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手がかりを調べて

ある夏の日に記憶喪失になった私に、一つの言葉が残されていた。

小野さんという言葉だ。小野さん、という発音なのだから名字にちがいない。

誰の名字かは分からないが。

そう思った私はどうしても小野さんに会いたいと思った。

たしかに、小野さんに会うには障害がある。

一つは、小野さんが誰なのか分からないこと。

二つは、複数の小野さんがいるかもしれないこと。

三つは、小野さんがホームのどこにいるのか誰も知らないということだ。

しかし、私は決して、決して、あきらめない。

熱中症になったとしても、意地でもやりとげてみせる。

私にやるだけのことはやってやるんだ。

結果はこうだった。

私がひたすら探していた小野さんというのは、逃亡中の犯人の名前だったのだ。

ホームのどこかというのは、私が駅で電車を待っている時に犯人である小野さんに撥ね飛ばされた場所のことだったらしい。

複数の小野さんというのは、その地域で小野さんという姓が密集していたから。

密集していたら、小野さんと呼んでも全員が全員小野さんだから、誰なのか分からないはずだ。

ここまで調べても私が喪失した記憶は戻って来なかった。

だが、今となってはどうでもいいとすら思える。

記憶があってもなくても、私という存在はここにいるのだから。

《終》


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