉が。
「……愛莉」
「心配しないで♪私達三人は弘成達の味方♪俊樹も殺さずにトラバネ、貴方だけをころしてあげる♪」
「……どういう事だ? 何で急に……」
「急じゃないよ? ずっと前から弘成の味方♪」
「……まぁ、言ってる事は間違えじゃないかもね」
「…………陽向?」
愛莉が出てきた窓から投げ出されたはずの陽向も出てきた。
「私、愛莉の蔦に助けられた。少なくとも、愛莉達を手に回してトラバネに勝てるとは思えないの。だから、私は共闘する」
「…………」
「分かった。愛莉。……また、裏切ったら容赦しないぞ。俺達は烈王さんを助ける為にトラバネを殺すんだからな」
「……利害どころか、目的も一致ね♪トラバネ倒したら、新しく花でもあげようかしら」
「花言葉、ちゃんと調べたんだぜ俺」
トラバネと俊樹の方に俺達四人は向いている。トラバネを殺すしかない。また、あの頃に戻れる様に。
愛莉再登場&共闘!
俊樹の暴走を止められるのか




