第三十八話 性と生
まず、状況を整理しなきゃ。あの怪物は物から生き物を作る。そんな感じだったはずだが、私の場合、何もない所から作れた。明人の時もそうだけど、元の怪物の能力と自分が使える能力は多少変わるのかな?だとしたら、もっとできる事が私にあるかもしれない。
「もう一回狼!」
頭の中で狼を思い浮かべると、その想像通りに現れた。
多分だけど想像した生き物なら作り出せる。逆に言えば、イメージ出来ないと作り出せない。
「チッ、さっきからウゼえなこれ。オラァッ消えなッ!」
一撃で狼は消されてしまった。このままじゃ弱いのか。もっと強い生き物を考えないと……どうしよう。
「……ゆ、ユニコーン!!」
…………出てこない。多分、実在しないからだ。
「バカがよぉ! 死ねぇぇえ!」
「避けてっ」
いや、無理だ。拳はもう目の前。避けられる距離じゃないし、何かを出して盾として使っても一緒に吹き飛ばされるだけだ。
……なら、生物を身に付ければ良いじゃないか。
頭の中で、声が響いたような気がした。それしかない――
鈍い音が、この建物全体に響きわたった。私は、その場から動く事はない。
男の拳は羽を散らした。私の。
「ウゲッ気持ち悪ッ! なんだこのゴミはぁ」
「私の羽だっ! これが私の能力! アナタを倒すためにっ!」
男との距離は腕一本分しかない。もう一発食らったら間違いなく大ピンチ。なら避けるしかない!
「ふっ!」
「てめぇ……飛べんのかよ……」
私は翼を生やした。イメージ的には、大天使のような剛翼だ。飛んで回避したが、ここから如何すれば良いんだろう。天井スレスレなのでこれ以上は高く飛べないし、下には二人がいる。護らないと。
「トドメ刺してあげる! 出てきて、狼! 烏! ライオン!」
想像して。大量の狼に烏、そしてとても大きなライオンを。
「真凛! それはヤバイよ! 助けて!」
「利名子! 任せて」
私は地面に着地して二人の前に立った。
「なっなんだよこの数はよっ」
数え切れない程の狼に烏、そして一匹の大きなライオンに男は噛み付かれ、身動きが取れなくなっていた。次第に男の姿は見えなくなっていく。
「殺った……?」
「待って真凛避けてっ」
利名子の声に反応出来なかった。私達三人は吹き飛ばされ、壁に強打した。当然、誰も受け身など取れる者なんていなかったので、私達は立ち上がれない。血塗れになり、衣服もボロボロの男が片目じっと睨みつけてくる。
「……へ、へへへ……苦労させやがってェ……! 今まで見てきた中で……一番しぶとい奴だ、讃えてやるよッ……人質はやめだ、今すぐ殺してやる……ペッ」
男は血を吐いた。頭からも血が垂れて片目にかかっている。
それを見た瞬間、私は感じた事のない気持ちが湧き上がった。
血が、欲しいと。
「ま、真凛……。逃げて、弘成に助けを求めよう。勝てないよ……」
利名子の提案には素直に乗れない。だってそれがこの男の狙いだからだ。今ここで弘成達がこの男と合わせて戦う事になれば、全滅もあり得る。なら私が相討ち覚悟で男を倒すしか無い。
「女の癖して意外と渋とかったなぁ……? いや、女だからか」
「でも、貴方は今から女に負けるよ」
「は? もういいわブッ殺す」
男は拳を振りかぶる。今度はその拳に重ねた。
「死ねよッ!」「死ねッ!」
拳に鷹をぶつける。弾丸のように鷹は拳に当たり、打ち勝った。
男の血が周囲に飛び散り、よろめきだす。間違いなく勝てる。私は確信した。
次の一撃に全てを賭ける。勝利か、全滅か。次で、決まる。




