闇夜の領主
闇夜には気をつけなさい。
それは夜の住民たちが活動を始める時間だから。
紅い満月が差し込む闇夜には特に気をつけなさい。
若い娘ならば、さらに特に気をつけなさい。乙女ならば特に。
闇夜の領主に目をつけられたら、村での生命はないのだから。
闇夜の領主は夜の住民たちの支配者。
ゆえに、彼の怒りを恐れる者たちは無益な殺生をしない。
されど、闇夜の領主の怒りに触れたなら、誰も生き残ることはできないから。
乙女が夜の森に入り込んだなら、村との別れを決意しなさい。
何故ならば、夜の森に入り込んだ彼女の伴侶は闇夜の領主となるのだから。
村での交遊を闇夜の領主は許さないゆえに。
闇夜の領主が若い娘を、乙女を伴侶にする理由。
それは、乙女の身体に流れる血液が闇夜の領主の好物だから。
闇夜の領主は吸血鬼。血液を糧にして生きる恐怖の存在。
彼の欲望の衝動は、誰にも抑えられない。
衝動の標的にされたなら、誰も生き残ることはできない。
だからこそ、闇夜の領主の支配領域である夜の森に入り込んでならない。
夜の住民たちに誘われたとしても、断りなさい。
そうすれば、村での生活に平安が来るのだから――。
《終》