プロローグ
「この列車は傾籠行です。発車まであと3分程かかります。もうしばらくお待ち下さい。」
車掌さんのアナウンスが寂れたホームへ虚しく響く。電車を待つ客は吹き付ける冷たい北風に体温を奪われぬよう、静かに息をしていた。
ホームが異様な程静かなのが原因か、自分の階段を降りるパンプスの音がやけに響いているような気がした。
時は夕方。夕焼けの温かい光とは裏腹に、凍えるような冷たさの北風が吹き抜け体温を奪っていく。北風が飛ばしてきたのであろう、コンクリート製のホームを滑る枯れ葉の元を辿れば、寒さですっかり枯れてしまった木々。夏に見た、青々とした葉が風になびく生命力溢れていた頃とは比べ物にならない。
風に煽られ転がる枯れ葉を、電車へ乗るついでに追いかけてみれば、パリ。と音を立てて客に踏まれバラバラになる。北風が追い打ちをかけるように、線路へ運んでいった。
(いずれは私もこうなるのか)
たった1枚の枯れ葉の命、ただそれだけなのに。
自分の人生と重ねて見えてしまい、周りの景色がくすみ、色が淡くなるのを感じる。
周りの乗客逹と同じ表情になり、肩を落とした女性は電車へ乗り込んでいった。