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第14回 伊弦さん、グループに参加する。


 金曜日。

 先生から、盗撮の件で呼び出しを受けた。


 簡単な受け答えをして、この事は混乱を招くので、暫く黙って置くようにと指示を出された。


 この件は実際に盗撮された証拠とでもいう、マイクロSDのメモリーカードを北条兄弟が破壊した事もあって、醜聞を気にした学園側では、悪戯という事で処理をしようとしている。


 お昼休みに昨日の件を知っているメンバーと共に、食後、話を聞かれ無いように学食のテラス席の一画に座った。


 東条桂季の話によると、更衣室前の監視カメラには、遡って、その前日から当日の出入りする様子を早送りして再生したが、不審人物が映っては居なかったらしい。

 更衣室には、高い位置に窓もあるが、強化された曇りガラスで、内鍵もあり、外から窓を触った形跡はないとの事だった。


 カメラが発見される前に入ったのは女生徒のみだ。

 その日の清掃員は理事長の知り合いらしく、信用がおける年配の女性なのだそうだ。

 つまりは、外部の人間ではなく、内部の女子が設置した犯行の可能性が高い。


 それが常習的に行われていたのか、犯人が分からない為に気をつけるようにと、伝えられた。


 東条桂季や北条兄弟は犯人を捕まえる気で、それから、それぞれ、誰がどの位置のロッカーを使ってたのか、伊弦に聞いてきた。


 しかし、伊弦は着替えに夢中だった事もあり、其々の位置など薄っすらとは覚えていても、詳しくはすぐに話せなかった。名前がまず出てこないのだ。

 盗撮カメラに映らない位置に設置した犯人が着替えていた可能性がある。

 そして、偶然かどうかは分からないが、伊弦が写る位置に居たので、もしかしたら伊弦が意図的に狙われているのかもしれないと伝えてきた。


「それで私を脅して、北条兄弟の動向や弱みを握ろうとしたとか?」

「否定は出来ないが、何とも言えないな。不特定多数の異性の猥褻な映像を狙って撮りたかったものかもしれないし。伊弦さんを狙って撮ったのかもしれないし」

「男なら南条先輩を狙うのが普通じゃないか?」


 泰時の発言で視線が南条清香に集まる。

 家柄もあるが、男性からの注目度ナンバーワン。

 その美貌は、無自覚にも隣に立つ女性全てを公開処刑していること間違いなしの無双無敵の人だ。


「多いわね。でも、清香の鉄壁の防御を破って盗撮出来る人なんていないわ。陰ながら見守り隊もいるしね。幼少からそんな奴に狙われたりして、防衛機能高いみたいだから」

「優子、その言われ方、なにかロボットにでもなった気がするわ。杠さん、ロッカー前じゃなくてカーテンの仕切り内で着替えましょう」


 南条清香が提案する。

 半畳ほどのスペースでカーテン仕切りで、着替えられる所があるのだが、数が八つしか無いので、待たないといけない。


「ええええ、ちょっと面倒臭い。あ、田中先輩は、下は優子さんって名前なんですね?」

「いやいや、面倒臭いじゃないですよ。女の子なんだから。それと、自己紹介した方がいい?みんなこの学園の有名人だから、私の方は知ってるけど。私の事は、学年下の泰時君や、杠ちゃんは、知らないよね。清香の友人の田中優子です」


 茶目っ気たっぷりに裏ピースサインをして、まるで写真を撮るかのようだ。


「赤い制服を着て、その有名人の仲間入りすれば良いのに」


 清香が何か黒い表情で言ったが、優子はスルーした。


「宜しく、田中先輩」


 泰時が笑う。

 慌てて伊弦も挨拶する。


「えっと、私は黒制服を着てるけど、有名人じゃないから、改めて、杠 伊弦です。田中先輩もカーテンでの着替えを支持しているんですか」

「それしかないよね」

「部活しないから、マッ(ぱだか)にならないのに〜」

「あらら、スポブラから、普通のブラに変えないの?」

「はい、今日のような体育のある日は」

「こらこら、二人共……」


 清香が優子と伊弦を窘める。

 男性がいる場で話すべき事柄ではないと、目で語っている。

 泰雅はにこにこと笑顔変わらず、東条桂季は顔を少し逸らして、泰時は少々居心地悪そうな感じだ。


「女の敵は女って事で、伊弦は気をつけろよ。流石に堂々と女子更衣室には乗り込めないからな」


 話を変えようと泰時がぶっきらぼうに言った。

 伊弦はこてっとテーブルに頰をくっつけた。


「また仕掛けてくるかな?」

「どうでしょうね?」


 何故かまたも、清香が伊弦の頰をぷにぷにと人差し指の腹で触ってくる。


「癖になりそう……連れて帰ってもいいかしら」

「「「「駄目です」」」」


 どうやら、清香は伊弦の頰の感触が気に入ったようだった。

 清香から見て、伊弦の態度がだらしなく見えて、それを暗に止めさせようとして頰を触ってくるのかと思い、伊弦は元の体勢に戻す。

 桂季が眼鏡のブリッジを中指で上げて位置を直す。


「あのカメラの録画時間は二時間。他のクラスの女子にも、それとなく、探れたら良いんだけど」


 伊弦の友人は1組の御園麻理だけだ。


「1組の女子に一人しか友人いないからなぁ。一応聞いてみるけど。クラスづつに分かれて、ズラした時間で入れ替えで着替えたから、誰が本当に狙われてたのかは、分からないね。5組だけは午後からの予定だったし。泰時は1学年の女子に知り合いや友人がいる?」

「いない事も無いが、盗撮の件を話す訳にはいかないし抵抗あるな。昨日どこのロッカーを使った?なんて、あまり記憶に残る出来事でも無いだろうし」

「ああ、でも女子なら、大抵決まった場所を利用してる人が多い気がしますけど」

「そう言われれば、少し位置がズレたり、気分によっても変わったりもするけど、大抵の子はそうかも」


 清香の言葉に優子が頷く。

 伊弦も思い返してみると、遠慮みたいなものがあり、他のクラスメートとは少し離れた場所で、同じような位置で着替えをしていたのを思い出した。


「あの位置をよく利用してる子がいるかどうか、部活の後輩達に聞いてみるよ」


 優子が微笑む。


「流石、バレー部部長に選ばれただけあって、頼りになるわね」

「それプレッシャーだから。清香は前から茶道部部長でしょ?」

「私は茶道歴が長いだけよ」

「良かった。田中さんと南条さんのお陰で聞き込み調査も何とかなりそうだね」


 泰雅がニコニコと笑う。

 優しそうな笑顔を作ってはいるが、本当の笑顔に見えないのが、不思議である。

 因みに、泰雅が本当の笑顔を見せる時は、伊弦に意地悪な事を言ったり、悪戯をしている時である。


 盗撮に関してまた情報が出たら、スマホで連絡するという事になり、 “ トーク ” のアプリにグループが作られた。

 伊弦にとってはこれが初グループである。



 放課後、西条明治と落ち合い、車に乗せてもらう。

 本日は採血だ。

 採血時にはいつも明治と家族の誰かしらがが付き添ってくれた。


 伊弦が幼い頃は、少しの採血量でも、父母が心配をしてくれて、終わったら何が食べたいとか、聞いてきた。

 先月の十六才の誕生日を迎えた時に、もう採血は自分一人で行く事を明言したのだが、向かった先には兄の結弦が待ち構えていた。


 医療機器の積まれたトラックの隣に二人乗りのスポーツカーで来ていたのだ。


「伊弦、体調は大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ」


 伊弦は微笑んで見せた。


 長い付き合いになるのに兄の結弦との距離感が伊弦には、いまいちよくわからないでいる。

 兄、結弦は明治と並んでも遜色無しの美形で、こちらが話し掛けると答えるが、他人行儀な人だった。

 そう、過去形。


 西条明治と知り会う前の結弦は、伊弦に気を遣い親切ではあるものの他人を思わせた。

 明治と兄が親しくなってから、態度が変わって来たのだ。

 伊弦に対して、柔らかく優しくなった。


 幼少の頃は、自分が劣っているから、兄にも避けられているんだと思って、酷く落ち込んだものだった。


 そのイメージがいまだ心の奥に残っていて、登校拒否になった頃には、沢山構って貰ったにも関わらず、明治といる方が伊弦の自然体だった。


 トラックの中へ共に入る。


「よし、今回も400抜くから」


 明治が慣れた手つきで、伊弦の腕から血管をみて注射をする。

 採血中は、無性に眠くなったり、冷えを感じたりする。

 結弦が伊弦の体に毛布を掛ける。


「伊弦、終わったら起こすから」

「うん、ありがとう」


 体育もあったせいか、疲れていたのか瞼が重い。


 その日、久々に献血中に夢を見た。

 夢の中で聞いた少し切羽詰まった兄の声。

 兄と明治が出会った頃に夢で聞いた声だった。


「あれは、あの子は妹なんかじゃない。本物の俺の妹は死んだんだ」


 何故兄はそんな事を言ったのか。

 冗談にしては、真剣な声音だった。


「あの子には全く罪は無いが、必要以上に関わって、父や母のように本物のイヅを居なかったかのように忘れたくない。本物のイヅが可哀想だ」


 それに対して明治が何かを言ってくれていたのだが、兄の言った事に傷つき、頭が一杯となり、明治が何を言っていたのか全く頭に入っていなかった。


 本物のイヅって何?

 私は偽物?


 それを夢見た当時は、百合に抱きついて泣いたものだった。


 私は 誰なのか と。


 それを百合に直接聞いたり、兄に夢の話で問い詰める事はしなかったが、百合は何度も何度も、伊弦を抱き締めては、大丈夫、大丈夫よ と、呟いた。


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