第六十話 最強
「着いたわ! 皆降りてっ!」
急ブレーキをかけて車は止まり、勢いのまま車を降りた。
「……近くに怪物がいる」
「……健人、気を付けていくぞ」
最早俺達は全てを知っている。何も恐れる事は無い。
「――上から! 避けろ!」
明人の声に反応し上を見る。見た事の無い怪物が三階から落下してきていた。距離はある。希那さんと合わせればもしかしたら致命傷を与えられるかもしれない。
「希那さんッ!」
「――硝子の世界!」
意思が噛み合った。即座に手を握り二人で硝子の世界へ入り込む。迷わず飛んで全身を切り刻もうとするが近づく事で気付いたことがある。
「全身、針金……?」
今までは一つの硝子で出来た体でしかなかったが、こいつは別だ。針金状の硝子の集合体で出来ている。これじゃ俺の刀じゃ切れないんじゃ……!?
……悩んでいる暇は、無い。斬れないなら叩き割るしかない!
「ッ……!!」
割れ……ない。
「あらあら、いきなりいい攻撃だねぇ」
「でも、それじゃあこの一撃で倒せなかったら勝ち目は無いわよ?」
「――――」
「――死なすかよっ!!」
鈍い衝撃音が耳に入る。俺にではなく空間を殴る音だった。
超至近距離。ここで死なないために刀を投げつけた。
「……カウンター……?」
糸らしき物を操って刀を投げ返そうとしたタイミングで刀が消えた。落下速度はほぼ一緒だが高さは俺のほうが若干低い。健人の能力もあるから、有利なのは俺だ。
「刀を囮にしたのね。彼らよりも強そうで良かったわあ。相手になりそうで」
「……知音の事か……?」
「――殺すっ!」
陽向が怒り能力を撃ちこんだ。跳ね返されたら危険なのに陽向はなんで……!!
「跳ね返して……キャッ!?」
怪物の目の前で爆音を鳴らし光った。お互いの姿や状況が分からない程に。
「中に入るぞ!」
「は!? 明人何言ってんだよ、会った敵は全員倒すんじゃ……」
「――弘成、心配するな。怪物なら、俺一人で倒してみせる」
「健人……」
「……俺は」
「俺は、この中で一番強い。だから、任せろ。知音達を助けに行ってくれ。直ぐに倒して合流しよう」
「…………分かった。皆行くぞ!」
『おう!!』
健人が、一番強い。それは分かっていた。なのに、なんでだ、悔しい。
でも、健人なら怪物を殺してくれる。健人は、俺達なら皆を助けられると信じている。この信頼が、俺達にはあるんた。だから、それを裏切る訳には行かないんだ。
そうして、健人以外で中に入っていった。
* * *
「結構、眩しいわね全く……ってええ? 攻撃して来ないから何かと思ったら中には行っていったの?」
「俺以外はな」
「……君は初めて怪物を殺した子だね……? 可愛そうだねぇ殿を任せられるなんて」
「殿なんかじゃねー。俺一人でお前を殺すんだよ」
「はぁー……。無知な子をボコボコにするのは好きじゃないのよ。どうせ君達は目的も無しでただ味方が襲われたから戦い、仲間が殺されたから復讐する感情生物なんだよ」
「目的ならあるし、無知なんかじゃねえよ。
まず、怪物は元人間。お前も。次に人類側と怪物側の戦いを仕組まれていた事。それを仕向けたのは貴田隆頼。お前らの中には記憶が安定してなさそうな奴が多かったな。お前はどっちだ?」
「…………なるほど。本当に全部知っているようね。でも……私に敵うかしら?」
効果音が聞こえてくるような鋭く速度のある糸が貼られていく。直接触れたらやばそうだ。
……勝って皆の所に戻る。約束を守る為俺は構えた。
* * *
「くっそ……! 皆何処だよ……!!」
「この階にいるはず! 速攻で見つけるよ!」
「――あ」
二階に登った瞬間、血の匂いが充満していた。ここで戦った証拠だ。
「……そんな嘘だ」
「ああ……」
血の匂いを辿った先に見覚えのある人物がいた。
「い……唯智君……?」
「引っかかったぁ」
「あ」
駆け寄った雅姫さんを狙い、トラバネが現れた。多少この距離が空いてしまったから届くかは分からない。でもやるしか……
と、構えた瞬間だった。
「やらせないっ……」
声を同時に蔦のような物がトラバネの能力を遮る。その蔦は見覚えがあった。
「……おいおい、生きてたのかよ。まぁ庇ったせいでお前の能力、使えるようになっちまったな。折角当てないようにしてたのにな! ……」
「……愛莉?」
「……」
崩れた壁の近くには愛莉がいた。
「……ごめん愛莉。俺のせいでこんな事に……」
「――そんなの如何でもいいからよ! 全員俺にかかってこい。皆殺しだ」
…………全員で協力してトラバネを倒すしかない。死んでしまったとしても。
「……俊樹」
ここに居ない事を疑問に思いながら刀を作り構えた。
もう二度と負けられないんだ。刀を強く握り、あの感覚を思い出そうとした。
ここで、暴走したあの力を。




