第四十一話 明暗
現在生き残り
弘成
烈王
陽向
真凛
利名子
唯智
「グッ……ガハッ……」
「……! 烈王さん⁉」
烈王さんが血を吐いて倒れた。これが副作用か……。反動があまりに厳し過ぎる。陽向が駆け寄ったが既に烈王さんの息の根は無かった。
「……陽向、真凛。……このタイミングで悪いと思うが、話があるんだ」
「……」
烈王さんにも話す予定だったが、死んでしまったのでしょうがない。今しかないと思ったが、二人は黙り込んでいる。何故だろうか。……烈王さんが死んだ所を見るのは初めてで、とてもショックな筈なのに、涙も出ない。俺は既におかしいのかもしれない。
「……分かったよ。それに真凛も、能力手に入れたし一緒に戦わないと」
「うん。……それと、少し相談したい事があるんだけどさ……」
「ああ。陽向に聞けば大体聞けば分かると思うし」
「血を舐めたいって……思う?」
「………………ふぇ?」
陽向らしくない間抜けな声に真凛も少しばかり驚いた。
「え……ない?……」
「ない……かなぁ」
「……」
「……そうだ。真凛、弘成。 これは烈王さんとか知音達にも話しときたい事があるんだった」
「何?」
陽向が先の戦闘中に考え込んでいるように見えたのはこれが原因だったのか? 聞き逃してはいけない。その為に一歩、陽向に向かって近付いた。
「ハッ! 避けて!」
真凛が唐突に叫ぶ。
「……え」
陽向の首筋から血が吹き出し、真凛や俺の顔にも飛び散り付着する。
「いま……来るか」
透明な怪物。実際に戦う様子は俺は見ていない。初見殺しの敵なら、俺に勝ち目は?
「あ……」
陽向の声が、そこで尽きる。
「クッソッ!」
俺達は距離を取り次の襲撃に耐えられるように構えた。陽向の血が、俺の汗と混ざって口元まで流れ込む。同じように真凛の口元にも流れ込んでいた。存在感のあった女と違い、姿も見えない怪物を真っ暗な夜中に見分けるのは不可能だ。
「あ……ああ!!」
真凛の様子がおかしい。汗を飲んだ辺りから不審な動きを繰り返している。目はさっき迄とは全く違う。澄んだ目から、急激に鋭くなった。よく見ると目が充血していた。
「何でかは分からない……けど、不思議と力を感じる。私にも出来そうだよ、弘成」
獣のように。飢えた狼のように、血の匂いを嗅ぎ、倒れている陽向の元へ一直線に走り出す。
「隙アリィ!!」
怪物が姿を現し、真凛の首を刎ね落とす直前で、止められない。
「――待ってたよ」
虎のような凶悪な爪を生み出し、怪物に向かって切りつけた。その瞬間にまた怪物は消えた。姿が見えなくなるとまた陽向の体へと走っていった。性格が悪そうな奴だった。もう一度真凛を狙うとは思わない。次は……俺だ。咄嗟に小刀を作る。
「……ッ」
微かながら背後から鼻息が聞こえた。刺される前に刺す。振り返って小刀を空中に向けて振りかざした。
「ざぁんねん! 死ね!」
背後からの鼻息はフェイクだったようだ。横から現れた手刀が俺に向かう。
「かかったな」
俺は左手で即座に作った刀を握った。思い切り振るが、又もや消えて避けられる。埒が明かない。次は何処から来る。思考を巡らせる。
そうか。足元を見れば分かる。砂の動きを見極める、それに気付くだけでかなり変わったはずだ。
!! 真正面で砂煙が舞った。ただ砂が動いたのはその一回きりで何も起きない。理解するのが遅れたが、直ぐにその意味は分かった。
「上ッ!」
上を向き、刀を横にして手刀を受ける。
「くうッ!」
その威力に重さが乗り俺は堪えるのがやっとだ。踏ん張りも効かず、ジリジリと一歩ずつ下げられる。
「オニイサンさぁ、どんな状況か分かってる? もう君達は二人しか戦えないんだよ? どうやって最強のオレに勝てるのかなぁ!?」
「お前なんか……別に強くねえよそんなッ……」
「でも、余裕ないよね? 残念だよ。君は適合者なのに弱過ぎる。もとの身体で能力を使えるようにするなんて馬鹿としか思えないよ」
な、何を言っているのか全く理解出来ない。思わず手が止まる。
「……」
油断していた隙に目の前の怪物は消え、見失う。
「ハッ」
足元を急いで見るが、砂が俺から見て正面から左方向に飛んだ。左かっ!
「バーカ!」
背後から何かが俺の背中を貫いた。
「グッ……ぁ……」
声が出せない程の痛み。抗う事も出来ず、少しずつ体の力が抜けていき、刀すら握れなくなり消えてしまった。
「お前はもう……終わりだぁ」
怪物のニヤケ声が、俺の心を握り締める。
「離せぇぇえええええ!!!」
真凛――。
まるで空間ごと全てを壊したような、そんな音が背後から聞こえ、その衝撃が俺の体に響く。
「……ハァッ?」
血の飛沫が、背中に飛び散る。何が起こっているのか確認するため振り返った。すると、身体に刺さっていた手刀まで消えていた。
「はあ……はあ……」
真凛がポツンと立っていた。手は真っ赤に染まり、特に口元からは血が垂れていた。両手とも人間の腕ではなく、爪もかなり長い。
「オラッ!」
消えていた怪物が、真凛に向かって襲い掛かる。俺を貫いた右手は深い傷が付き、血が溢れ出していた。
「な、なんだその速さぁ! さっき能力手に入れてたのは知ってたけど、そこまで動ける奴じゃなかっただろ! 騙したな嘘つきィ!」
「騙すつもりなんてなかった、ごめんね?」
真凛は手を合わせ首を傾げつつ謝る。そして次の瞬間には戦闘態勢に入った。
「ンヴッ……」
速すぎる。真凛は瞬きをしただけで、既に怪物の顔と首を切りつけ、怪物はうめき声を上げる。
「その血、もっと貰うね」
真凛が、怪物の血を、舐めだした。真凛の腕から見える血管はどんどん浮き出て、目は完全に充血し、動物に姿を変えた部位がより太くなっていく。
「……貴方の血、美味しいね。ただ、陽向と違って甘味が足りないかな」
「チクショウ!」
逃げるようにまた怪物が姿を消した。かなり追い詰めたが、ここで逃げられたら意味がない。今殺せなかったら、雅姫さんを守れない。
「真凛! 二人でとどめを刺すぞ!」
「そのつもりだよ、今しかないんだから」
闇雲に刀を降っても意味がない。その為に、足元の砂で判断する。もう一度刀を作り出し、辺りの砂を見る。……そういえばこの戦いでかなり刀を使ってるが、これだけ使っていたらどうなってしまうのか。
……! 約5M先位の砂が動いたのが見えた。砂が俺の方法に向かっていた事から間違いない、逃げている! 地面を蹴り、怪物に向かって一直線に走る。
「逃がすかぁ!!」
「どけ!」
怪物が目の前で姿を現し、手刀で刀に対抗してくる。
「にがさない」
真凛が怪物の背後に追い付き、凶暴な両腕で既に胴体に深い傷を付ける。
手刀の勢いが僅かに弱くなる。左手でも握り、そのまま力を更に加え、右腕を切り落とした。
「終わりだ!」
「ふざけ――」
怪物の首が吹き飛んだ。断面には切り跡。真凛の爪だった。首がゴロゴロと転がって身体の動きは完全に静止した。
「オ、オレは完成な、なのに、くそ、く、そ、死ね、死、ね」
「……」
……なんで怪物達は、いつも死ぬ直前になってこんな無様な言葉しか吐けないのだろう。殺すのが最早可哀想だ。
「……弘成、なにをしてるの?」
「お、俺は……」
脳の処理が追い付かない。俺は今何を考えたんだ? 何を、したかったんだ。オレは……。
「ごめん、弘成。もう、死んでた」
我にかえり、怪物の首があった場所を見返す。そこには、透明で例える事の出来ない形をした物があった。
「……塔が騒がしくなったね! 今から行こうよひろ……な」
「……おい!」
フラフラとした足取りで塔へ向かいだしたが、真凛は地面に倒れ込む。顔を覗き込むと、鼻血が垂れていた。
頭が……痛い。ズキズキと頭が痛み出す。歩く事も難しくなり、その場に俺も倒れる。……目も霞んで……。
* * *
「お姉ちゃん!」
イチ君は、雅姫さんが目を覚ますと同時に、その胸に飛び込んだ。
「生き返った……!!」
どうやら真凛達が倒したみたいだ。私も口角も自然と上がる。
「え?……な、何があったの!? 利名子ちゃんだけ!? み、皆は!? レオは!?」
この空気の中、何一つ知らない雅姫さんは通常通り少し気の抜けた声で慌て出す。
「烈王さん達が貴方を殺した怪物を、殺したんですよ! 外にいますよ! ただ、健人達は事故で死んじゃったので、今は生きてませんが」
「そ、そんな……! け、健人大丈夫!?」
近くに寝たように死んでいる健人を揺さぶりだすが、反応がないので泣きそうになっている。
「今日中には生き返りますから……! それよりも外を……」
「……え?」
一度、自分の目を疑いたくなった。塔から見下ろすと四人が血塗れで倒れているのが見えたからだ。
「なにがあったんだ、いつの間にか夜になっているし……て、おい! ニーチャン!? 大丈夫かって……おいコイツラ血塗れだぞ! ここは危ねえお前ら逃げるぞ!」
さっき迄死んでいた塔の人達が外の異変に気付いたようでそそくさと町へと逃げ出して行った。




