第三十六話 ヘイオン
襲いかかる砂を斬っては回避を繰り返す。一分も繰り返しているのに、一向に距離を詰められない。やはり強力な能力だ。後方の二人はまだ戦える状況じゃない。少しでも時間を稼がなくては。
「絶対にお前を殺すッ‼」
砂を無視して突き進む。操れる砂の量だって決まっている筈だ。そうして、大体30mになる距離まで近付けた。砂は俺の体に傷を増やす。肉体が完全に削がれ、動かす事の出来なくなるまでは俺は戦わなければ。
「射程距離に入ったぜ」
俺はそう言った。女は顔色一つ変えず砂を操る。ならいい。刀を両手で握り直し刃を背に柄を正面に持ってくる。
「死ねよ」
刃を延ばす。過去1のサイズ、約36m。前から考えていたが広さが無いと使えない。今しかない場面だ。
バットを振るように首を狙って刀を振るう。
「なんだ、その程度か」
刃ははっきりと斬り込みを入れた。が、それは肉では砂を斬っていた。女の余裕そうな声がその証拠だ。
「砂の盾かッ……」
反動が手首に響く。体勢が崩れた為足に力を入れ直し、刀を一度消した。
「ほらっ今度はアタシの番。ドラゴンで食べちゃうぞ〜?」
砂に靴を掴まれ俺は背中を引き摺られる。舗装された地面は平でとても堅く、痛い。女との距離はすぐ様詰められ5秒もあれば女に殺されるだろう。砂が龍のように待ち構えていたからだ。
「死ぬのはお前だ‼」
「ハハッやってみなよ」
俺は腹筋を使って体を浮かせ足に力を入れ、地面と垂直になる。
そして俺は――――飛んだ。
靴も靴下も脱げ、その状態で女の目前に飛んだ。再度刀を創り、両腕で握ってそれを振り下ろす。龍の顔が崩れるが、女には触れる事すら出来ない。
「頂きます」
「パクッ」
「ぐぁぁぁぁぁああ‼」
俺は龍に喰われた。肌に触れる度傷が増える。血が出てくる。苦しい。キツ過ぎて目を瞑る――直前に一筋の光が龍越しに見えた。
「……イタイねー」
龍の噛み付きが一瞬だけ緩くなった。何が起きたか理解出来ないが、反撃開始だ。
俺は、もう一度刃の部分を伸ばす。先程のよりも短く、今度は約3m。声から推測するに、丁度女に刺さる。
「食らえッ!」
そして、振り下ろした。今度は間違いなく、肉を削いだ。
「殺った!」
龍の形は崩れ、俺は地面に落っこちた。高さは2mも無かったが、上手く受身を取れず負傷する。勝ったのか?
「アンタ『甘い』ね」
な……‼確かに斬ったはずだ。何故生きて……⁉俺は見上げようとしたがその前に目の前にある物に気付いた。
右腕だった。削いだのは右腕だった。緑色の芝生を一瞬で血溜まりを作り、真っ赤に染まっている。
「鳥カ――」
させるか。俺は腕を地に付け、右脚で蹴りを喰らわせる。
「そんなの効かないわ!」
「本当に?」
俺は足の指の間に刀を創った。重さを感じ数秒で落っこちるだろうが、関係無かった。蹴りは始まり、勢いは十分だ。落ちるとしても刀が女に触れてからだ。完璧な不意打ちを女に与えることに成功した。首筋に血の玉が複数現れ、だらりと垂れていく。
「〈鳥籠〉」
俺には何が起こったか理解出来ない。気が付くと刀は落ち、砂の柵が創られたと思えば、出る事の出来ない檻に閉じ込められた。まるで、避難訓練の時に机の中に押し込められているような感覚。
「後……三人」
「ごめん陽向ぁ! 烈王さん!」
失敗した。俺は戦えない。死ぬかもしれない。
砂格子の隙間から女の首元を見た。さっきまでの出血は無理矢理だが砂で止血している。
俺の攻撃で、致命傷を、決定打を与えられなかった。
少なくとも、今の状態のあの二人では戦う事すら怪しい。ここは知音に任せるしか……。
「…………うーん……。奥の子面倒くさいなあ……先に殺しちゃおっか」
そう言って、女は残りの砂で塔を襲う。
「やめろッ‼」
俺は叫ぶが女は当然辞めず、また知音にも届かなかった。
十秒ほどで砂は止み、塔からの視線を感じなくなる。
「あと、二人!」
女は満足気に喜んでいた。
俺には……二人を信じるしか道は残されていない。
陽向は、あの時とは違うはずだから。




