第六十二話 魂
健人視点の健人VS糸の怪物
「……最強がその程度でくたばるとは思わないのだけれど」
冷たい声を俺に浴びせる怪物は、貶すような笑みを見せる。
あれから五分も経っていない。強力な能力を攻略する方法が思い付かない。
「……俺の提案を聞け。お前はここで負けて、代わりに俺みたいな奴に取り込まれてくれ。そうすればお前はまだ生きられる」
「……ふふっ。そんな提案、私が受けると思いましたか? ましてやこんな私が有利すぎるこの状況で?」
怪物は笑い始めた。俺の意図に気付かず。
「私の糸を突破する方法は思い付いた? 無理でしょうけど貴方には」
「ははっ」
「……何が面白いの?」
何も気付いていない怪物に思わず笑ってしまった。
「この力量差、気付かないの?」
「は?」
「俺は説得する為にかなりセーブしてる。でもお前は常に本気だ。この理由、分かった?」
「……そんなわけ無い。私はまだ半分も出してないわよ。そんな強がりは――」
「――ムカつくなあ」
これもぽろりと出た言葉だ。前よりずっと自分に素直になれてる。
「怪物はなんでいつも自分達が最強だって思い込んでんの? 俺の怪物だけだよ、マトモなのは。
……まあいいか。本題から入るけど、俺と貴方が力の差があるのか。理由は2つ。一個はね」
「魂の数さ」
「魂の……数?」
これは俺の仮説に過ぎない。だがあの時の体験で理解した。
「一つの身体に一つの魂が宿る。これが全ての生物に当てはまると思うんだけど、怪物を取り込んだ俺等は二つあるから。じゃあ2つ目はなんだって言うと! |君達怪物は弱くされてるってこと。だからそれを理解した俺には勝てないの」
「…………」
怪物の思考が止まったのか微動だにしない。
「それを信じろと?」
「……まあ、信じないなら」
「俺が殺す」
怪物が動く前に俺は力を開放した。まず、この校舎に全ての記憶を探る。クラスメイトを除いた全員の記憶を。俊樹、コイツ、トラバネ、飛龍達の記憶も見る。唯智君と暁さんも居るから二人の記憶も見る。おぞましい光景も中にあったが関係ない。記憶を利用する。敵の全てを把握して誰一人犠牲を出さない為に。
床を蹴り上げ怪物に向かって飛びかかる。怪物は糸を放ってくるが、俺は能力を使い受ける。壁を作りそのまま外から教室へと突っ込んでいく。
「なっ……!? 力で負けてる……?」
「悪いけど遠慮しないから」
巨体をそのまま教室へと押し込んだ。抵抗はしているが、まず俺には勝てない。窓を割り教室にまで押し込まれてもまだ怪物は強がっている。なら、奥の手だ。
「もういいわ! 糸で殺してあげる! 乱れ糸!」
四方から意図が生まれ俺に向かってくる。死なない最小限の防御だけする。
体が痛い。だが、俺の体力を少しでも削らないと説得力は無い。
「死ね死ね死ねェ!」
「……グハッ……ッ」
数発受けただけで立っていることすら出来ない。徐々にふらつき始めていた。
「…………そろそろ使うぜ。奥の手」
「まだ、打つ手があるの?」
「これを見ろ」
胸に手を当て、俺の怪物を呼び起こした。俺の記憶からではなく、直接魂を引っ張ってきた。
代わりに意識が薄れていき、完全にもう片方の魂によって意識を奪われた。
後は全てこの怪物にかかっている。俺は少しの間、眠る事にした。




