第四十五話 夾竹桃
学校全体にチャイムが流れる。この鐘は14時5分の鐘だ。今頃三人は目を覚ましただろう。
「ありがとう、愛莉。俺はそろそろ三人が生き返った頃だと思うから失礼するよ。また後で」
「待って!」
「? どうした?」
愛莉に腕を掴まれ止められる。
「皆で内緒でさ、手伝ってほしい事が有るんだけど……」
「いいけど、何?」
「家に来てほしいの」
「家……確か愛莉の家ってそこまで遠くなかったっけか。でも、二人だけで外は危険じゃないか? もっと多い人数で行った方が」
「――弘成なら私も守れるでしょ。いっぱい居たら遭遇した時に逃げるのも大変だし。今動けるのは弘成しかいないんだよ?」
「……分かったよ。詳しくは分からないからエスコートしてほしい」
「うん!」
俺達は音楽室を後にした。
* * *
職員用の裏門に着く。何時もなら来賓の人の車とかで埋まっていることが多いが、今は先生の車しかない。お陰でここら辺は見通しが良い。
「さっさと抜けようぜ」
「分かってるよ! さ、走って」
愛莉が走り出したので見失わない内に俺も走り始めた。
それから、五分後。全力で駆け抜けている為汗だくで苦しい。愛莉もかなり速いが、汗をかいているだけで顔は余裕そうだ。
「そういえば、愛莉ってハーフだったよな」
「うん! イギリスと日本のハーフだよ? でもいきなりどうしたの」
愛莉は満面の笑みになった。その顔が、汗のせいか綺麗な顔立ちを強調しているように見えた。
「家に着いたよ」
「ハァッ……ここが家、って大きいな! 初めて見たかも……」
「でしょー? パパとママ凄く稼いでいるからねー」
お父さんがたしか先生で、お母さんがなんか凄い仕事らしいんだよな愛莉は。
「さあさあ、入って。汗とか凄いしタオルも貸すよ」
「ああ、ありがとう」
愛莉の家に入るとラベンダーの香りが玄関中に広がっていた。玄関もかなり大きい。そこから室内を見ると天井も高くて、本当に海外の映画でしか見た事がない超巨大な家だった。
「上がってて!」
俺はその言葉に従って靴を脱ぎ、大きなリビングで立ち尽くす。
「弘成ーホイッ。あとコレも!」
「お! ありがとう」
タオルと制汗剤を投げ付けられ俺は掴んだ。これも肌触りがとても良いため凄く高そうだ。制汗剤も見た事がないのかもしれない。
「ありがとう、このタオル……どうすればいいかな? 持っていって洗って使う?」
「あー、いいよ大丈夫。適当に水につけておくから」
「……愛莉、ここに来た目的は?」
「忘れ物があったので♪」
「そっか」
「ソファに座ってていいよ」
「分かった」
愛莉がタオルと制汗剤を片付けてくれた。探し物を見つけに階段を昇っていった。俺はソファに座る。これも高いんだろうな、凄くフカフカしている。
「上がっていいよー!」
上から愛莉の声が聞こえた。部屋の片付けでもしていたのかな? 俺も階段を昇り、扉を開けた。
「おぉ〜凄え広い……」
「いい部屋でしょ?」
自慢気にしている愛莉も顔が良い。部屋はカラフルで今まで思っていたイメージとは違った。それに、部屋も綺麗で、花が飾られていた。
「これ、何ていう花?」
窓際に飾られた花を見つけた。見た事のある黄色の花だが、名前が思い出せない。
「これは、マリーゴールドだよ! 花言葉は、健康って意味があるの。だからいつも部屋に置いてる」
「なるほどね!」
花言葉を考えて花を置いてるのはなんかお洒落だ。
「……探し物はもう見つかったから、帰ろう」
「帰りも俺が守るから慎重に行こう」
「……本当に最後の最後のお願い」
愛莉から俺に思い切り抱きついてきた。身動きが取れないほどの力で、愛莉の顔は俺の胸に伏せて見えない。
「あのね、ずっと思ってたの。一緒に逃げようって」
「逃げ……一体どう言う……グウッ」
唐突に頭痛が起こった。またあの副作用だ。
「……!! ごめん弘成! 変な事言っちゃったよね、許して」
「う、う……ん。大丈夫だよ」
この頭痛を我慢して帰らないと。千鳥足のまま愛莉に支えられて階段を下り、外へ出た。
「そうだ……。しつこいって思われちゃうかもだけど、もう一本見せようと思ってたのがあったんだ……今持ってるんだけど」
「あぁ……ちょっと見えづらいけど」
「じゃーん、この花。桃に近いけど違うよ。夾竹桃って言うの。花言葉は――」
「……誰だあの人」
目の先に見知らぬ女がいた。こっから大体50m位の距離だ。俺と目が合いかなり動揺して見える。見た感じは年上、高校生くらいか? お互いに一歩も動かない。最悪の場合、俺が愛莉を守りつつ戦わないといけない。出来るだけそれは避けたい。
「如何するの、弘成」
「もう少し待とう。何かしてから行動する」
小声で相手に届かないように話す。向かいの女は何もして来ない。もしかして、普通の生き残りの人なのか? それでも能力者だった場合がとても怖い。お互いに動こうとしなかった。先に行動したのは相手からだ。
「……助けてください」
絞り出すような声で俺達に叫んだ。
「なんだ、普通の人だったね」
「た、確かに」
「……わかりました! 大丈夫ですよ! こっちまで来てください!」
話した感じは、普通の人だった。これなら、能力を使う必要も全く無い。安全だ。
「一緒に学校まで……ッ!」
頭痛がまた起きる。でも、この頭痛は明らかに今までとは違う。というか、思い出した。
「……やっぱり俺、この人見た事がある」
「…………え」
この人は間違いない。この人は――。
「――誰だよ、その女は」
「!?」
聞き慣れた声に驚き、俺は振り返った。
「……何でここに」
「俊樹ィ?」
愛莉でさえ、動揺している。相手の女もこっちに向かう足を止めた。
「ずううっと見てたからな」
俊樹がまるで俺達の悪事を暴露するような雰囲気を醸し出した。
「お前ら三人が……」
「『裏切り者だろ!?』」
俊樹の誤解を、どうにか解かなくては。全ての事情を語る事にした。
四つ巴だ




