表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

第2回 伊弦さん、初登校

 しかし、伊弦(いづる)は藤城学園に行こうとしなかった。

 それは給食の件に気が付いたという理由ではない。

 彼女が手に入れた編入学願は同じく近所にあった月影女学院だった。


「あら、藤城でなくていいのぉ?」

(かぁ)ちゃんは、偏差値って言葉知ってるか?」

「何ソレ、美味しい?」

「うん、わかった。全ての点数を知ってると仮定して、その一、平均点を求める。その二、平均点の各自の差を求める。この差にプラスマイナスは考えなくてよい。その三、その差の各自の平方数を求める。その四、平方数の平均を求める。これが分散だ。その五、分散の平方根を求める。これが標準偏差だ。その六、平均点との差に10を掛け、標準偏差で割る。その七、それを平均点より高い者は、50を足し、平均点より低い者は50からその数を引く。ちなみに平均点の者はそんな計算をしなくていい。偏差値50という事だ。世間様では、どうやって全員分の点数を知るのか知らんが、その偏差値とやらが、高くないと、藤城学園には入れないようなんだ。全国の高等学校生、全員にテストを受けさせて、その点数を全員分知るには、かなりの諜報活動しないと駄目なんだろう?」


伊弦は、グダグダと、言い募った。


「うん、伊弦が色々とお馬鹿さんだって事は理解出来たわ〜」


 百合は伊弦の頭を撫でた。


「あのね。世の中、点数だけじゃないのよぉ。裏口入学ってものがあるのぉ。わかったぁ?」

「理解した。世の中、金の力が物を言うな」

「コネもないとね〜。人付き合いも大切よぉ〜」


 それは一般的な母親として言うべき事ではないようだが、現代社会の真理としては間違いない事だ。


「あれ?でも、ウチ、貧乏じゃなかったっけ?」


 それだけ金があるならば、もう少し食生活の改善を求めたいところだ。

 愛されてはいると思うが、愛し方が、ペットのそれと大差ない気がしてならない。

 まぁ、体に不自由がある理由(わけ)でもなく、自炊も頑張れば出来るだろうから、これは、我儘だとは分かっている。


「細かい事は気にしないのよぉ。いい女の条件ねぇ」

「いい女は、どうでもいいとして。じゃあ、これで安心して、月影女学院に編入学出来る。藤城は調べてみると欠員募集が出て無いだろ?で、隣の月影にしたんだ。偏差値も藤城より、厳しくないようだし」

「駄目よぉ、藤城でいいの〜。制服が上品なのよ」


 何故か母は、藤城の校章が入った黒の制服を持っていた。


「着てみたらピッタリだったのよね。ふふふ、募集の件は気にしなくとも大丈夫だから」


 どうやら、自分が着てみたかったようだ。

 色々、腑に落ちないが、まぁ、良しとしよう。

 こうして、中高一貫校の私立藤城学園に編入学する事になった。




 そして、九月一日、本日から登校する事になったが、藤城学園に入るのを躊躇した。

 何故なら、

 ーーーーー制服の色が違ってたから。

 ナントイウコトデショウ。

 ごくりと唾を飲み込む。

 上品なグレイの団体さんの中に、何故、たった一人黒なのか。

 この中にどうやったら目立たずに入れるというのか。

 そうだ、転校生って事にして、入れば良いんだ!!

 そう思ったが、しっかりと黒の制服の左胸ポケットには藤城の校章が刺繍されていた。


「駄目だ。今日は駄目だ。仕切り直そう」

 握り拳を作り、勇気ある撤退を決意した。


 その時、伊弦の後ろに黒い車が停車する。


「こら、そこの不審者!」

「は、ハィ、スミマセン」

 どきりとして、体が固まる。


 警察だけは勘弁して下さい。暗殺業は廃業して、安全安心の無害な無職なんです。

 学校に入る前に務所に入れられるのか。

 恐々と後ろを振り返ると、


「僕達が迎えに行くから、一緒に行こうと言っただろう?」

 北条兄弟の兄、泰雅(たいが)だった。


 泰時(たいじ)も車から降りる。

 二人とも、制服の色が黒かった。

 制服マジックとでも言おうか、普段もお洒落なのだが、ギャップというか、より際立って格好良く見える。

 泰雅は、キッチリと、泰時は若干着崩しているが、それはそれで似合っていた。

 そう言えば、誘われてた事を思い出すが、


「いや、断ったじゃん。なんか君達と一緒って、抵抗があってね〜」


 誘って貰ったのは、嬉しい。

 ただ、目立たず行動するには彼等と一緒だと無理があるんじゃないかと、危惧をしていた。

 そこへ、赤い車が停車する。

 名前は分からないが、外車しかも高級と上に付く類の車だろう。

 自動でドアが開くと、中から赤い制服の女生徒が降りてきた。

 先に違うドアから降りた男性が、その女生徒に学生鞄を渡す。


「それでは、お嬢様、お迎えは何時もの時間で宜しいですか」

「ええ、お願いね」


 驚く程、可憐な声で、容貌もそれと合って、美人系、可愛い系とあるが、その両方を兼ね備えていた。

 制服の赤い色が、彼女を引き立てている。

 普通の女子には目をくれない彼等、北条兄弟も、彼女を見ている。


「おはよう、南条(なんじょう)さん」


 泰雅が声をかけ、泰時が頬を染めながら、会釈をする。

 釣られて、慌てて伊弦も会釈をした。


「おはようございます。北条の……泰雅(やすまさ)さんに、泰時(やすとき)さん」


 そう言うと、特に会話をする理由でもなく、先に校舎へと向かって行った。


「な、なんなんだ、アレは。もしや、芸能人とかか?」


 華やかで、匂い立つような、美女というか、美少女だ。

 制服も赤かったし、まさに紅一点といった感じだ。


清香(さやか)さん、今日も美しかった〜。何処ぞの誰かさんとは、一線を画すな」


 泰時が見惚れているのはわかった。

 というか女の私でさえ、見惚れるのだ。見惚れない男性はいないだろう。

 同世代が気にしているであろう日焼けでの肌荒れや、十代は特に気になるニキビ痕の無い透き通った肌感。整った目鼻立ちに綺麗なラインの横顔。スッキリとしたしなやかな身体は、まさに女性の理想を体現しているようだ。


「さて、僕達も行きましょうか」


 そう促され、何となく一緒に歩き出す。


「……」


 やはり制服の色が違うせいか、人の視線が集まっているような気がした。

 ここ数年、引き篭もりな生活をしていただけに、視線が痛い。


「おや、どうしたんだい?」

「せ、制服は、どうして他の人達と違う?」

「あー、それは、北条家との関わりがあるよって意味。南条家は赤。西条家は白、東条家は青だ。分家とか、その家の者が認めた者だけ着用が許されている」

「ほぉ、なるほど〜って、分家とか思われると、私もある意味金持ちに見られてるとか!?」


 自分で言って違和感半端ない。


「ないな」

 即座に自分で否定する。


「要は気に入った人間を見付け易く色付けしたという感じ……一時、西条家次男が高等部にいた頃は、ぞろぞろと白い制服を着た者が沢山歩いてたよ」

「あれ?そういえば、泰時(たいじ)は中等部に行かなくて良いの?」

「ん?伊弦が来るんじゃあ、と思って数ヶ月前に飛び級(スキップ)試験受けた。まぁ、清香さんにも高等部だし、これで少しは近付けるしな」

「はあ?もしや泰時と同じ学年になったってこと?」


 はっきり言って嫌だ。同学年ということは、泰時の面倒を見なくては。


「伊弦は中等からの基礎ないだろ?わかるのかよ?フォローだよ、フォロー」


 泰時が気にしていたのは、学力の問題であった。


「1コ上の泰雅(たいが)ならわかるけど、泰時(たいじ)にフォローされるの?」


 泰雅と泰時、二人とも伊弦と年度として、一つ違いになるのだが、年下にフォローされるのかと思うと複雑だ。


「ふふふ、僕もフォローはしますよ。ですけど、僕も生徒会とかがあるので、どうしても、手が回らないと言うか」


 昇降口で泰雅と別れ、泰時が先立って、案内をする。

 どうやら、クラスも一緒の振り分けのようだ。


「クラスも一緒なのか」

「そうじゃなくちゃ、フォローになんねーだろうが」

 不服気に漏らした言葉に、泰時が鼻白む。

「まぁ、理解した」




 振り分けられたクラスは、一年四組、元は男子13名女子16名の29人のクラスだったが、九月から伊弦と泰時の二人が入る事によって、31人となった。

 泰時が教室の教壇側から入って行くと喜びの声が上がった。

 戸惑いつつも、荷物を置く為にも、続けて、泰時の後ろに付いて行く。

 だいたいみんな揃っているのか、色々な方向を向いていた者が一斉に教壇側の出入り口を見た。


「おお!本当にうちのクラスに北条家の弟さんが来るとは」

「どこの四家とも被ってないと思ってたら、まさかスキップして弟さんが入ってくるとは、思ってなかったわ。ミラクル」


 ピンとはこないが、四家とは、色違い制服を持つ四つの家の事を指すのだろう。


「横にいる女の子は、誰なんだ?」

「黒制服」

「前髪長っ。ちょっと病的ぽくね?」

「なんだか小さいね。同い年に思えない」

泰時(やすとき)様の世話役とか?」

「それにしてもダサッ」


 注目を受けて、顔から火が出る思いをした。

 決して洗練されてるとは、言えないし、顔も良いかと問われたら、黙らざるを得ないが、仕方ないじゃないか。小さいのは生まれつきだし、成長が遅いだけだし。ダサいって聞こえる声で言うか、普通。皆んな毒殺してやろか!?呪術師だったら、今すぐ呪ってやるのに!

 色々な事が頭の中で、ぐるぐると渦巻く。


 そして結局、何と返せば良いのかわからず俯向く。


「黙れ。こいつの事で、何か言う奴は北条を敵に回したと思え」


 普段わりと外面(そとづら)の良い泰時が、冷たい表情で言い放ったので、伊弦は驚いて、不思議そうにその横顔を見た。


「伊弦は俺の、北条家の下僕みたいなもんだからな。俺の所有物。当然、それを貶すって事は、持ち主である俺を貶すって事だ。理解できたか」


 随分な言い様だ。

 騒めきが止む。


「なんだソレ?初耳だぞ。泰時(たいじ)


 虐められないように庇ってくれるつもりなのだろうか。普段は兄弟二人で貶してくる癖に。


 思わず漏れた伊弦の呟きだが、それを泰時が拾う。


「伊弦もそのつもりでいるように。俺達が誘ったんだし、学費諸々、北条家(うち)から出てるしな」

「どうりで、…母ちゃん……!!」


 怒りが沸き上がった。

 百合の顔を思い浮かべる。

 どうりで、藤城を勧めてきた理由(わけ)だ。学費がタダか。タダだからなのかと。

 私を売りやがったな〜。あの悪魔め!!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ