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恋人に伝えてみました。

真っ赤になる恋人も可愛いなあ……。と思いつつそのまま口に出した。


「おはよう。あー、お前可愛いな。今日も大好きだからなあ」


言ってはみるものの、返事はない。でも、照れているんだろうなというのは何となくわかる。泡だから普段より察せることは少ないけど、それでもわかることがある。どんな見た目になっても、こいつはこいつなんだな、ってちょっと安心した。


「起こしちまって悪い。シーツ汚れてっから変えるんだけどよ、退いてもらうのに、その……ちょっと触ることになるからさ」


何か、我ながら間抜けな言葉だと思う。こいつが人の姿のときは例えこいつが寝ていても少しずつシーツを引っ張って外せるんだが、泡では難しそうだと伝えた。


まぁ、触りたいっていうのが一番大きな感情だが、それは伝えないでおく。


「……ん?」


恋人がちょっと泡だった。ぶくっ、と少しだけ膨らみを増し、そして動かなくなった。


「どうした?」


と訊いてみても返事は勿論なく、それ以上の反応も得られない。


でも、この反応の意味はすぐにわかった。だって、人の姿のときと似ているから。


「何か、不安なのか?」


不安があると、こいつは口数が減る。でも、その不安を俺に聞いてほしいときは遠慮がちにだが仕草に表れる。


聞いてほしいときは、ちゃんと聴くし、聞いてほしくないときは、黙って側にいる。付き合いたての頃は何かあったら黙りこんでいたけど、最近はよく伝えてくれるようになった。


変な言い方するようだけど、懐かれたようでこそばゆい気持ちになる。


昔は警戒心が強かったこいつに心を開いてもらえるように、それはそれは根気強く接していた。


でも、ちょっと心を開いてくれた段階でがっついてしまって逆戻りしたりもしてめちゃくちゃ凹んだこともあった。


……だって嬉しかったし、恥ずかしそうに色々話してくれる様子がいじらしいは愛くるしいはで、何て言うか庇護欲と征服欲?をこれでもかと煽られたんだ。


話を戻して。不安があるのはわかったが、それが何かはわからない。


だから、それは訊いて確認するしかない。


「泡になったことか?」


違うらしい。


「今服着てねえこと?」


違うらしい。

あ、ちょっと赤くなった。


「あ、わかった。昨日買ったプリンが食えねえこと」


違うらしい。

怒るなって、別にバカにしてるわけじゃねえんだから。


「……何か、俺には言えねえこと?」


……これも違うらしい。


「あー、あとは何だ……朝メシ食えねえこと?」


自分でも違うだろう、と思ったことは案の定違った。


あとは何だ、と頭を悩ませると、また泡がぶくっ、と動いた。


「ん?」


そしてまた沈黙。


その様子を俺はどこかで見たような気がして、ない頭を捻って思い出そうとした。


「……あ」


そして、昔一回だけ、こいつに向けられた不安そうな視線を思い出す。


「自惚れみたいで悪いんだけどよ、もしかして……」


そして、その時言われたセリフも同時に脳裏で再生されていた。


「俺が、お前のこと、泡になってめんどくさいって思ってないか……って思ってるのか?」


……。


………。


…………。


……………あ、あってるらしい。


「あー、そういうことか……」


昔一回だけ、こいつに不安そうな視線を向けられて、そして訊かれたことがある。


そんなに根気強く接して、私のことめんどくさく思わないのか、って。


「思うわけねえだろう?」


極力優しい声で、腹のそこから込み上げる愛しさがちゃんと伝わるように、宥めるように言い聞かせる。


「前も言ったけどよ……俺はお前のこと、本当に全部大好きで仕方ねえんだって。めんどくさい訳ねえし、もしめんどくさいって思っても、そんなところも可愛くて好きなんだよ」


そりゃあ、人の姿のときに惚れたんだけどよ、泡でも空気でも鳥でも魚でも、お前だったら好きなんだって。


不安に思うところも好きだけど、ずっと不安でいてほしいなんてあり得ない。


毎日、気がついたら好きだの愛してるだのと伝えているんだが、それでも不安になることはあるんだな。そんなところも、当然だが大好きだ。


愛しさと慈しみを込めた視線を送っていると、ふと自分の中にも不安が生まれた。


そして、俺はそういうのを訊かずにはいられないタイプなので、恥ずかしさと嬉しさに戸惑っている愛らしい恋人様にぶつけてみた。


「……ていうか、寧ろこんな俺が、その、しつこくねえかな、って思ったりもするんだけど。なぁ、俺ってしつこかったりするか?」


どうやら、これも違うらしい。




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