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第一話 終幕の合図(中編)

分割しました

微妙に誤字修正

 今から数分前まで寝ていたが、車が段差に乗り上げた衝撃で目を覚ました。



「……目は覚めましたか」



 先生は苦笑いをしながら、俺と目を合わせる。



「はい、今の衝撃で」


「一応、ここが一番巨大な避難地域なので、ここまで来れば人がいると思いましたが……」



 辺りを見渡すと、ここは『内地』の人に人気の場所だった。ここが避難地域だという事は俺達のいた中学校から車で一時間かかる場所だったので全く知らなかった。

 しかし、異常な程静かだった。



「一旦、降りましょう。皆を起こしてください。そろそろもう一組を到着すると思うので」



もう一組と言うのはもう一台の学校車の事だろう。

 俺は、隣の座席で寝ている高山(たかやま)陽向(ひなた)を揺すり起こした。

 彼女はいつも明るく、苗字で分かるように明人と双子の姉弟だ。いつも笑顔だが、今は辛そうな表情で目を開ける。



「……おはよう」


「……おはよう……」



 正直、あまり話す事もないので思わず黙ってしまう。



「あ、あの」


「着いたから皆起こして、って」


「……そっか」



 陽向は体を起こす。いつものような明るさはなくダルそうだった。


 陽向は後部座席にいる二人を揺すり起こす。真凛(まりん)健人(けんと)も疲れているようだった。次に俺は助手席で寝ていた知音(しおん)を揺すり起こした。二人同様にだるそうに目を擦って起きた。



「鈴木先生、これで全員です」


「うん、人が本当に居ないかどうか探してみようか。降りるよ」



 全員が車から降り、周囲に人が居ないかを探す。しかし、全く外には人がいない。

 次はモール内に入り、人が居ないか固まって探す。



「すみません先生、ちょっとトイレに行ってもいいですか?」


「ああ、全然問題ないですよ。他に行きたい人が居るなら言ってください」



 全員がトイレに向かう。俺は一番先に用を足し、手を濡らし乾かせながら戻ってきた。

 すると、遠くに先程までいなかった男が椅子にもたれ、何かを考えるように座っていた。男は大学生だろうか、大柄だが細身で目は生気を纏っている。俺は走ってその男に向かっていく。



「あのー……何、してるんですか?」



 俺は下手に出てみる。すると彼はこちらに気付いたようだ。



「……良かった、生きていたんだ。ここらへんには誰も居なくてさ」



 そう言って男は立ち上がりこちらに向かってくる。話を聞くと、ここでも怪物が人を襲っていた事が分かった。



「よければ他に逃げてきた人がいるので、一緒に行動しませんか?」


「本当? ありがとう。君に付いてくよ」



 彼を連れ、トイレの前まで戻った。



「弘成、大丈夫? ……って後ろの人誰!?」



 陽向が彼を見て驚いたので、男と会って一緒に行動してくれる事と、ここには人が他にいない事を説明した。



「…………とまあ色々ありまして貴方達と一緒に行動しようと思っているのですけど……いいですか?」


「私は、全く問題ないですよ。頼りになりそうな人が来たので、きっと皆も喜んでますよ」


「良かった。先生ありがとうございます!」



男は安心した顔で息をつく。



「私は鈴木と申します。生徒からは鈴木先生と呼ばれています。どんな呼び方でも構いませんよ」


「よろしくお願いします! 俺の名前は烈王、(はざま)烈王(れお)と言います!」



「よろしくお願いしますね。弘成君、烈王に生徒達をそれぞれ紹介してください。学級委員長として、仕事を貴方に与えます」


「はい」



皆を紹介する事になった。



「えーと、まず俺から行きますね。俺の名前は深谷(ふかたに)弘成(ひろな)って言います。周りからは弘成って呼ばれます」


「次は……、そうだ。この中で一番背が低い男子の星野(ほしの)俊樹(としき)。これが彼の幼馴染の清水(しみず)真凛(まりん)。あっちの背が一番高いのがのが黒枝(くろえ)知音(しおん)で、背が一番小さい女子が秘兎(ひめうさぎ)利名子(りなこ)って言います! それに今俊樹と喋ってるのが神崎(かんざき)健人(けんと)で優しい奴ですよ。あと双子がいて高山陽向と高山明人って言います。あれですね」



指を指しながら、名前を軽く紹介した。



「ありがとう。大体覚えたよ、弘成」


「それなら良かったです!」



 * * *

 それからの時間の流れは早く、日は沈み、施設の時計は20時を指していた。俺は外に出てみるが自分達以外の人は消えたと思えるほど、街からは何も聞こえない。


 ふと、母親のことが頭に浮かぶ。生きているのか不安になった。中2にもなって親の事を思うのは少し恥ずかしいが、こんな状況なら仕方がないだろう。


「ねえ」


 俺の隣にいつの間にか真凛が座っていた。


「お、おお何?」


「あのさ……今、健人と利名子(りなこ)が喧嘩しててさ……」


「え?」


「あの二人が?」



 二人が衝突する事なんて滅多にない。心配だったので真凛と一緒に二人の元に向かった。叫ぶような声で話している利名子と少しおどおどとしている健人がいた。



「だから! ここから海廊市(かいろうし)に戻るのは無理だって!」


「無理じゃない! 第一お母さんが無事かどうか健人も知りたいよね?」


「そ、それはそうだけど……」



 俺は二人を宥めることにした。



「二人とも……まず、利名子、俺だって親の安否は気になる!けど、今は自分の身も安全って訳じゃない。だから健人を責めないでくれ。次に健人、男なら優しく説得しような」


「……わ、わかったよ」


「ごめん、健人」


「いいよ別に」



 二人は仲直りしたようだ。


「いやー久しぶりに弘成節聞けて安心したわ」


知音(しおん)……。正直俺も今久しぶりに言ったなーって思ったぜ」


「優しくね……優しい女なら説得出来るよな、優しければ」


「なんで私を見んのよ。ぶん殴ろうか」


「陽向ぁ、怖いよ」


「はいもう許さない」



 いつも通りの陽向と知音の会話によって重い空気が明るい雰囲気に変わった。




 * * *

 先生二人と烈王さんが今晩の食事について話し合いをしていた。ここは大量の食べ物や飲み物があるためこの人数でも一週間は困ることは無さそうだが。

 先生一人は外に行き、烈王さんが食べ物を取りに出て行った。



「夕食楽しみだなあ」



 明人が少し気の抜けた声で呟いた。

 暫くして、先生は外から、烈王さんは食糧を持って戻ってきた。



「今日はとりあえず他に人もいないから適当に好きな物食べていいってさ。ほら、弘成達も全員で選びな」


「あ、分かりました」



 俺達は席を立ち、移動を始めた。



 * * *

 五分後、それぞれが食べたい物を選び、好きな所で食べる事になり、先程のメンバーで食べる事にしたのだが……



「なんで俊樹(としき)もいんのよ」



 陽向が吠えた。陽向と俊樹は犬猿の仲で、事ある毎に喧嘩をしている。



「僕といつも食べてるし、付いてきてもらったんだけど……」


「俺らは別にいいぜ。陽向『様』は怒るけど」


「知音! 本当に殴るよ?」


「陽向とはどうでもいいし」




 俊樹が反抗する。陽向は既にキレそうだ。




「ま、まあ食事中くらい仲良く……」


「「弘成は黙って」」


「はい」




 二人に怒られたため俺は黙り込む。

 それから二人も黙り、他の三人も黙る。




「……なんか静かだな」




 知音が呟く。




「仕様がない、だって人数も少ないし」




 健人の言うとおりだが、何故だろう、少し違和感がある。

 ……近くで物音がした。それも大きく、机が思い切り倒れたような鈍い音が響き渡る。



「今の音、入り口からしなかった……?」



 利名子の声はとても震えていた。



「……皆で見に行こう」


「弘成、冗談だよね……?」


「真凛……今は弘成に従った方がいいよ」


「そうだそうだ、健人に付いてかないと俊樹と残ることになるぜー?」


「は? オレも行くから」




 なんだかんだあって全員で入り口付近まで見に行くことになった。



 * * *


 直前の様子とは一変し、殆どのテーブルが倒れ先生の見た目をした女と烈王さんが殴り合っていた。



「烈王さん!?」


「弘成ァ! 逃げろッ!」



 烈王さんは鋭く女の顔に右腕で殴った。

 殴られた女の顔は崩れ、顔が変わる。その顔は烈王さんの顔に似ていた。



「速く逃げろッ!!!」



 その叫びを聞き俺たちは入り口から逃げる。



「あの山に逃げよう!」



 俊樹が近くの山を指差す。



「そこに逃げよう……っておい利名子!」



 利名子は混乱して住宅街に逃げようとしている。



「利名子待て! くそ、弘成、俺達はいいからあの山に向かってくれ!」



 知音が利名子の後を追い、見えなくなるほど離れていく。



 俺達は同じ方向に逃げていく。敷地を抜け、山へ逃げる。



「逃げ切れたか……え!?」


「俊樹がいない……」



 走っている途中で俊樹と俺達ははぐれてしまった。あたりを見渡すが影一つ見えない。



「おい、嘘だろ……!?」



 後ろを振り向くと昼の怪物とは違う怪物が走って向かってきていた。とてもでかい。顔は覆面でも被っているようだ。走っていると近くの木は揺れ出し、何かが衝突したように倒れだす。やがて道を塞がれる。


 大きな怪物は、木を次々と倒し、周りの木を折っていく。



「お前一体何なんだよ!」



 と勇気を振り絞って声をだした。

 そいつはニヤァと笑ってから、



「オマエラ全員を殺す者ダァ」



 と言い放つ。そいつは自分の手を光らせだす。



「お前……喋れんのかよ……」





 明人が呟いた。俺は手の光に危機を感じ、避けようとした。が、光は避けられないほどの速さで俺の胸を貫いた。



「グッ……あ」



 意識が遠のく中、俺の上に木が倒れ、周りが見えなくなっていく。

 皆の悲鳴だけが聞こえ、景色は曖昧になるうちに、声が消えた。俺は胸の生暖かい感触に死を悟り、意識が途絶えた。

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