第四十二話 無表情
「……急に、どうしたんですか」
……。
「……何の用ですか」
その言葉で意識を取り戻す。ここは何処だ。真っ白で汚れのない、見覚えのある景色だ。目の前にはベットに腰掛けている純真無垢そうな少年がいた。
「……良かったら椅子にでも座ってください」
「……ああ、ありがとう。でも、遠慮しておくよ」
そのまま俺は立ち尽くす。何の目的で俺はここにいるのか。
――すぐに思い出した。俺はこの少年がプロメテウス計画の実験体に選ばれた事を、祝いに来たんだ。
「そうだ、おめでとう! これで君も、人の為に生きる事ができるね!」
「そうですね」
「俺達四人で、君をサポートする。五人で、世界を作
り変えるんだ」
「!……」
「……どうしたの? 下を向かなくていいよ、大丈夫だって」
少年は下を向いたまま、顔を上げようともせずに話を続ける。
「弘成さん、ボクはアナタが他の三人と違うと思ってたんですよ。今の惨状を、不幸だと理解出来る人だと」
「……俺は、今を不幸だとは思わないよ。幸福も不幸も平等にあって、その不幸だけを少し減らすつもりだからさ」
「ならさ……今すぐボクを助けてよ。そんな……そんなつまんなそうな顔で見てんじゃなくてさ!!」
少年は怒りを顕にし、俺に向かって右手を伸ばした。が、壁のパイプに繋がれた手鎖のせいで届く事はない。
「さっさとこれを解いて! こんな所にボクは居たくない!」
「それは無理だ。俺は鍵持ってないからね」
「洗脳されてる事に気付いてよ! 記憶なんて、簡単に操れるんだぞ!奴なら!」
「……今日はここまでにしておくよ。バイバイ」
「――怪物と同じじゃないか。無表情の怪物」
* * *
ピシャ!
近くで雷が落ちた。それに先程までの匂いとは違う香りに包まれる。どうやらまた場所が変わったようだ。辺りを見渡した。これもまた、見覚えのある景色だ。
「こんばんは、お兄ちゃん見なかった?」
この声は聞いたことがある気がする。振り返ると綺麗な容姿をした女性がいた。香水の匂いが嗅いだことのあるような匂いで、誰かに似ている。
「烈王さんなら、外の空気を吸ってくるって言ってましたよ」
「そっか。ありがとう! 弘成も……あの子と仲良く出来そう?」
「…………元々、顔見知りだから仲良くなれると思ってたんですけど、俺が何か話し掛けても、なんか興味がなさそうで……」
「えー! そうなんだ! でも、あの子に聞いた時は仲良くなりたいって言ってたけどなー」
「ちょっと、希那さん本当ですか?」
希那さんはニヤけながら俺を見ている。
「君の事が好きみたい」
* * *
爆発音が轟く。その衝撃で気を失っていた俺は目を覚した。ここは……どこだ?
「弘成! 逃げなさい」
「希那……さん?」
ボロボロになった希那さんが、倒れてこちらを見ていた。辺りを見渡すと、謎の機械ばかり。誰も居ない。
「ど、どういう事ですか?」
「!! 貴方はまだ何も見ていないのね……なら、今すぐ此処から出て行って、殺される」
「分かりました」
俺は希那さんに背を向けて走った。ここで違和感に気付いた。自身の思考と、行動が一致しない。というか、勝手に体が動いている。
「こんな下らない事、ここで終わらせるんだッ!」
灯りもない為どこにいるか分からないが、声が聞こえた。中性的な声だ。この声は、聞き覚えがある気がする。
「どこに居るんだエ――」
* * *
チュンチュン。何処からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。目をさました俺はゆっくりと瞼を開く。
「あぁ……? 起きたぁ? ……よがっだぁ」
声のする方向に目を向けると、目の下に深いクマが出来た、雅姫さんが椅子に座っていた。目以外は保健室に居ても何ら不思議はない様子でいた。
「……ここは?どこです?」
「……ごめんね、君達の学校なの」
雅姫さんは深いため息をつきながら自分を責め立てるように、頭を抱えた。
「……弘成君が目覚めたのは良いことだけど、まだ陽向ちゃんは目を覚まさないし、殆ど死んじゃったからどうしようもなかったの、ごめんなさい」
「い、いや謝ることなんてないですよ。それと、ため息は吐くと幸せが逃げますよ」
「はは……そうよね、次からは気を付けるわ。体は大丈夫そう? 副作用とか」
「大丈夫ですよ! 今の所……は」
激痛が脳に響く。何かを忘れたような感覚。
「俺は……」
「? どうしたの?」
「俺は、どうしてここに?」
「え? 今言った通りだけど……」
「今まで……俺は何をしていたの?」
雅姫はあれからずっと起きていたそうです




