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幽霊の遺言
昔の恋人に出会った。元カノと言えたら良かったかもしれない。
しかし、彼女は数ヶ月前の交通事故で亡くなっている。
だから、そこにいる昔の恋人だった彼女は幽霊なのだ。
だが、彼女を見ていると不思議と悪意は感じられなかった。
こちらに気づいた彼女は音もなく近寄って来て、囁くように言った。
『わたしのことは忘れていいからね』
言い終えた彼女は笑いながら光の粒になって、空へと昇り消えていった。
……生前と変わらない笑顔で、難しいことを言ってくれるじゃないか。
幽霊となった彼女に再会して、笑いながら忘れてくれって。
で、そのまま消えていってって。
不可能に近しいことをやらせないでもらいたい。
そう私は涙を流しながら毒づいた。
せっかくだ。この経験を誰かに話そう。
酒の席で酔っ払って冗談混じりに。
それが彼女の願いだとしたら、とことんやってやろう。
酔いの冗談混じりに語って、覚え続けてやるんだ。
そう考えると、不思議と笑みが零れていたーー。
《終》




