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第19回 伊弦さん、自作自演を疑われる。

あけましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします。

って、リアルタイムの更新直ぐで読んでいる人には、まだあと1時間は早いですね。

 

 体育祭が終えての登校日。

 振替休日もあり、休みを二日挟んでの落ち着いた登校になる筈だったのだが、机の上に置かれたある物が伊弦を固まらせた。


 それは花と花瓶なんてベタなイジメではない。


「魔法のステッキ?」


 よくある魔法少女の持つアレである。

 それにリボンが付いていて、プレゼント仕様だ。


「どうやら、コアなファンが出来たようだな」


 泰時が鼻で笑った。

 体育祭で魔女の仮装をしたからなのだろうが、それで揶揄っているのだろう。とりあえず机の中に仕舞おうとするが、仕舞えず。

 机の中を覗き込むと、中には服が入っていた。

 とりあえず引っ張り出す。


「魔女の服?」


 クラシカルなデザインではなく、今風のコスプレ魔法少女といった具合だ。


「やる気満々だな。着てみるか?」

「まさか」


 悪戯とは言え、捨てていい物なのかも分からず、とりあえず共用のスペースにある落とし物箱の隣に置いた。


「おはようございます、北条様、杠さん」


 あまり接した事のない男子生徒から声を掛けられて、慌てて今教室に入ったばかりの生徒に返事をする。


「お、おはよぅ」

「あっ、杠さん、先日の体育祭、凄かったね」


 女子生徒が伊弦の存在に気付き、先日の感想を伝えて来てくれた。


「そうだね。みんなよく頑張ったよね。学年優勝出来て良かった」

「いづちん、大活躍だね」


 由美子こと、瀬能由美子からも声が掛かった。

 彼女は今日もサイドを編み込み、ぷるんとしたピンクのリップで隙がない。まるでゲームの中の主人公のような可愛さだ。

 今日は色んな人から声が掛けられる。


「あ、ありがとう」


 いつもと少し違う朝。


 こんな事もあるんだと少し感動を覚えた。



 本日からは、文化祭の準備に移る。

 体育祭と1月しか間がないので、放課後の居残りは必須のようだった。

 とりあえず十月は、週二、週三辺りから、進捗に応じて、残る事になりそうだ。


 今後の話として、中等部と同様に5月に体育祭を変える予定らしいが、その時は中高合同でやるとか、まだ話し合いの途中らしい。


 体力差が大きいから、初等部を卒業したばかりの1年生と、高等部では勝負にならないと言う意見で、ランダムで紅白なり、クラス単位で5色で色分けなどして、縦割りでチームを作る話が出ているそうだ。そんな話が出ているらしいが、実際は開催月を変える程度でまとまっていない。



 それはさておき、本日は四時間目に体育があった。


 あれ以降、盗撮の件で特に進展がなかったが、事態は急に動いた。


 伊弦はカーテンで仕切られた個室のような場所で着替えをしたのだが、今度はそのカーテンレールの上にペンタイプの小型カメラが仕掛けられたのだ。


 南条清香達のいる2年1組と2組の合同体育の後に続いて、伊弦達の体育の授業が入れ替わりで行われる日だった。


 1年の伊弦達の授業中にか、分からないが、それは設置されていた。


 それを直ぐには気付かず、伊弦がカーテンを勢いよく閉めた事でカシャンと音を立てて落下して来たのだ。


 急いで設置して、角度を付けるのに注意が向き、固定が甘かったのだろう。


 他のカーテンレールの上には無かったソレをとりあえず矢部さんから貰ったティッシュで包み持ち、スマホでグループ連絡をした。


 2メートル近く(実際には測っていないので180センチ程度かも知れないが)高さのある場所から落下した事で、カメラ機能は壊れたかも知れず、二度目という事もあり、更衣室での盗撮現場には呼ばずに、お昼にそれをみんなに見せる為に持って行った。


「ふむ、今回はwifi搭載型のようだな」


 東条桂季が、何処からか貰ってきた透明ビニール袋に入れる。


「また伊弦の着替えてた場所に?」


 泰雅がそれを持とうとするが、桂季がそれを許さなかった。


「証拠隠滅は駄目だ。これは二度目だよ?」

「それはね、体育の授業後に、着替える為にカーテンを勢いよく閉めたら落ちて来た」


 伊弦が、説明すると、


「それじゃあ、着替え前に気が付いたのか」


 ホッとしたかのように泰時が言った。


 心なしか泰雅も同様の表情だ。


「太いペンだね。角度付けて設置って、これはバランスに欠くよね。カーテン閉める際に落ちるのもわかるわ」


 田中優子の発言に皆が頷く。


「3時限目は私達も、2年1組2組で合同体育でしたけど、そんな物は無かったですね」


 南条清香がそう言うと、メモ用紙を取り出して、簡単にパーテンションを書くと、伊弦がそれに書き加えて、みんなでその着替え場所の確認をした。


「二度も偶然、伊弦が映る位置にあったわけだ?」


 泰時が少し苛々し始めている。


「偶然ではないという方向で考えた方が良いかも知れませんね」


 桂季の発言に清香が頷く。


「伊弦ちゃんは、スタイル良いから、狙われてるのかもね」


 清香や優子の視線が、胸に行く。


「えっ?えっ?」

「手足細っそりとしているのに、巨乳ちゃん。おまけに、童顔の愛らしい顔立ち。コレは、一部の人には、堪らない要素満載だよ?」


 優子のその発言に、北条兄弟も桂季も伊弦から視線を逸らす。


「危険だ」

「うん、危険だな」

「危ないですね」


 顔を少し赤くして、何に対してのコメントなのか。

 いや、でも、わかる事はある。

 私の胸は危険物ではない。


「伊弦は、自分の事を女子にしては腕力があると思っているようだけど、女子でも伊弦を押し倒せると思う」


 泰時が訳のわからない事を言い出した。


「はぁ?」


 何を言っているのか伊弦には理解出来なかった。


「とりあえず、指紋の採取と今からコレの映像を調べようかと思う。もしかしたら犯人が写っている可能性もある。これが動体検知の録画上書きタイプだと、前に録画された物が消されてしまうかもしれないし」


 桂季の言葉に、北条兄弟は直ぐに反応した。


「俺も同席する」

「僕も同席しよう」

「ちょっと、私も見るわよ」


 優子が加わる。


「待って、伊弦ちゃん、見られても大丈夫?体育前の着替え動画が写ってるかもしれないけど……」


 清香が気を使って聞いてきた。


「体育着は、朝、制服の下に着込んでいるので、体育前の着替えは制服を脱ぐだけだから、見られても問題無いですよ」


 それを聞いて、清香も優子もホッとしているが、男三人は、少々ガッカリした感じだった。


 もしかして、見たかったとか?

 自意識過剰か。


 他の女子が写ってる可能性も無いとは言えないので、とりあえず、みんなで見て、脱ぎだしたシーンになったら、再生ストップを掛ければいいと判断した。


 パソコンルームに行き、記録画像を流す。




 結論から言うと、犯人や、他の女子は、写っていなかった。


 犯人は勿論の事、体育前の着替え撮影は無く、体育終了後に伊弦が開いているカーテンから、入って来るシーンや、矢部さんにティッシュを貰ってペンを包み込んだ映像で終わっていたのだ。


 私はティッシュ持ち歩かないのかって?

 持ち歩きませんよ。

 家にはティッシュボックスあるし。

 外で普段、あまり使わないよね?

 女子力?

 何の話?

 それに、持ってると誤って、ポケットにティッシュ突っ込んだまま、よく洗濯回してたりするから。




 本日の更衣室前の防犯カメラの映像を遡って見たが、それでは、変わった動きをする人間や、外部の人間、男性が映り込む事は無かった。



 確認した後で、学年主任の村田先生に桂季と清香と共に行き報告をする。


「また、杠が発見したのか?もしかして、お前が仕掛けたとか無いよな?」


 盗撮をされそうになった被害者の伊弦に対して、村田はそう言ってきた。

 つまり、伊弦の自作自演と疑われたのだ。


「まさか」


 伊弦はそんな事を言われるとは思わずに目を見開いた。


 一緒に来た桂季や清香が思わず伊弦を見る。


「何の為に?」


 東条が思わず呟く。


「悪質な悪戯事件が起きたかと思えば、その後、それを切っ掛けに、杠は東条や、南条と急接近で親しくなった。先生としては、杠を疑いたくはないが、先生方の一部(・・・・・・)は、そう思って疑っているようだぞ」


 村田は疑惑の目を伊弦に向けてきた。

 伊弦は黙って首を振った。


 先生方の一部の意見というよりは、それを言った村田の意見が大きく反映されている気がしないでもないが、言われて見れば、そういう風に他者が見てもおかしくは無い事に気付いた。


 伊弦は居た堪れない気持ちになって俯いた。


 メリットがない。


 彼らと仲良くなった点で、伊弦は友達のような存在が増えた、嬉しいという感情はあるが、他にメリットはない。


 しかしそれは、彼らを利用する事を考えていない伊弦からしてみればの話で、一般には、彼らと仲良くなる事は、かなりのメリットとなるのだろう。


 その点を東条桂季や南条清香本人の前で言われると、かなり気不味い。


 まるで離間の計にでも謀られているかのようだ。


 伊弦にそんな思惑は無くとも、二人は疑い、傷付きもするだろう。

 そんな事を考えている理性とは別に、感情が体を乗っ取る。


 悔しいと言う感情が支配する。

 視界が歪む。

 目に涙が溜まって来ている。



「そうですか。とりあえず報告は致しましたので、私達は、これで、失礼しますわ」


 清香が伊弦の手を取ると、直ぐに職員室から連れ出した。


 桂季がそっとハンカチを差し出す。


 いつの間にか、涙が溢れていた。


 学校でイジメを受けたり、疑惑を持たれる事には慣れている。

 慣れてはいるが、辛くないと言ったら嘘になる。


 大丈夫。

 大丈夫と、心に言い聞かせる。


 私は強いのだから。


 まさか、高校に入って先生から疑われるとは思ってもみなかったのだ。


「大丈夫。伊弦…が、そういう自作自演したとは思ってない」


 桂季は名前に“ さん ”を付けるかどうか、一瞬迷った後に、呼び捨てした。


「あれは酷いです」


 清香が憤慨した。


 どうやら二人は、伊弦が意図して、接近して来た、その為に自作自演したとは全く疑っていなかったようだ。

 それが、救いだった。



 そして、その事を聞いたあとの三人も放課後の学食テラス席で一緒になって怒ってくれた。


「何だソレ」


 泰時は思いっきり椅子を蹴った。


 先に気が晴れてしまった伊弦が、椅子を戻す。


「ハイハイ、蹴らない蹴らない。私物じゃないんだから」

「伊弦はそんな事を考えるタイプじゃないんですが」


 泰雅も不愉快だと、表情に表れるほど、だいぶ気分を害したようだ。


「それではレイプされた人に、お前が誘ったんだろ?とかって言う無神経な人と一緒じゃないですか」

「優子先輩、女子の口からそれは言わない方がイイです」


 伊弦がやんわりと宥める。


「そんな事件が無くても、伊弦と私は、学食で顔見知りになっていたしなぁ」


 桂季が空を仰ぐ。


泰雅(やすまさ)さん、泰時(やすとき)さんと友人っていうだけで、知り合う確率は高いですし。あの時も、一番に連絡した相手は泰時さんのようでしたからね」


 清香の発言に、泰時は、少し機嫌を良くした。


「あの時は偶々、兄貴や東条先輩が傍に居たから、一緒に更衣室へ行ったんだしなぁ」

「僕よりも、泰時の方が暇そうで融通が利くように思えたんだろ。同じクラスだし。僕が生徒会長してるとか、知らなかったようだし」


 泰時の機嫌が戻って来たと思ったら、今度は泰雅の機嫌が幾分か悪くなっていた。


 どの話に引っかかりを感じているのか不明だが、珍しいことだ。


 何はともあれ、誤解が無い事に安堵した。


 皆の習い事の都合もあり、後の話は “ トーク ” でする事になった。





そろそろ寝ますか?初詣に行きますか?

お正月は、まったりと過ごせるといいですね。

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