第五十一話 建前
前回までのあらすじ
烈王死亡!残った三人でトラバネを倒すことはできるのか……!?
ああ……どうしてこんな事に。兄さんが殺された。それだけしゃない。僅か二分で、全滅だ。
弘成は片膝を付き息を切らし、愛莉は無数の蔦の隙間がドンドン広がり始めそこから見える顔から疲労している事は間違いない。そして、あの男。トラバネと名乗る奴は何一つ疲れを感じさせない。それどころか初めよりも生き生きとして見える。
「おいおい、どうした? さっきまでの威勢は何処いった? 期待外れだぜ、さっさと俺養分になれ」
「くっ……そ!」
愛莉の蔦がトラバネに向かって飛んでいくが、奴は微動だにせず、ただ右腕を差し出した。
「ふん」
軽く衝撃波で蔦を吹き飛ばす。最早奴には能力が通用しない。これ以上の能力の使用は体が持たない。少なくとも私達三人はそうだ。というか、私の能力は効かない。このままだと、駄目だ。
「……トラバネ。五分以内に全員とどめを刺してくれ。オレは玄関で待ってる」
「はぁ? ……面倒くせえガキが。さっさと行ってろ邪魔なんだ」
「……後二人……」
不穏な事を呟きながら俊樹は玄関に戻っていった。まさか、真凛と陽向を殺すつもりなのか?
まずい。早くコイツを倒さないと。イメージするんだ、自分がガラスの世界に入って壊す感覚を。心の世界へ。
「意気揚々と剣振り回してた割に、強くねえなガキ」
「……」
「お前の身勝手な行動で全員死ぬ! お前が選んだんだよこれをよ」
「……ない」
「……あ?」
「全滅、させないッ!」
弘成が立ち上がって刀を構え直した。
「そんな事しても意味ねえよ! ……な」
弘成の何かが変わった。説明出来ないというよりは理解出来ないが正しいかもしれない。さっきまでのぐちゃぐちゃだった息も聞こえないほどになり、異質な空気が周囲を冷やしていく。
「なんだ、それは」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
何かがおかしい。今弘成を止めないと、人で居られなくなる感じがする。
「かかってこいよガキ」
冷風に砂が乗りまた吹き荒れる。砂が掠る度傷が増える。それでも弘成は構えている。今の彼の目は敵に見せるべきでないほど澄んでいて狂気的な目をしていた。
まるで怪物。
「……う」
目で追えるのに、追いきれていないような不安を感じる動作。気が付くと奴を斬っていた。血がダラダラと垂れて、初めて斬られたことに気付いたようだった。
「……ゔ」
弘成の動きが止まった。どうして?
「…………はあはあ。トラバネ油断すんな。オレのゴーストいなかったら死んでたぞ」
弘成はバランスを崩し倒れ、首元で小さな幽霊達が空気に溶けて行ったのが見えた。
「八体全部使って六体も殺されるなんてな。あの状況で斬りかかるとかバケモノだ」
「ああ、今回ばかりは同感だな……まあ、いいさ。後二人は任せろ。殺しとく」
今度こそ俊樹は玄関に向かっていった。……なんで、なんであの子は戻ってこれたんだ。やっぱり弘成の事も、私達の事も、何かを握っている。私と愛莉ちゃんだけで奴を倒す。それが、今だ。
「硝子の世界」
私以外全員硝子に。世界を硝子に。大切な事はそこに映る自分の心と外の世界を重ねる事。硝子は内と外の境界線。この世界は私だけの物だ。
「割ることが出来ないなら……!」
私は硝子の奴の胸に両手をねじ込ませる。ドロドロとした肉体を貫通し、そのまま引き裂いた。これで五秒。
世界は戻る。
「…………」
「どう? これでおしまいよ!」
「馬鹿だな」
「え……うぶっう!」
口から血が溢れだし止まらなくなる。砂が腹を貫き、食道から喉まで砂が上がり込んでしゅっけつしていた。
「お前の能力も何となく把握出来た。お前を取り組んだときには本来の力を使いこなせそうだ」
意識が眩みだす。死ぬ? そう考えただけで恐怖が身体を支配する。うずくまっていると愛莉が動き出した。
「……投了ね♪ アディオス♪」
愛莉が一目散に窓に向かって走り出した。体力は温存していたのかかなりの速度で走っていく。多分これにはトラバネは追いつけない。
「よっと」
愛莉が弘成の死体を蔦で引きづりながら逃げていく。まずい。このまま弘成を持って行かれたら如何すればいいんだ。私しか今は守れない。
「硝子……世界ッ」
再度硝子の世界に入る。最終奥義を使う。掌を蔦で囲われた愛莉に向ける。そして、それをねじ切った。三秒しか居られなかった。
弘成を掴んでいた蔦や、大部分の蔦をねじ切った事で愛莉を囲う物は何も無くなった。彼女は気付いたが振り向きもせずに窓の外に消えていった。
* * *
オレは今、保健室の前で立っている。先生の逃げ足には驚かされた。アイツは死んだふりをしていたようで、いつの間にかいなくなっていた。だが、そんな事はどうでもいい。恨みを晴らすんだ。陽向を殺す。それで全て報われる。
「……皆を殺したの……俊樹?」
「ああそうさ」
だが……邪魔が入った。彼女は真凛。オレの幼馴染で、一番会いたくない相手だ。
「もし陽向を殺すつもりなら、私が止めるよ」
「ああ、殺ろうぜ」
まず彼女を殺して、陽向も殺す。そうしよう。
「幼馴染でも容赦しないから」
「オレもだよ」




