第三十七話 ミナオドシ
お話はほんの少しだけ戻る。
「知音、何が起こってるの⁉」
私は夢でも見ているのか、下では弘成達が戦っていた。正確には弘成は鳥籠のような砂で捕らえられていた。
「……すまん真凛。このままだとお前らを護れない」
「……へっ? そ、それってどういう――」
「下がって。利名子と唯智君を護って」
砂が吹き荒れる。ここは四階だと砂は分からないのか。あまりの勢いに私は尻餅をつく。
「クッ……ソ」
「シオン⁉」
知音は身に着けている鞄を外し、中から巨大なビニールを広げる。
「真凛、この鞄も頼んだ!」
鞄を投げつけられる。中には、知音の私物以外にあの怪物の心臓が入っていた。
「なんで……知音⁉」
「お前が三人の仲で一番強いからさ」
「そうじゃなくて……知音も下がってよ!」
「今引いたら俺のせいで誰かが死んでしまう」
知音はビニールを投げ、それを能力で操り、私達三人の為の盾にした。
「お兄ちゃん!やめてよぉ‼」
「悪いなイチ。俺がお前を護らんといけないから」
「待ってよ知音」
「……あの時護れなくてごめんな」
知音は言い切った直後、崩れるように倒れた。
「お兄ちゃん!」
唯智君がビニールから飛び出そうになったので利名子が手を握って止めた。
知音の胸には包丁が突き刺さり、血塗れになっていた。
「……これって知音が持ってきた包丁だ……」
「なんで死んじゃうのっ……」
利名子が声を震わせる。
「……まだ、死んでねえよ……勝手に殺すな」
辛うじて知音は生きていたが、虫の息。
「イチ……君。何かあったら二人を助けてな」
「う……う゛ん……」
鼻水を垂らしながら首を縦に振る。
「――男なら当然の事しただけだ……」
知音は少し満足気に笑顔を作った。気が付くと砂も止んでいた。
「――おいおい、既にボロボロじゃねえか」
聞いたことのない声に場は凍りつく。階段から上ってきたようだ。格闘選手と似た服装をしたソイツは私達にヅカヅカと近付いてくる。
「だ、誰だ!」
私の声すら無視して近付いてくる。すると、知音に突き刺さっていた包丁が刃先を男に向け、飛び出した。
「しぶてえ……なぁ!」
包丁を真正面から殴った。態々自分から刺さりに行くなんて……。
――!男の腕には刺さらずポトリと包丁が地面に落ちる。
「え……」
瞬きと重なって、次の時には知音は蹴り飛ばされていた。
「やれやれ……やっとくたばったか」
「……あ」
「おいメスガキ共! 殺されたくなかったらオレに従え!」
従わないとどうなるかなんて分かってる。だから、私は大人しく従おうとした。
「……イヤだ! 姉さん達は僕が守るんだ!」
唯智君が前へ出た。そんなの無理だよ。死んじゃうよ、やめて。でも、思っていただけで声は出せない。
怖いから。
「ハハハッ! お前バカだなぁ! あんなのに感化されて、直ぐに行動に移しちまうとは! お前アレだろ? いっつも学校では一人で、遊ぶような相手いない癖して映画とか直ぐに影響されて、学校で使って恥をかいてたような奴だろ。オレにゃ分かる」
刃先を唯智君の首元に近付けた。それでも唯智君は動かない。多分恐怖で動けないとか、そんなんじゃない。知音の真似事ではない。知音の行動を自分の行動に、変えた。
「……止めてよ。唯智君、危ないから下がってよ。私達は大丈夫。貴方が今私にとって一番大切で、一番護らないと行けない人なの」
利名子が唯智君の手を取る。汗が、利名子に伝って垂れる。
「ごめんね、私にはこれしかできないの」
――そう言って私をチラリと見た。何が言いたいのか。私にできる事は。もう分かる。
変わらないといけないのは私だ。知音と同じように生きて、同じ様にあの世界を見た。乗り越えないと行けないのは私なんだ。
鞄を片手で漁る。男に悟られないように。
「そうだそうだ。さっさとオレに従えクソガキどもがよ」
唯智君は利名子に引っ張られて、一歩ずつ下がる。男の視線は二人に向いている。今なら触れる。
ひんやりとした感触があった。これだ。
お願い、私を信じて。今、貴方が必要なの!昨日まで争ってたけど、全部無かったことには出来ないけど!お願いお願いお願い!私に、力を――――。
「僕を殺さないで」
声が聞こえる。この声は、紛れもないあの怪物。
「僕は生きていたい」
私もそうだよ。死にたくない。
「誰も殺さないよ」
……それは、少しだけ困るよ。……覚悟だけはしてるつもりだから。
「……い……」
い?
「生きろ」
――分かった。
「――オイ、クソガキ何してんダァ⁉ 死ね!」
男が私に殴るよりも早く、怪物は私に溶け込んで、私もそれに溶け込む。混ざった。
「狼!」
「なっ」
狼が二匹、無から生まれ男の右腕に噛み付く。
「今よこっち!」
私は利名子を掴み、男との距離を取る。
「……オイオイ……なんだそれはよぉ……聞いてた情報と違うぜェ……⁉」
「真凛……! 手に入れたんだね」
「うん! 私が二人を護るから」
狼は腕を噛んでいたが、男に振りほどかれる。
「二匹共もう一回噛んで!」
狼が吠え、男に飛び掛かったが、男の能力で吹き飛ばされて、二匹は消える。
「私は男だろうと屈しないから! 私は貴方を殺してみせる!」
「殺ってみろよ」
…………これが、私の能力。陽向、弘成、烈王さん。こっちは任せて。
私が、殺るから。




