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曇りガラスの濃霧
曇りガラスを見ていると不思議に思えてくる。
頭の中で霧が深まった部分を感じるのだ。
ただ、曇りガラスを見ているだけなのに。
見続けていると、霧がどんどん濃度を増していく。
暴かれたくないと言わんばかりに。
いや、思い出したくないのか。
深まった濃霧にある記憶が、思い出すことを拒絶している。
そのように感じさせてくる。
思い出すことを諦めるべきなのだろう。
身体への負担を、脳への負担を、かけないために。
私はそう考えると、海の写真を眺めた。
記憶の無い私が唯一持っていたボロボロの海の写真を。
なぜかこの写真を眺めていると、落ち着きを感じる。
これもまた不思議なことだ。
記憶が有ろうが無かろうが、私にはどちらでも構わないこと。
現在の私を作り出しているのは、他ならぬ現在の私自身なのだから――。
《終》




