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第五十四話 夢を見る意味

弘成、健人、明人、希那、雅姫、陽向の六名

「おーい健人! 何か食べられそうなのあった?」


「あったけど……また缶詰しかないよ」


「またかよ……最近お菓子か缶詰系しか食べてないから飽きたわー」



 明人が溜息を付いた。俺も舌が飢えてきた頃だ。



「おーいアキケン! 食べれそうな食べ物あったよ!」


「お!……ってそれ賞味期限切れてないか?」


「ちょっと見せて。……『2017年9月26日』、ちょっと切れてるね」


「肉入ってるけど、3()()ならセーフじゃない?」


「……」



 俺達は悩んだ結果、それを貰うことにした。

 スーパーから出てきた俺達は全ての店を見た事を確認したあと、フードコートで席についた。小規模ではあるが、見渡しも良く、直ぐに外に出られるので怪物や人が現れてもすぐに気付ける。



「今日はまあまあ……かな」



 非常用の食料を大量に詰め込んだ鞄を擦りながら、明人は外を眺めた。



「なんか、あの三人だけ頑張ってる感じするよなー」



 頬杖をついて外を見る姿は少し切なげだった。




「もう時間がない……」



 今日は9月29日。俺には記憶が無いがあと9日でループするらしい。陽向の顔から焦りが滲み出ていた。俺はまだ陽向の言うもう一つの能力が使えない。それさえあれば、もしかしたら全員の記憶が戻せるかもしれないと陽向は言った。



「あ、メール来てる」



 陽向のスマホを三人で覗き込むと弘成からだった。



「『やっぱり人はいなかったし、外に出れそうもなかった。ごめん、今から戻るよ』。……やっぱりか」


「となると、残りは北だけか」



 俺達はこの数日間で前に来なかった西側と東側を捜索した。しかし、死体ばかりで食料も残らず、怪物に破壊された跡だけが残っているだけだった。



「これじゃ怪物追っかけてるだけだな」


「……もしかしたら、北に怪物の基地があるかもしれないね」



 二人の言うとおりだと思った。しかし、仮にあったとして俺達だけで勝てるのだろうか。そんな悩みをしても無駄だと割り切り顔を伏せた。




 それから五分後。行きと同じ格好で戻ってきた事に少し安堵すると、明日以降の準備を行った。15時になったので雅姫さん以外の五人でトレーニングをした。が、未だに俺は能力を使いこなせない。皆はそれぞれで新しい技を作り出しているのに、自分は何も閃かない。結局、誰かの二番煎じになってしまう。



「おう、大丈夫か? ちょっと、息上がってるけど」


「弘成……だ、大丈夫。ちょっとどんな感じにするか考えてただけ」


「……悩みすぎるなよ。健人ってさ、何か一個の事に囚われがちだから」


「……うん。分かった」



 このままじゃ置いて枯れる。弘成は長時間刀を出せないから、即座に刀を出し、その瞬間に飛び込んで斬るという新技を練習している。陽向は全身から一点に、一点から全身に流す特訓をしている。きっとまた直ぐに新技を作るだろう。明人と希那さんは能力の持続時間を伸ばすために連続使用を繰り返している。

 元々の体力が無い俺はあまり連発出来ないし、強度も弱い。


 ただ焦っているだけでその日は終わった。









 * * *

 それから2日後の30日。想定よりも道が荒らされていた事で到着がかなり遅れた。やっと最も北にあるこの町平坂(ひらさか)区に着いた。



「……誰も居ないね」


「うん……」



 希那さんと雅姫さんが足を止めたので全員が足を止めた。確かに人は誰一人居ない。でも、それ以外にも不気味な点ばかりだ。



「健人君、気付いた?」


「……はい。死体も……殆ど無いですよね」



 今まで来た場所より遥かに死体の数が少ない。室内で皆死んだのかもしれないが、普段の人の数と比べてもここが一番多くなるはずだ。



「とりあえず、駅に見よう? ここまで死体が無いってことは駅で生き残ってる人いっぱいいるかも?」


「そうかもですね、雅姫さん」



 陽向の相槌笑顔で俺達を駅まで連れて行く。最初の頃は死体を見る度に俺に触ってきてたのを思い出した。


 俺も正直死体が嫌だったけど、雅姫さんが触れてくれる事で少しだけ緩和されていた気がする。唯智君は普段からこうやってさり気ない気遣いがあったからあんな優しい性格になったんだなと感動してしまった。


 そして俺達は平坂駅内に入った。流石唯一本土に繋がっている駅だけあってかなりの大きさだ。床が傷一つ入っておらず空気も濁っていない良い場所だ。そして、入り口に死体は無かった。



「……本当に人がいるかも」



 希那さんがポツリと呟いたが、全員がその期待を抱いて駆け足で中に進んでいった。



「あ! 人だ!」



 明人が大声を出し指を指す。その指の先には人がいた。近寄って話し掛けようとするがその人は何処か様子がおかしかった。



「く、来るな! また殺すつもりか!? もうやめろ……夢を見せるな……アアアアァァッ!」



 く、狂っている……。誰もが口に出さなかったが、それぞれの顔を見るにそんな感じだ。周りをよく見渡すと同じような人ばかりだった。



「もう……やめて、くださいっ……」


「ごめんなさい! ごめんなさい! 兄さんごめんなさいっ!」


「母さんは僕が殺したんだ……」


「死ね! 死ね! 消えろよ早く!」



 小さい女の子の悲鳴から、成人男性の悲痛な叫び声が響き始めた。恐らく俺達に気付き、何かと勘違いした。つまり、ここの人達は一度襲われて殺された可能性が高い。



「な、なんかやばいな……」


「あわわ……だ、大丈夫ですか?」


「ぅオレにさわるな!」


「痛っ」



 雅姫さんが目の前の男性を起こそうとすると、突然男が暴れて雅姫さんを殴った。



「おい!」



 俺が怒鳴ると魂が抜け落ちたように倒れ込んだ。



「気絶してる……?」



 とにかく異常だ。一度ここから出て立て直した方がいいのかもしれない。



「弘成! ここから出よう!」



 そう提案するが弘成は動かない。



「弘成?」


「わ、罠か……」



 そう言って弘成も倒れた。



「きゃ!」



 陽向が叫んだ。弘成の靴を貫通して何かが刺さったことが分かった。



「……足元みて」



 なんで気づかなかったんだろうか。大量の撒菱が落ちていた。



「大量やなぁ……」


「……! 誰だ!」



 遠くから隠れていた変な女が出てきた。服装は忍者を模したような姿をしている。



「ニンニンなんつって。私がコイツラをこんな風にしてあげたの。私の能力ならちょろいチョロい!」



 今までの相手の中で一番強いかもしれない。そう思えるほど余裕がある。それにコイツが本当の事を言っているなら間違いなくこの町を殆ど一人で落としたのと変わらない。弘成も倒れた今は戦うしかないが……。



「お前の、能力は何だ?」



 俺が聞こうとしていた事を先に明人が聞いた。



「そーれーはー! ()()()()()()()能力! 拙者は見たことないけどー誰も()()()()()()から幸せだと思うよー?」


「あれを見てもか?」



 明人が指指した先には勿論狂った男がいた。しかし、その男をみても女は顔色一つ変えない。



「んー……。まあ能力知ってるってことはー、君達が例の能力者集団なのかな? じゃあ倒してあげないとだ! 拙者の能力があれば君達は幸せなうちに逝けるねー」



 そう言いながら女はクナイが投げてきた。



「……当たらせない!」



 俺は壁を作り、クナイから身を守った。



硝子(グラス)世界(ワールド)!」



 希那さんが能力を発動した瞬間に俺達三人もその世界へ入り込んだ。

 硝子で出来た女が見えた。四人で能力を使い一斉に攻撃した。



「パキッ!」



 ヒビが入り、一部分が崩れた。しかし、トドメが刺せない。

 時は過ぎ、元の世界に戻る。その瞬間女の身体が吹き飛び、大量の血を撒き散らした。


 いや、血だけではなかった。



「ッ!」



 まずい。撒菱が全員の体に触れて侵食し始めた。当たっていないのは雅姫さんだけだ。



「もう終わったね」




「……なん……で」



最後に希那さんの声が聞こえた。




















 * * *

 …………。

 外から鳥の鳴き声が聞こえる。あれは夢だったのか。



「健人ー起きなさい!」



 一階からお母さんの声が聞こえた。もう朝か。

 布団から出て身体を起こすと日が既に出ていた。夢の内容を思い出すと、夢で良かったような、夢で惜しいような複雑な気分になった。自分に従兄弟がいるかどうかお母さんに聞いてみよう。そう思い、階段を駆け下りた。



「お母さんおはよ……う」



 下には誰も居なかった。テレビは付けっぱなしで、電子レンジも回っている。ああ、そうだ、自分で用意したんだった。

 寝ぼけて忘れていた事に気付き、そのまま登校準備をし、ご飯を食べて歯を磨いて顔を洗って外に出た。



 学校に着くといつもの光景だ。



「だから、お前は誰なんだよ! こっちくるな!」



 弘成や明人に怒鳴られた。誰も()()を覚えていないみたいで、毎日こう言われ教室に入れてもらえない。それに、二人以外は自分に気付かない。だから、チャイムが鳴っても自分は外で独りぼっちだ。



「出席とりますよ。五十嵐君」


「はい!」



 次々に生徒が返事をする。そして十人目辺りか。



神崎(かんざき)君」


「はい」



 教室には()がいる。自分ではない僕だ。気が付いたらいつも教室にいる、本当の僕。





 * * *

 鐘の音が聞こえ目が覚める。



「もう十二時か」



 独り言を呟き、立ち上がる。もう一人の自分に会いに行くのだ。

 屋上まで走り、扉を開ける。



「でさー健人、あの時さー」


()じゃなかったら危なかったぜ」


「だよな、健人以外なら死んでたよな」



 ……いつもの三人だ。俺と知音と陽向だ。でも俺は自分の事じゃない。案外複雑でも慣れてしまったようだ。



「いつからだ?」



 自分がそう呟くと俺は自分の目を見つめ、こう言った。



「ループしてからさ」



 その目は鋭く、自分が持っていない事も持っている事を直ぐに悟った。



「自分らしく生きたらどう?」



 振り返るとあの、いつかの変な女がいた。以前は口元が隠れていて顔が分からなかったが、意外と大人びた顔をしていた。



「自分らしく生きる方法が分からないんだ」


「そんなの簡単だよ? 元々の僕が君じゃないの? 中途半端に生きるのは良くない! そう思わない?」


「今は、皆を守れる能力を持った自分でいたいんだ」



 あれ、能力って何だ? 記憶が何もないのに口が止まらない。誰かが誘導しているようにしか思えない。



「……じゃあ僕君は殺しておくよ」


「え?」


「じゃ」



 そう言って女は消えた。自分は何か悪寒を感じ、急いで教室に戻った。



「今まで騙してたのか偽物!」


「役立たず!」


「なんで、貴方は生きているんでしょうか?」


「近寄らないで」



 皆の拒絶声が耳に入って。矛先は僕だった。



「ごめん皆」


「許すわけ無いだろ」



 弘成の冷たい声がやけに耳に残った。それはずっと鳴り響く。



「死ねよ」



 誰かの声が聞こえ、自分は我にかえり、扉を開けた。



「消したよ」



 散乱した机に椅子と共に無残な姿になった僕。その後ろに椅子を置いて座る女。



「へぇ、僕を殺したんだ」



 屋上から飛び降りてこの教室に俺が入ってきた。



「なぁ、もう一人の自分。これでお前は俺になれるな。さあ近づいて来い」


「おめでとう、認めてもらえたね」


「ちがう……何かがおかしい……()は……」


「……やっぱり中途半端だよお前は。これじゃ僕を殺した意味がないじゃねえかよ」


「まあいい。お前は俺だ」



 自分は、僕はどうしたらいい。身体は動かない。俺になる事を恐れているのか?



「今から全員を殺すんだ。家族も邪魔になるから殺す。敵が雅姫だろうか誰でも殺せる」


「それは……嫌だ」



 一歩ずつ俺は詰めてくる。僕は何も出来ない。現実を受け入れ目を瞑った。



「――諦めるには早過ぎるよ」


「ツッ!!」



 聞いたことのある声だ。



「お前ッ何でいんだよッ」


「こんな夢に踊らされないように、()は戦うんだよ。彼の為に」



 彼女の声だ。



「もしかして……ソラ?」



 目を開けると、その先にソラがいた。
























 * * *

 気が付くと、私の部屋に居た。何かが起きたはずだが、記憶に無い。部屋を出て、リビングに向かう。



「あ、お父さん……」


「……ごめんな」


「何が」



 親子の会話だがそこまで仲は良くない。多分お父さんも気付いている。



「お母さんを殺したのは私なんだ」


「……は?」


「ごめんな……ごめんな……」


「違うって。殺したのは――私だよ」



 口が勝手に話し出した。



「君! 親殺したの!? いやー凄いなー行動力。若さを感じるね」



 忍者女だ。これは夢なのか?



「何が言いたいの」


「いや、親子揃ってお母さんを殺した、だなんて面白いねって。君達二人は人殺しで、恨まれてるんだよ?」


「……っ」


「……黙れよ」



「え?」



「――娘の悪口を言うな」




 この台詞は昔聞いたことがある。……なんで忘れていたの。記憶が次々と沸き出す。それは、お母さんの葬式で泣き続けた私を支えた言葉。その言葉で、幼い私をずっと庇ってくれていた。そういえば、あの頃くらいから明人とも仲が悪くなったんだ。



「……お父さんは何も悪くないよ。悪かったのは全部自分だけだよ」



「――だよねぇ。実は知ってたんだ。このくっさい台詞も言わせてみたんだけど、どう? 貴方は親を殺した屑なんだって、分かった?」



 嘲笑う唇は真っ青で汚く見えた。



「これは夢じゃない……」


「そう、現実よ」


「そう、現実。こんなのは()()にすらならないよ」


「は?」



「こんなのはトラウマじゃないのよ!」



 叫びながら、女の胸倉を掴んだ。布は伸び切り、千切れた。







「ハッ」



 目が覚めた。あれは夢。今、私は敵の能力を破ったんだ。



「なんで、起きてるの?」


「どうやら私、何も怖くないみたい」


「助けて陽向ぁ〜!」



 震えて腰の抜けた雅姫さんが私の体を抱き締める。普段と変わらない声を聞いて、私は安堵した。現実である、と。










 * * *

 ここから抜け出せない。現実だった。もう、手遅れだ。



「俺、皆殺したのに……終わらねえじゃねえか」


「だって、現実だもん。君は死刑で人生終わりだよ」



 そんな事を言っている女を、無視し続けている。でも、その言葉は胸に深く刺さる。



「弘成のせいで」


「だから俺達は逃げた」


「最低の生徒ですね」


「信じてた」


「お前のせいで、俺はここにいない」


「信じられないよ弘成」


「付いてけねえよ」



 七人の声が。別れた七人がまとわりついてくる。離してくれない。



「もう……離してくれよ」


「……」


「もう限界だ……」



 能力が使えない。自害出来ない。生き地獄だ。








 * * *


「早くこの夢から出せよ」



 俺は忍者女に向かって叫んだ。



「無理だよ、これ現実だから」



「こんな地獄みたいな日々過ごしたくはねえ。それともお前殺せば終わるか?」


「……ヤります?」


「殴り合い……しようや」



























 * * *


「僕は如何すればいい?」



 世界にはもう四人しかいない。僕と、俺と、私と、女。そして僕だった死体。



「決まってるよ。消えたほうがいい」


「俺が一番強くて、一番必要とされてる」


「自分を信じて」



 どの言葉も聞きたくない。全部聞かなければ知らなかったのと一緒だ。



「――俺は私の影響で生まれた物で、貴方個人じゃないのよ」


「はぁ!?」


「……この世界じゃ貴方()は能力は使えない。でも、私なら貴方の能力を使える」


「でも……」


「今ならここにいる六人全員の記憶を戻せる」


「貴方が一番欲しい能力よ」



 不安がよぎる。これは本当は自分自身が恐れて封印していたのかと。



「俺はそんな能力いらないね。戦って殺す為以外に要らない」


「僕は……欲しい」


「なら、私に触れて」


「させるかよっ!」



 俺が襲い掛かってきた。能力の扱い方は今の自分と全く違った。



「……!」



 自分らしさって何だ。ただそれだけに囚われていた。弘成が言っていた通りだ。過去の自分の方がこんなに使いこなせてるじゃないか。足りない部分が僕にあるなら、彼を取り込めばいい。そうだ。何れ俺は何処かで躓く。きっと、気付けないまま終わる。なら、僕が彼を取り込むべきなんだ。

 僕は、手を出した。



「僕は、僕らしく。いや、違うな。君も僕だ。だから、神崎健人らしく、戦いたい」



「なっ――」



 言い終わる前に俺は消えた。残ったのは、僕だった()と私と女だけだ。



「……さあ、俺達の記憶を。全て教えてくれ」


「……貴方はこれから全員の記憶を見る。崩壊してしまった場合は、私も抑える。後は外の皆に任せるつもりよ」


「分かってるさ。こんな幼稚な夢なんて終わらせる」



 女は俺を止めようと攻撃してくるがどうでもいい。記憶を呼び起こす。たとえ、それに希望が無くてもいい。真実を、俺は知るため、過去を再生した。

次回真相。


陽向は夢を見ず。明人は夢と知り、健人は夢を認め、弘成は夢で踊る。

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