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第四十話 雷光

※烈王は初対面の年上には礼儀正しいです。

「ハァッ!」


 光は女に向かって一直線に向かって行く。これが、希望の光に――。


「効かないよ」


 女は巨大な壁でその光を防いだ。


「舐めないでよっ! 君達の攻撃は全て防げるから!」


「本当に……そう?」


 !? 砂の壁は頑丈そうに見えたが、光に触れた途端砕け、それぞれが飛び散って行った。


()の光だよ。アンタには、防ぐ方法は存在しないよ」


「心……?」


 光は女を貫いた。右胸から血が溢れるのが遠目からもよく分かる。


「……なるほどね。じゃあ、囮すらも要らないかな?」


 ……まさか。手元に目を移すと、先程よりも檻が柔らかくなっている事に気付いた。


「……! 弘成! 今、助けるよ!」


 陽向もそれに気付いたようだが、これは解除した訳じゃない。何か目的がある筈なんだ。考えろ考えろ考えろ……。


「吹き飛べッ!」


 女の声と同時に砂が崩壊した。


「弘成は私が護るんだ!」



 顔を上げると、眼前に陽向が飛び込んできていた。陽向の全身が、又もや光り輝いて見える。俺を抱えて陽向はこの砂籠を突き抜けた。


「あらら……これじゃ二人が見えなくなっちゃった」


 女からの視界からは俺達が見えないようだが……。


「ひ、弘成、大丈夫?」


「ああ、なんとか大丈夫。って、俺の上に乗らないでよ」


「……!! ご、ごめん!」


 陽向は俺の腹を下敷きにしているのに気付いて焦りながら横に倒れ込んだ。


「……ありがとう。正直、さっきのは死んだかと思ったよ」


「うん……前から試そうか迷ってんだけど……決意したんだよ。弘成のおかげ。烈王さんも私も……変わろうとしてる」


「……実は俺も思ってたんだ。変わろうと」


「この戦いが終わったら二人には伝えるさ」


「ふっ。了解」



 その為にはまずはこの女に勝つ。もう一度刀を作り出し、砂の煙幕を利用し女に近づいて行った。

 烈王さんは、途轍もなく速い。陽向は光の力が使える。二人のように速くはなれない。俺にだって出来る事はある。俺の存在が、緩急になる。それを利用してとどめを誰かが刺すしかない。


「三人がかりでも勝てないよアタシにはさぁ!」



 砂が3方向に飛び散るのが見える。一つは俺に向かっている事が分かった。流石に相性が悪いな。凌ぐ事ははっきり言って無謀か。なら俺はひたすら攻撃するしかないが……それじゃあさっきと同じままだ。


「今度こそ死になさい!」


 砂が頬を掠る。……そうか。攻撃することが重要じゃない。()()()姿()()が重要だ。攻撃しなくてもいい。とにかく意識をさせる。今度こそって事は俺を狙っているんだ、利用させてもらう。


「もっと来いよ29歳!」


 俺はとりあえず挑発してみた。反応次第では隙も作れるし攻撃を俺に寄せる事が出来る筈だ。


「人の事は名前で呼びなさいって今時の子は習わないのかしら?」


「じゃあ名前を言いなよ」


「言わない!」



 風を切る音が聞こえ瞬発的に刀を構えた。来る。


 ――ここだ。一つ目の砂を切り崩す。次の攻撃は刀を消し、滑り込み、砂を回避する。

 舞う砂から抜け出し、女と目が直接会う。


「出て来たね。思春期くん」


()だけを見ていないなんて、ちょっと油断し過ぎだね」


「!!」


 烈王さんが女に不意討ちをかまし、顔を握り拳で勢い良く殴った。血が飛び散った。


「ヴェッ……鼻血がでぢゃっだ」


 あんまり効いていないように見える。何故だ? 胸に光もくらってる。俺が一度片腕を切ったというのにまだ余裕を感じる強さだ。


「弘成。次で決めましょう。()()()()()


 ――――すべて理解した。



 俺の肩にそっと烈王さんは手を乗せた。力が湧き出て来るのが分かる。恐らくいつもの烈王さんの能力よりも強力になってる筈だ。俺の身体が耐えきれるかも分からない。それでも挑むしかないんだ、俺達は。


「……絶対にお前を殺すんだ!」


「……ふぅん。ならアタシはドラゴンになろうかしら」



 女がそう言うと、砂が女の体に吸い寄せられていき、姿が見えなくなった。正確には、見えなくなったわけではなく、砂の龍の中に女が居た。


「ハッハッハ! この大きさ最高ね! 塔の中が見えるねぇ……中では……え?」


 龍は巨大な顔で知音達の居る塔の中を覗いた。今がチャンスか? 俺は地面を蹴り上げ、龍の首を狙う。光速のように、二人のように光を纏い、飛んだ。

 目視で大体地面から10M。アパートだと四階ぐらいの高さ。それほどの龍を創り出せるということは、これが女の本気なのか?思考を回している間に龍の首が目前に迫る。斬り落としてや――


「オリャッ!!」



 グシャッと音が響き、砂が目に入る。反射で目を瞑ってしまい、うまく見えないが、切りかかった。が、空を切った感触がした。


「なにぃ⁉」


 俺以外の全員が驚いている。何が起きたか分からない。俺は急いで目に入った砂を取り出し、目を開いた。


「ま、真凛⁉」


「な、なんで()()()鹿()負けてんのよっ!」


「……貴方の相方、失礼なんで後で言っといてください」


「……いや、後では無いかな?」


 真凛は普段見せないような不敵な笑みを浮かべた。真凛の背中には翼が生えている。もしかしてだが、あの怪物の能力を手に入れたのか?いつの間に……というか相方って誰だ? まさか、味方がいたのか……。


「真凛! ぶ、無事か⁉」


「うん! 私達が何とか倒す事が出来たんだ!」


 会話こそ出来たが、垂直に落下した俺は地面に付いた。再度地面を蹴り、狙いを定めた。


「烈王さん! 弘成! 真凛! 全員で、攻撃するんだ!」


 陽向の声が、届く時には俺は飛び出した。烈王さんは既に限界速度を出し切りながらも、地面で動き続けている。烈王さんにも武器を。持っている刀を強く握り、更に強くする。


「烈王さん! これを!」


 飛びながら、光り輝く烈王さんに刀を投げつけた。


「……! ありがとう。能力で消えるのを出来るだけ遅くするよ」


 全員がとどめを刺せる状況。雷の如く三人は迫る。


「飛び散れッ! ドラゴネットォ!」


 砂の龍から無数の小さな龍が溢れ出す。まるで母親を守るかの様に俺達に向かって襲い来る。


「オオワシ来て! 小さな龍を……消し去って!」


 真凛からも大量のオオワシが出現しだし、辺りを飛び回る。この一瞬での出来事で沢山のことが起こった。そして、俺のもとにもドラゴネットが二匹近付いてくる。

 まず、一匹に向けて刀を勢い振り投げる。


「ギャッ!」


 一匹、砂となり落ちていく。再度刀を作り残った一匹をその勢いのまま斬った。


「ギグェ……」


「すっごい速さね……でも、また食べてあげようかしら」


 巨大な龍の口が眼前に広がる。空中で減速する事は不可能、()()()()()()、ここから女の本体を狙えるかもしれないが、ハイリスクすぎる。それなら、元の作戦通りに行こう。


「絶対に殺すッ……」


 殺意を増幅させ、更に刀の強度と切れ味を上げていく。


()()()()()()


「避けて! 弘成ッ!」



 陽向の叫び声が聞こえたが、俺には避ける必要がない。一度噛まれたときに見破ったのだ。この龍の弱点を。瞬きをする頃には俺は噛まれる。だからこそ、この刹那を、感じ取る。刃先を微かに震わせ、出来るだけ龍への接面を少なく保つ。




 瞬きと同時に、龍を()()


「えっ! なんで……」


「この龍、内部がかなりスカスカだな。振動で物を切れるとかどっかで聞いたから、真似をしてみた」


「で、でも、それだけじゃ、意味が……」


「有るんだよ」


「烈王さん、下から頼みます」


「ああ」


 烈王さんが下からドラゴネットを切り刻みながら、龍の胴体を切り刻み登りだす。


「ハァァァッ!」


 陽向も同じように能力を使い、ドラゴネットを消し去りつつ、龍の四肢を削っていく。


「俺の目的はこれさ」


 塔の壁に到達した。雷の如く勢いをつけ直した。今度は、女本体に向かって。


「ウソ……」


「これで終わりだ!」


 殆ど同時に俺と烈王さんの刀が、陽向の拳が女の体に直接入る。女の掠れた声が一瞬聞こえたかと思うと、落雷が落ちたかのような爆発音に近い音を起こして、俺達は吹き飛ばされた。








 * * *

 巨大な龍の面影はなく、ただ無残に残された砂と血で塗れ今度こそ動く事が出来ない致命傷を与えられた女が中心に残っているだけだった。


「負けよ負け……言っておくけど、もう二度と戦いたくないねアンタ達とは」


「俺も……もう二度と戦いたくない」


 ここまで人間で強かったのは初めてかもしれない。いや、今までの人間が手を抜いていた可能性は充分あるが。


「……私は、貴方の名前が知りたい」


 唐突に陽向が呟いた。それに続いて真凛も知りたそうな顔をして頷き出す。


「なら、先に名乗りなさい……若い方から」


「私は陽向。こっちの女の子が真凛。で、こっちの若い方が弘成で、こっちの最年長が烈王さん。」


「――それと、貴方の仲間が殺した人の名前は、()()。勇気を出したのが唯智(いち)君に、利名子。そっちも、覚えておいて」


 真凛が、先程の様子とは変わり、睨みながら話す。


「……分かった。忘れないでおくよ。……そうそう、名前だったわね。アタシの名前は――」


()(りゅう)()(らい)


「……いい名前貰いましたねぇ……」


 思わず本音が出てしまうが、女は笑う事がなければ、怒る事もない形相で天を見つめる。


「よく男の子っぽいってバカにされてて……自分の名字とか、名前が好きじゃなかったのよ……」


「……俺は、その名字も、名前も素敵だと思う」


 烈王さんはそう言いながら膝を付き、飛龍さんの手を握る。


「……フフッ、貴方モテそうねえ……彼女さんとかいらっしゃるのかしら」


「……ただ護りたい、そんな人が俺にはいるよ」


「素敵……ね」


 飛龍さんはそれから一言も話さなくなった。


 これで全て終わる……そんな筈だった。

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