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第3回 伊弦さん、学校で騙された事を知る

 

 教室では最後の横列に女子が連続する以外、通路側から、男子の縦列と女子の縦列が組むようにして置かれてあり、八列四組ある。

 女子が縦に並ぶ列の一番後ろに荷物のない空席を見つけて、そこへ鞄を置く。どうやら奇数なので、一人席となるようだ。しかも、嬉しい事に通路側の出入り口が近い。人の目を気にしなくてすみ、出入りもすぐ出来る気楽な席である。


 一方、泰時(たいじ)はどうなのかと、男子の列を見ると、校庭窓側から数えて四列目の前から二番目、だいたい教室のど真ん中にあった。

 そこへ泰時を座らせるつもりのようだ。


 ちょっとだけ、ホッとした。

 勉強を泰雅(たいが)泰時(たいじ)に見て貰う事にはなっているが、彼等にここまで馬鹿なのかとか、思われたくなかったし、泰時の事だから、こき使われそうだった。

 嫌な事は成る可く、引き延ばして後回しにしたかったから、離れた席で良かったと思ったのが、失敗した。にこにこと笑顔になっていたら、泰時がこちらを見ている。


「何でこの学園に慣れてない伊弦(いづる)一人(ぼっち)席なんだよ」


 そんな事を言われても〜ダヨ?

 私が決めた理由(わけ)ではない。


「俺があそこに席を移動するか、伊弦が俺の隣に来るかだ」


 泰時の席のすぐ左隣の女の子が伊弦を睨み付けた。

 通路を挟んだ右隣の女の子も伊弦を睨んでいる。


 えっ、これって、私が悪いのかな。

 逆恨みだと思うんだけど。


 そこへ、救世主が扉を開けてやって来た。

 1年4組の担任、宮前先生だ。


「みんな席つけ〜」


 伊弦はホッとして、泰時は渋々としながら、席に着く。


 しかし、ざわつきは収まらなかった。

 担任と共に来た男に注目が集まっていく。


「副担任の榊先生の都合により、代わりに新しい先生が入った」

西条(さいじょう)明治(あきさだ)だ。知っている者もいるかと思うが、公私混同せずに振る舞うから、そのつもりで。担任の宮前先生の胃に穴を開ける事がないようにな、特に北条弟に杠伊弦、お前らは大人しく言う事を聞くように」

「おお!スゲェ」

「西条家で先生?!」


 騒ぎは大きくなった。

 伊弦は伊弦で、目を瞠った。


「メイジ…いや、師匠!何で…」

「伊弦、メイジでも師匠でもない。学校なんだから、先生だ。こちらに勤務してた、榊先生が、産休に入ったんだ。でもって、お前が今更ながら、学校へ通うと聞いてな。興味深か(ひまだ)ったので、代理教師を勤める事にした」


 上から目線で、来てやったぜってという感じが半端ない。


 泰時が目を細める。

 明治(メイジ)泰時(たいじ)、二人の仲はそれ程良くない。一方的に泰時が、明治を目の仇にして、明治は、そんな泰時を気にせずスルーしている。


 一緒の学園(おり)に入れるのは良くないと思う。

 混ぜるな危険だ。

 伊弦はこの学園、大丈夫なんだろうかと頭を抱えた。

 明治の暇潰し感満載だ。


「あー、皆んな、知っているとは思うが、北条君と(ゆずりは)君が、同じクラスの仲間になる。二人共、順番に挨拶を」


 担任の先生は男女区分しない君付けで呼ぶようだ。

 先生がそう言うと、泰時がその場で立つ。


北条(ほうじょう)泰時(やすとき)です。年齢は皆さんより一学年下となりますが、皆さんと早く馴染めるように、努力したいと思ってます。編入学をしたそこの杠とは、浅からぬ縁があり、彼女共々、宜しくお願いします」


 ごくごく一般的な挨拶だ。

 出来たら、他人の方向で行きたいのに。まぁ、黒い制服を着てしまった以上、もうかなり遅いけど。

 泰時が座ると伊弦の番で立ち上がる。


「えぇっと、(ゆずりは)伊弦(いづる)です。この学園に入った理由は、ぶっちゃけ給食が食べたかったからです」


 ブハッと、泰時が吹いた。

 それをチラリと明治が見た。


「伊弦…それは、お前、騙されたな。その目論見、既に破綻してるぞ。給食があるのは中等部までだ」


 明治が簡単に夢を打ち砕いた。


「じゃあ通う意味は無いので、辞めます。本日をもって退学します。ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げて、鞄を持つと、泰時が慌てて止める。


「こらこらこら、給食は無いが、学食がある!学食は学生の時分にしか食べられないんだぞ!給食にも負けず劣らずだ」

「訂正します。まだ、学生として頑張ります」


 伊弦は即、座った。


「そうか、じゃあ、私も暫くは楽しめるな」


 そう言って教室後ろの扉男子列、伊弦の右隣にパイプ椅子を設置して明治が座る。

 通常なら、男子生徒が座る場所に、明治が座ったのである。

 それが、泰時の癇に障ったらしい。


「って、アンタは辞めていいから!」


 そのやり取りにクスクスと笑いが入る。

 泰時の隣からだ。


「仲がよろしいですのね」

「あ〜、北条君の左に座っているのは、学級委員の仲谷(なかたに)華恋(かれん)君だ。クラスの事で分からない事があれば彼女に頼って下さい」


 担任の紹介があって、仲谷華恋は、立って一礼をした。


「仲谷華恋です。宜しくお願いしますわ」

「これは丁寧にありがとうございます。早速ですが、座席に不満があります。どなたが考えた事ですか?」


 担任が言い淀む。

 隣に座った華恋が答える。


「クラスの総意ですわ。北条様は中等部からスキップしたとの事ですが、高等部には不慣れと思い、勝手ながら席を皆で考えての事です」

「不慣れなのは、俺よりも杠です。彼女は病弱故に学校にあまり通った事がないのですから。俺がご両親に面倒を見る約束をしていますから、出来たら彼女の隣の席が希望なのです」

「ならば、杠さんをクラスで一緒に面倒を見ればいいのです。北条様一人に任せたりしませんわ」

「よく知りもしない誰かに任せる程、俺は無責任にはなりたくないんですよ」


 ニヤニヤと笑う明治の側に立つと冷ややかに見下ろした。


「あなたは先生なんでしょ?ここは生徒の席です」


 暗にそこは伊弦の面倒を見るつもりの、自分の席だと、主張しているのだ。

 やれやれと言った感じで明治が席を開ける。

 去り際に伊弦の頭を一撫でして行く。

 泰時が不愉快そうに、目を細める。

 伊弦は、明治がそうやって泰時の反応を面白がってるのを知っている。

 ムッとしつつも、泰時は明治の設置したパイプ椅子を、片付けると、他の生徒が気を使って泰時の荷物が置かれた机や椅子を運んで来た。


「ま、まぁ、北条様はとても優しいのですね」


 華恋が引き攣った表情で笑顔を見せたが、泰時は見ていなかった。


「では、これで朝のホームルームは終わりだ」


 そう言って担任の宮前先生はそそくさと逃げるようにして、去って行く。

 明治も手の平を伊弦に向けてひらひらさせると去って行った。


「うわっ、最悪だ。なんで奴が副担に」

「泰時、メイジは採血こそ、沢山するけど、そんなに悪い奴じゃないよ。だから、こうして生きてるわけだし」


 瞬間的に泰時の記憶の中で、ぐったりとした、今にも死にそうな伊弦が横たわった姿が映像で見えた。


「お前は、やっぱり馬鹿だな」


 伊弦の血は特殊で、献血が可能な十六歳になるよりもずっと前の幼少から定期的に採血して冷凍保存されている。

 そのせいかどうか不明だが、鉄分不足気味で、細身で身長も低め、伊弦はあまり気に留めてないが、初潮も未だない。


 先生が居なくなったせいか、泰時の周りに女子が中心となって、男子はその隙間を縫うように集り話しかけている。その集りは、隣にいる伊弦にも偶に話しかけるが、伊弦に興味があるわけでもなく、泰時の事を聞き出そうとしている。

 休み時間の度に隣がそんな状態だったので、三時限目ではそれを避けるように席を外した。

 授業中では、泰時がよく、伊弦のほうを見ている。

 入ったばかりだし、泰時は授業のフォローを考えているようだし、まぁ、落ち着くまでは仕方ないと諦めた。


 ようやく念願の昼休みで、お弁当持参組と学食組の女子に囲まれ、ちやほやされている泰時を横目に、さっさっと一人で学食にむかう。

 泰時に声を掛けられた気がしないでもないが、苦手な人だかりに緊張もあり(なんせ、初等教育以降、家族や数少ない友人、知人にしか、接してないから)、学食の自動販売機の前で、ホッと一息を吐く。

 学食のメニューを見て、日替わり定食セットに決めたのだが、お金を入れるような所が見当たらない。

 試しに押すと、日替わり定食セットのボタンが光って点滅している。

 財布を持ったまま訝しんでいると、後ろの人が声をかけて来た。


「失礼、カードを持ってますか?」

「へっ?何のカードですか?」


 振り返ると、眼鏡をかけた青い制服の男子が、スッと生徒手帳を出して来て、自動販売機の、前面の一部へ当てる。

 ピッと短い音がなると、番号と日替わり定食と、書かれた紙が出てきた。

 それを手に取って、自動販売機の傍へと体をずらした。


「知らなかったようですね。どうぞ」

「あ、ありがとうございます。現金は使えないんだ…」

「次回から気をつけて下さい」


 そう言って、その眼鏡男子は自分の分を買うと、早々にその場から去ってしまい、慌てて伊弦は付いて行く。

 同じように並び、料理を受け取って、隣の席に座るのを躊躇い、一列違いのテーブルに置いた。

 そうして、食べる前に眼鏡男子に話しかけた。


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