第三十九話 加速
「死にやがれッ!」
男の拳を交わし、懐へ入り込む。もう男は能力を使う気力すら残ってないようだ。これで、決める。
「これでおしまい」
両手をライオンの腕に変えた。鋭い爪に大きな掌。男の頭を押しつぶす様に斬りつけた。血飛沫が私の顔にまで付着し、男のうめき声が聞こえ出す。
「ぁ……あぁ……う、うう……」
男はその場で倒れ、うめき声が掠れていき、10秒も経つと、声は完全にしなくなった。
安堵からか腕の力は抜けきった。頭がぼーっとする。貧血かな。へたりと、腰を落とし、尻餅をついた。
そうだ! 二人の様子を見ていない。怪我がなければ良いけど……。
そう思った私は振り返った。良かった、怪我は無いみたいだ。二人とも呆然として壁際に座り込んでいた。
私は二人の元に駆け寄って二人を抱き締めた。
「あ……ありがとう……! 真凛のお陰で助かったよぉ……」
利名子は思わず泣きだしていた。私もつられ泣きしそうになり、鼻を啜る。
「……ありがとう……」
唯智君も堪えていた涙を流し始めたから私もつられて泣いた。二人を、護れた。しばらく泣きあったあと、二人はそのまま眠り落ち、落ち着いた私は外の様子を確認することにした。その為に、私は二人をそっと床に寝かせ、立ち上がった。
* * *
……この鳥籠は狭いな。身動きが取れないし、能力で脱出もこの檻の硬さでは無理そうだ。手で触ってみると砂の感触はするが、握ると鉄のような硬さに思える。握り潰せなかった。隣にいる女と遠くにいる二人を交互に見る。
「……アンタ達さぁ、もっと連携取れないの? へなちょこじゃない」
「……」
二人とも黙り込んでいた。陽向にいたっては地面の土を触って何か考え込んでいる。
「へー年上の事無視しちゃっていいんだへー」
「……」
ウザい煽りすら無視している。
「弘成、ありがとう」
「……え」
烈王さんは女を睨みつけながら、俺への感謝を口にした。
「副作用に恐れないお前の姿を見て、俺思ったんだ。……妹を探して、護る。その為には副作用も乗り越えないといけない、って」
烈王さんの目付きが急に悪くなる。烈王さんの本気が見れるってことだ。
「……えーと? 今のしょうもない自分語りは何かな? 恐怖で頭が、おかしくなっちゃったのかな? 可哀想ねぇ」
砂の女はケタケタと笑い出す。
「……そういう貴方は、腕を一本失ってるのに余裕ですねえ」
「コレの事?」
落ちた右腕を左腕で拾い上げ、砂を使って元の部位に戻した。
「アタシ、優秀だから腕くらいくっつけられちゃうのよ。カッコイイでしょー? ガキには分からないよねー」
「……おばさん、煩いよ」
陽向が唐突に口を挟んだ。
「あぁ⁉ 誰に向かって口聞いてんのよ! アタシまだ29だか――」
一瞬、何が起きたか理解出来なかった。途轍もない速度で烈王さんが女の顎を蹴り上げた。電光石火の早業、俺も女も理解が追いついていなかった。
「ちょ、ちょっとズルくない? まだ喋ってるじゃないの! 後おばさんじゃないから!」
「貴方、私は加速し続けますよ? そんな事、言う暇なんてありますねぇ?」
つまり、烈王さんは自分以外を加速減させる能力を、自分を加速させる能力として利用しているのか。でも、そんな事をしたら……危険過ぎる。
「く、しょうがないわ! 本気出したげる、アタシが思っていたよりも強かったわ! 少しは認めてあげる! アタシの本気で五分もかけずに終わらせるから!」
さっきまで一方的に烈王さんが攻撃を仕掛けていたが、砂が烈王さんに襲い掛かる。
直接の攻撃は砂で完璧に凌いではいたが、砂での攻撃は喰らう前に回避し続けていた。
「しぶといわね……ここでドラゴン登場!」
巨大な砂の龍が現れた。今回は顔だけで全身がある。烈王さんと比べて一回りも大きい。
「かわいい♡」
「ほんと、可愛らしい攻撃だよ」
陽向が、戦闘に注目している間に立ち上がっていた。
「二人ともさ、強くなりすぎなんだよ。私が追いつけるかもわからない位にさ。――でも、私には出来る事はあるって」
「――分かってるから」
両手をトスを上げるようにして、手を重ねる。重ねた掌からは、今までに見たこと無い強い光を放っていた。
俺には、陽向が輝いて見えた。




