転職
本当なら、長く勤めてきた今の会社を辞めたい。
しかし、それはできない。
なぜならば、私の再就職先が見つかっていないからだ。
私にはできる仕事が限られている。しかし、他の仕事をやってみたい気持ちもある。
時間は日々のなかで刻々と過ぎていく。無情なまでに。
このまま今の会社で働いていくべきか、それともスパッと辞めるべきか。
私はどうすればいいんだ。
ふと、求人雑誌を読んでいると、希望に叶った職場を見つけた。
「これだ!」
「どうしたんだ?」
「まさか辞めるのか?」
周囲が騒ぎはじめた。
私を引き留めようとしてだろう。しかし、私はあきらめない。あきらめてなるものか。
私は決めた。
私はある日の午後に半休を希望した。
転職先の会社での面接を受けるためだ。
礼服に着替えて面接に臨んだ。
採用か不採用かは分からない。
「結果は数日後に郵便物として自宅に送らせていただきます」
「はい、わかりました」
私にできることは全部やった。
後は待つだけだ。
それから数日後。自宅に郵便物が届いた。
送り主は転職先の会社となっている。
おそらくは、面接の結果だろう。
恐る恐る中を開いて結果を見ると、そこにあったのは、採用の二文字が書かれたものだった。
出社のことなど、その他もろもろのことが書かれていた。
私はそれを大切にタンスの中へ保管すると、小躍りした。
再就職先が決まったのだ。踊りたくもなる。近所に迷惑をかけないために小躍りだが。
翌日、会社の上司に面接結果を報告して、退職する意を伝えると、こう言われた。
「引き留めたとしても、無駄だろう。なら、せめて頑張ってこい」
「わかりました。今までお世話になりました」
退職のためのその他もろもろの手続きを終えると、今まで勤めていた会社の建物に向かって、私はお辞儀をした。
「十年間、今までお世話になりました」
静かにひっそりとやったお辞儀は、誰かに見られることはなかった。
私にとっては幸いだった。見られると恥ずかしいから。
それから数日後。私は会社の前にいる。転職先の会社にだ。
私の気持ちは一つだけ。仕事のことしかない。




