第五十話 本音と建前=感情
とうとう50話達成。
前回までのあらすじ
ついに裏切り者の正体が発覚。そして現れる過去の虎羽とは全く違う風貌をした男の登場に激震が走る。
今回は知音視点と烈王視点です!
「チッ、知音。悪いがお前と戦う必要はなくなった!」
突然、魔莢は攻撃の手を止めた。俺も素直に攻撃を辞めた。
「悪魔が来た。このままだと俺達全員殺されるぞ。逃げるか、残って死ぬかだ」
「……意味分かんねえよ。お前は怪物達の仲間なんだろ?」
「……俺等は怪物と手は組んでいるが、どうやら上は許さないみたいでな。俊樹はその犬なんだよ。――いや、飼い主か」
「まあ、どうでもいいよな。もう俺とお前は二度と出会わない。あばよ」
「――待て! て、提案があるんだ」
俺は魔莢の手を掴み、踏み止まらせた。魔莢の腕は汗で塗れベタベタしている。額からも汗が滲み出て、焦っているようだった。俺も死にたくない。だから、たった一つの望みに賭け、魔莢に縋った。
* * *
「何で、何でだよ俊樹。裏切ったのか!?」
「そうだよ。烈王さん。本当はいつでも良かったけど、この四人が揃うタイミングが良かったんだ」
希那の事。俊樹の事。余りの情報量に理解が追いつかない。
自分の声がとてつもなく震えている事に気付いた。裏切り。これは今までだって何度も起きた事だ。その度犠牲が生まれ、誰かが必ず泣いた。彼等に出会う前の記憶と重なる。
「うるさいなぁ……♪ 俊樹もでっかい奴もアナタもみーんな殺してあげるから♪」
「愛莉さん――」
「黙れ。」
弘成が俺の言葉を遮った。その目からは炎が出ているかと錯覚する程の鋭い目つき。こんな弘成は見た事がない。
「そうだ……希那! 能力をいつから使えるように」
「兄さんと同じだよ。この惨劇が始まった時からよ」
「ずっと、逃げてきたってことか」
能力を持っている自分自身を恐れ、逃げ惑っていた事に俺は今更気付いた。
「オマエラさ、俺を前にしてペチャクチャしゃべってんじゃねーよ」
見た事のある顔だ。だが、首から下は全くの別人で、ガッチリとしている。
「……お前は、虎羽永久の兄か?」
「烈王、よく分かったな。一ついい事を教えてやるよ。アイツは俺だ」
「……は?」
思わず、口に出てしまった。どういう事だ。
「オレは完成体。オマエラみたいな欠陥品に負けるわけ無いだろう。四人で掛かってこいよ」
「言われなくても……!」
俺の戦闘力は、はっきり言って一人じゃ弱い。でも、俺には妹がいる。
「希那、任せたぞ。カバーは俺がする」
「分かった。あの二人を絶対に倒そうね」
「ああ!」
「五秒で決着を付けよう」
そう言って希那は扉を作り、俺の手を掴んでその中へ入り込んだ。中はすべての物体がガラスのように反射しているように見えている。不思議な世界だ。
「こ、これは?」
「説明の余裕はないけど……この中にいると五秒だけ外の時は止まるの。その間に攻撃を仕掛けよう。バレたら兄さんの能力ね」
「ああ、分かった」
「五秒経過」
「なるほどね……クールタイムは?」
「……10秒」
何とか理解する事が出来た。次の五秒間で出来るだけダメージを与えたい。心を落ち着かせよう。
「砂+衝撃波! 喰らえ!」
砂がトラバネを中心に吹き始める。この程度の威力なら……ッ!
「グッ!」
たったひと粒に触れただけで、人の数倍の力で吹き飛ばされる。俺と希那は壁に打ち付けられたが、他の二人は平然と立ち尽くしている。
「全員絡め取りましょう♪」
愛莉は巨大な植物で自らを守りつつ俺達に向かって攻撃を仕掛けている。
それに対して弘成は刀を握り、構えるだけだ。今なら少なくともトラバネ達に愛莉に合わせて攻撃出来る。希那とアイコンタクトを取り、作戦を伝えた。コクリと小さく首を振り再度能力を使う準備を始めだした。
「まだ八秒だよなぁ!?」
サラサラと小さな音が真上から聞こえた。
「まさか!?」
「――嘘よ」
目の前には扉がすでに開かれていた。咄嗟に前に走り出した。
また、ガラスの世界だ。ガラスになったトラバネ。俊樹、愛莉、弘成。植物までもガラスになっていた。
「私のクールタイムは七秒。兄さん、これ」
何かを投げつけられ、思わず掴んだ。これは、トンカチだ。
「速攻で植物とトラバネ砕いて!」
「ああ!」
目の前にある植物を叩き割り、トラバネに向かって走った。そして、右腕をトンカチで叩いた。が、全くヒビが入らない。
「硬すぎる……」
「もう解除されちゃう! 避けて!」
「ッ!」
世界が戻り、目の前の物体も人になる。トラバネと目が合い、奴は殴る体制になった。ここからは反応速度の違いだ。俺の方が僅かに速い。重心をずらし、身体を思い切り反らす。殴られるタイミングをほんの一瞬だけずらす事ができた。男の足に触れ能力を使う。鈍くさせる事で愛莉の攻撃を直でトラバネは食らった。
「よし! ……!? 何故グァ!」
傷一つ付いていないトラバネの笑顔は、不気味で、人間を捨てようとしているのが直ぐに分かった。
今度は俊樹の足元まで吹き飛ばされた。
「残念だ……」
俊樹がそう呟いた。俺は、俊樹を目の前にして殴る気力すらなくなった。立ち上がれないからじゃない。その表情には複雑な感情が混ざって見えた。
「…………今まで殺されてきたのも演技だったのか?……」
「そうだよ。陽向にワザと殺されて自分の能力が操れない。そう思わせるつもりだったが、まさかね。完璧に使いこなせるとは驚いたよ! 一番、殺したい相手だけどな」
「……なら、何で殺さなかったんだ?」
「関係ないからさ」
「お前は陽向を……殺せないんだな」
「……殺してないと言ったか?」
「殺したとも、言ってない」
「黙れよ!」
顔を蹴られ、天を仰いだ。
「お前……建前だけか? 違うだろ、思考止めんなよ」
「兄さん! 今、助けるから!」
「愛莉……お前を」
「みーんな殺すね♪」
さようなら、希那。さようなら、人生。俺達はここで絶対に勝てない。自業自得だ。俺は罪を償えるのだろうか。今まで流れなかった走馬灯が流れ出した。
小さな頃の思い出。両親と俺。少し経って希那。気が付くと周りには雅姫に暁達がいる。家族を失った哀しみも、親友との思い出も、すべてを思い出した。忘れたい記憶なんて俺の人生には無かった。
ラストシーンを除いて。
――もしも、この世界の主人公が俺ならはっきり言ってクソ映画だ。夢も希望も何一つ残らない終わり。でも、それでも俺は夢と希望を抱いて死ぬ。だから、だから……。
「……生き……ろ」




