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第10回 伊弦さん、ストーカーにモテる?

 

 翌日には、小林はすっかり良くなったようだったが、朝からずっと前田に見られている気がした。

 それをまた、他の女子から見られて、地味女の癖にとか、謂れの無い中傷を受けている。


「キミ、前田くんだっけ?朝から、私を見過ぎだよ?」


 休み時間中に声を掛けて、階段の踊り場で小言を言う。


「小林は裕福だから、50万という金額に、何も感じないのかもしれないが、高校生が動かす金額じゃない。小林と連絡を取れなかったニ、三時間で何をした?それが北条の力か?」

「詮索は良くないなぁ。好奇心猫を殺すと、言うだろう?こちらは至って良心的な処置なのに。それと、何でもかんでも、北条兄弟を絡めないでくれ。彼等と私は、血縁関係もない。昔、私の存在が彼等を救った。その時から、一方的な、(主に食料品の)ゆすりたかりな関係だよ?これだから、黒制服は嫌だったんだ」


 そう、一方的に色々と貰っているだけで、彼等に何も返せてはいない。


「ゆすりたかり?……杠、君は最低だな」


 嫌悪感たっぷりの目で見られる。


「そりゃどうも。私の事を考えている暇があったら、小林の面倒を見た方がいいんじゃない?夏休みから始めたんだろ?身体的依存は消えているだろうが、精神的依存のケアなんて、私はしないからな」

「…チッ」


 前田が舌打ちして去ると、隣にはいつの間にか入れ替わるように、明治が立っていた。


「…無意味に自分を悪者にしすぎだな。血液浄化だけでも妥当な金額だし、どちらかと言うと安い位だ。伊弦の手元に残る金額なんて、大して多くはない。もっと吹っかけて痛い目を見なきゃ、薬中にまた戻るだろうし。薬を買う現金を持っている事が問題だ」

「いつの間に調べたの?流石師匠」

「使用した物の後処理が雑。感染症予防はきっちりとしろ。それと、あそこで漫画は良いが、ポテトチップスを食べるな」

「あら、すっかりバレてたのね」

「バレないでか?」

「あそこまで不審がられるとは、思っても見なかった」

「奴の親は刑事らしい。と言うことは、東条の犬か、単独か?」

桂季(ケーキ)先輩の犬?」


 眼鏡を掛けた穏やかな先輩を思い浮かべる。


「 “ ケーキ先輩 ” ねぇ…。警察関連は東条家が牛耳っているからね。おそらく」

「ふぅん?私には関係ないや」


 東条桂季とは二日だけ一緒に学食で食べただけの関係である。


「東条桂季との仲は?」

「初日に食堂カードを持ってなくて、使って貰っちゃったから。昨日はその分のお金を返しに。どちらかと言うと泰雅繋がりかな。わりとフレンドリーな人だと感じたけど」

「まぁ、近付いて楽しい相手ではないと思うぞ」

「わかった。なるべく避けるよ」


 必要以上に近付いて、自分が逮捕される事によって、芋蔓式に家族が捕まるのは避けたい。


「昔よりも今は、誰が誰と関係してるのか、わからないからな。北条に迷惑掛けたく無ければ、私が用意した制服を着用しとけ。北条よりも、多少の事なら有耶無耶になると思うがな」


 実は、入学前に明治から急遽届いた白制服を持っている。

 そこで少し制服の色で疑問に思ったが、母が前に黒制服の方を試着していた事だし、黒制服を着て出かけたのだ。


「なんでまた白制服なんですか。汚れが目立ちそうだし。どうせなら、グレイの制服を用意して欲しかった。というか、今また制服を白に変えたら、何を言われる事か」

「私が学生の頃はグレイの制服は半分くらいだったんだがな」

「白制服を流行りにしたいとか?」

「そんな事は考えてないよ。今は伊弦の成長しか興味が無いからね」

「えー、美人に育ちそうとか?」


 伊弦は、手を顎にやり、ニカッと笑って見せた。

 あまり上品とは言えない。

 明治は伊弦を見て笑った。


「顔立ちなら、悪くは無いぞ。今の見た目は地味だけど。美人になるかはわからないが、百合さんから化粧でも教わるといい」


 そうして話していると、選択授業に向かう由美子、結花、沙織里に出会った。


「あ、西条先生。西条先生が来るとわかってれば、私達も生物基礎選んでたのに〜。ゆかりんもさおりんも、先生派なんだよ〜」

「先生派?」


 伊弦は首を傾げる。

 記憶が確かなら、泰時の事が気になってたのでは?


「由美子バラしちゃ駄目」


 アイドルに騒ぐのと一緒の感じだ。


「それは残念だったな」


 西条はちっとも残念そうに見えない顔で答える。


「1年4組は、今は北条派と西条派で人気が二分されてるの」

「聞いた事がないや」


 伊弦の知らない所での動きなのだろう。


「ほら、伊弦。授業に遅れるから、そろそろ行くぞ」


 明治に促されてその場から、一緒に離れた。

 その様子は他人から見た時に、まるで西条明治に伊弦がエスコートされているようにしか見えてないのだが、伊弦は普段通りとしか感じてない為、何も思わなかった。


 背後からは、羨望、嫉妬の視線が刺さる。


(単に向かう先が一緒の教室なだけで、これだ)


「やはり、灰色制服を買うか」


 伊弦は制服の色のせいだと思っていた。


「十万超えの出費だな」

「そんなにするものなのか」


 驚愕の真実だ。

 医療器具の利用料などを支払った後の臨時収入では買えない金額である。


「そんなもんだよ」

「そんな制服をポンポンと人に買ってあげてたの?」

「ははは。買うのはあまりないな。どちらかと言うと、白制服の着用の許可をあげてただけ。ここのみんな伊弦とは、財力が違うからね」


 そんなやり取りをしている間に教室に着いてしまった。


「さて、頑張れ」


 肩をポンと叩かれる。

 教室の後ろのドアから、伊弦が先に教室に入っていくと、それを待ってから続いて、教壇側のドアから、明治が教室に入った。


 授業中は、至って普通で先生らしく振舞っている。

 伊弦が始めて出会った頃とは信じられないくらいに変わった気がした。


 天才肌の明治が、他人の非を、他人が出来ないという事を、見下すのを辞め、受容出来るようになっていたのだ。

 それだけ、明治から勉強を教えて貰っていた伊弦が、何をしても遅くて、物覚えが悪かったから、なのかもしれないが、明治の他人に対しての許容量とでも言うようなものが拡がったかのようだ。

 ニマニマして、授業を受けていたら、明治に軽く小突かれた。


 本日のお昼は、泰時に捕まえられ、取り巻き(?)団体様、と一緒に食べた。


 伊弦に話しかけてくるのは、泰時だけで、あとは仲間内の泰時へのアピール会話とかで、決して伊弦が無視されている理由ではないのだが、話の内容が、デザイナーブランドだったり、海外の話題だったりで、会話に入れず針の筵にしか感じられなかった。


 別の場所で食べていた、泰雅と、桂季を羨ましげに見るが、こちらの心境を知ってか知らずか、二人共ニコニコ笑ってるだけだった。



 夜 になったら“ トーク ” で誰かに愚痴ろうと伊弦は、げっそりしながらも思った。

 文字だと、わりと緊張などしないで何でも話せる気がした。


 今、伊弦とやり取りしてくれている人は、藤堂剣聖、北条泰時、御園麻理。電話帳からの自動追加登録で、百合(はは)結弦(あに)、西条明治、北条泰雅といった感じだ。


 家族・身内枠を抜かすと、新しい友人が二名。

 良い出だしである。

 もっとも、友人でクラスメートはいないが。


 クラスメートから、よく聞かれるのは「泰時くん(泰雅様または西条様)のIDをコッソリ教えて」とかだ。

 伊弦を通り越して泰時や明治へと関心が向かっている。

「IDって何?」と切り返して聞くと、「もういい」「あるいは調べてあげるからスマホを貸して…」と なる。

 流石にスマホを貸すことはしないが。


 勿論、本人から直接IDを聞く人もいるが、そう言う人は、自分が貰った情報を簡単に他人に漏らしはしない。




 放課後、部活動をした方がいいと、宮前先生や亀井先生の勧めで、一応見学に行く。

 とりあえず、興味が持てそうな部活を巡る事にした。


 泰時も一緒という事もあり、熱烈な歓迎を受けた。

 一つ下の年齢ながらも、劣らない運動神経で、優秀な頭脳の持ち主。外見も良く、兄の泰雅よりも気さくな雰囲気で話し易いせいか、何処へ行っても、泰時は人に囲まれてしまう。


 弓道部、馬術部、PC部、天文部、料理部などへ行く予定が、弓道部へ行く途中に通る体育館で練習していた、バスケ部やバレー部に捕まり、そちらに引っ張り込まれたり、馬術部へ行く途中のテニスコートを通りかかって、同じ現象が発生している。


 折畳み椅子を用意されて、それに座りテニスコートで試合形式で練習に励む女子生徒を漠然と見ながら、伊弦はついに口に出した。


「なあ、泰時。私と一緒に行動しなくてもいいんじゃないのか?泰時はサッカーやバスケで良いんじゃない?」

「俺は別にそれでも構わないよ?だけど、その場合、お前マネージャーだからな」

「いやいや、一緒の高校に入ったからといって、一緒の部活動にする必要性がないって話だ」

「お前は、昔から変な奴に好かれるストーカー・ホイホイだから、一緒の方が俺の精神衛生上良いに決まってるだろう」


 泰時が溜息を吐く。

 伊弦は過去を振り返るが、ストーカーが出来るようなモテ期など来た試しが無かった。


「特に好かれた記憶とかは無いんだが」

「確実に好意とは限らないのがミソだ」


 それを聞いて納得した。

 執拗な嫌がらせ、付き纏いを繰り返すような人物も、ストーカーって事だ。


 家業や、母が呪術師最後として伊弦に掛けた呪いの副作用みたいなものが原因かもしれないが、昔っからそういう相手には事欠かない。


(あれ?でも、学校関連に関しては、ほぼ、北条兄弟が原因なような気もしないでもないけど)


「今怪しいのは、体育の亀井と、同級生の小林と前田だな。ちょっと気になるのは、一つ上の東条だ」

「はあ?一緒に組むしかないから、亀井先生は組んでるだけだし、小林は中毒症状を助けただけで、それも医療機器が役立っただけであって、私が助けたと言う感じではない。前田は親が警察官だか、刑事だかで、正義感か何かで、こちらを怪しんでるだけで……まぁ、これは仕方ないけど。桂季先輩は、二日間一緒にお昼食べただけだし」


 何か接触した人物全てが怪しまれているだけな気がしてならない。


「西条なんて、ストーカーの最たるものじゃないか」

「いや明治は単に暇潰しだと」

「学校にまで追って来てか?」

「そんな人なんだよ」


 自分の興味がある事に極端に偏った人で、その際の苦労は全く厭わない。

 それが西条明治だ。


「とにかく気を付けろよ。俺に殺される前に誰かに殺されるなんて事のないようにな」

「はいはい」


 伊弦は、座りっぱなしで凝り固まった背中を、腕を上げて伸ばして、その場でストレッチした。



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