恋人とのんびりしました。-3
そういえば、人魚姫って……
「何で、泡になったんだっけ……?」
そして、俺は人魚姫の内容を思い出す。思い出す、っていうか、少ない情報をかき集める感じだけど。
ええと、人間になったのが王子に惚れたからで。
確か、泡になったのが王子と結ばれなかったから、だっけ?
えっと、じゃあ、こいつが泡になったのは……
「いや、いやいやいや!!」
生まれた考えを慌ててかき消した。
思わず大声を出しちまったことで、恋人様もびっくりして集中をきらせてしまった。ああ、折角楽しそうだったのに、申し訳ねえ……。
「あ、ああ。悪い……」
取り乱したことを謝りつつ、自分の息を落ち着ける。そして、恋人様が再びDVDを見られるように腕の中であやすようにゆすった。
「……はあ」
自己嫌悪に襲われつつ、今生まれた考えが再度脳裏に浮かんだ。
こいつが泡になったのも、ふられたことが原因か。そういう考えが浮かんでしまった。
そんなこと、ありえないのに。
俺はこいつに何回も何百回もふられてるけど、こいつが俺にふられたことなんてない。泡になる前日もいつも通りに過ごしたし。
そもそも、俺がこいつと付き合うのにどれだけかかったと思ってんだ。ふる、とかありえねえだろ。
こいつが俺にふられた回数はゼロだけど、俺のふられた回数は多分三桁じゃ足りない。
出会ってから、毎日毎日会うたびに愛を伝えていた。一日一回じゃ多分足りないくらい。
偶然なのか運命なのか、俺はこいつに何度も会えた。まぁ、数百メートルの範囲に入ったらこいつの存在がわかったんだけどな。
三年くらいかけて付き合うに至ったから……ああ、三桁じゃ足りねえわ。途中に閏年あったし。
それで、付き合ってからは増々好きな気持ちが溢れてきて、また伝える日々。
ふられることとか、絶対にない。
……とは言っても、一度浮かんだ考えは頭に残るもので。
「じゃあ……」
俺じゃねえなら……別の……
「いや、いやいやいやいやいやいやいやいや!!」
さっきよりも大きな声で俺は否定の言葉を口にする。
焦ったゆえに突然あがった大声に、恋人もこれでもかと驚いてしまった。人の姿だったら、飛び上がっていたくらいに。
……あ、やべえ。ちょっと怒ってる。
「あああ、悪い!本当にごめん!!」
折角楽しんでる恋人の邪魔を再びしてしまい、本当に申し訳ない。
こいつが、誰かに浮気するとか、それこそありえねえのに。そんなやつじゃねえ、ってわかってるのに。
……俺ってやつは。恋人疑って、楽しんでるのを邪魔するとか何やってんだ。情けねえ……あ、やべえ。ちょっと泣けてきた。
「……ん?ああ、うん。ちょっとな……」
恋人が、そんな俺を見て驚くとともにあたふたしている。何だろ、こいつに心配とかかけたくねえのに、心配されて大分嬉しい。
でも、こんな俺じゃ、情けねえよな。もしかしたら、絶対に考えたくねえけど……嫌われちまうかも。
「俺さ……」
そんなことには絶対になりたくねえから、俺はこいつに嫌われないように、今よりももっと好きになってもらえるように、ある決意をした。
「お前の好きな劇団の名前、覚えるわ……」
恋人に疑問符が浮かんだが、情けねえ俺は黙って恋人を抱き締めた。
とりあえず、心配しなくていい、ってことはDVDが終わるまでには伝わった。