第四十三話 扶郎花
「今……何日ですか」
「今日は……三日しか経ってないから……9月17日」
「何か……大切な事を忘れているような――」
「弘成! 目、覚ましたの! 良かった!」
気が付くとベッドをいつもの皆が囲んでいた。
「ああ、うんなんとかね、愛莉達はどうだったんだ?」
「まだ一日しか経ってないけど、皆で食事作ったり、近辺を色々回ったりしてたんだよ!」
「まあ、流石に危険だし先生と一緒に10名程度で食べ物を探してただけだけどね」
「魔莢! 勝手に割り込まないでよ!」
「仲良いね」
「良くないってば!」
相変わらず愛莉達は楽しそうだ。
「はいはい。弘成の事心配なのは分かるけど、さっき迄寝てたのだから、離れてあげましょう皆」
ドアが開く音がし、担任の鈴木先生が入ってきた。
「少ししたらまた話そうなー」
「頑張ってね!」
「また遊ぼうなー」
友達が、次々とこの部屋から出て行く。最後に残ったのは鈴木先生と愛莉と魔莢、雅姫さんだ。
「あぁ〜もう寝ようかな」
「おや、この間見た時には無かったクマが出来ていますね、今すぐ寝たほうが良いですよ。ベッドは埋まっているので、よければ職員室を貸切ってそこで寝かせてあげられますが」
「お願いします〜……」
鈴木先生は見た目が中性的で、長髪なので普段は髪を結んで下ろしている。それに加えて性格まで良いのだからかなり女子受けが良い。
鈴木先生は雅姫さんを連れてこの部屋から出て行く。
「……そういえば、唯智君と利名子はどこ?」
まだ残っている魔莢と愛莉に尋ねる。
「唯智君なら、皆が可愛がってたよ。夜中に大慌ての時からずっとね。多分利名子と一緒に、今頃は私達の教室で誰かと居ると思うよ」
「そっか魔莢。……なあ、隣のベッドには真凛が居るんだよな?」
「うん……まだ起きてないけどね」
隣のベッドはカーテンで仕切られているので様子が見えない。
「他に死んだ人達は?」
「えーっと……利名子から聞いた死んだ順番に並べてたから――」
「健人、明人、俊樹は職員室に。烈王さんと知音と陽向も同じ職員室だけど、違う所に置いてるよ」
「それ私が言うつもりだったんですけどー」
愛莉が不満げな顔をして魔莢を睨んだ。
「……それじゃあ、もう出ていくよさよなら弘成」
「おう! じゃあな!」
魔莢は部屋から出ていった。残りは愛莉だけだ。
「二人きりだね……」
「真凛も、一応居るけどな……」
「……ねぇ、弘成。貴方に渡そうと思ってた花があるんだけど……」
「? 見せてくれ」
「これ!」
手品のように突然背中に隠していた花を、俺の目の前に出して見せた。ピンク色の一輪の花で、そこまで大きくはない。でも、綺麗な花だ。何処かで見た事があるが、名前が分からない。
「これはね、ガーベラって言うの! 私、花が好きでねぇ……そうだ! クーイズ! ガーベラの漢字と、花言葉は何だ!」
「これ、ガーベラって言うんだ……。勉強になるね。漢字に花言葉、うーん……聞いたことがないな。何だ?」
「答えはね、扶郎花! 手へんに夫、太郎とかの郎に花って書くのよ」
「へーそうなんだ。変わった名前だな。で、花言葉は?」
「――花言葉はね、……希望って意味があるんだ」
「希望……ありがとう。嬉しいよ」
「――良かった、喜んでもらえて」
「色にも、意味とかあるの?」
「色にも意味があったりするよ。ほら、こういう状況だし、色々と調べて覚えてみようよ! 楽しいよ」
「……そうするよ」
「……じゃあ、そろそろ出ていくね。それと、体調良くなったら一人で音楽室に来てね」
「? 分かったよ」
そっけない態度で出ていった。いつもとは雰囲気が若干違った。
「さてと……」
この部屋には俺と真凛だけだ。
多分、ここは保健室だ。俺はあまり保健室を訪れる機会も無いので、初めて保健室のベッドで寝た事になる。そう考えると少しだけ気持ちが上がる。
「ッ……!」
まだ頭が痛む。能力の副作用だろうか。やっぱり暫くは安静にしておくか。
「寝るか……」
カサッ。隣のカーテンがほんの少しだけ、揺れたように見えた。
「……」
別に、何かいやらしいことを考えてるわけではない。ただ、隣が気になっただけだ。そう自分に言い聞かせて、カーテンを掴んだ。
チラッと中を除くだけにしようとほんの少しだけ隙間を開けて除く。
「…………あ、ごめん真凛」
そこには、しっかりと目を開け、こちらをガン見してくる真凛がいた。勿論、服は着ており、パジャマのような物を着させられていた。自分の服も色違いのパジャマを着ていた。
「いつから、聞いてた?」
「皆の声が聞こえた辺りからかな」
「結構、さっきだな」
……。何か気まずい空気になってしまった。話を繋がないと。
「真凛……は、体調とか大丈夫か? 俺は頭痛が酷いんだ」
「私は、今の所は何もない……けど」
「けど、また誰かの血を飲むんじゃないかって、怖くなるんだ。誰かを襲って、取り返しのつかない事になったらって考えたらさ」
不安そうに俺を見つめてくる。思わず目を逸らしてしまったが、もう一度見つめ返した。
「心配は要らない。もし誰かを襲いそうになった時は、俺達が必ず止める。陽向達も必ず止めるさ。俺達は、仲間だからな」
「その言葉、信じてもいい?」
一瞬だけ、充血したように目が真っ赤に染まって見えた。俺は、その目に合わせて話した。
「誓うよ」




