恋人と寝ました。
夜中に考え事するといいことはない。寧ろ何かグルグルなっちまって、悪いことばっかり浮かぶ。
というわけで、今日は色々あって疲れたし、明日も休みなんだから明日考えよう。……というようなことを恋人様が言っている気がしたので今日は寝ることになった。
「じゃあ電気消すな。お休み」
そう言って部屋の電気を落とす。いつもだったら寝る前にいちゃいちゃして、なんやかんや雰囲気で雪崩れ込むんだが今日は無体を働くわけにはいかない。キスくらいならできる気はするが、ていうかしたいが、恋人様が疲れてるみたいなので我慢する。
キスすると何だか高揚して眠れない……と顔真っ赤にして昔言われた。可愛かった。高揚した。
「……ん?え、いや変なことなんて考えてねえよ」
何かを察したらしい恋人様にジトッとした目で見られる。実際は目とかないから、そういう雰囲気なんだな、ってことだけど。
可愛いな、って思うことが変なわけないだろ。通常運転だ。
「じゃあ、俺は布団で寝るけど……うん、わかったよ一人寝する」
恋人様としては小瓶に入っているのが落ち着くらしく、小瓶に入ったまま寝るらしい。それ眠れるのか?って疑問だったけど、下手に広げられると何か落ち着かない、らしい。感覚の違いとか慣れとかの問題だろうか。
こういう俺じゃあどうしようもない問題は歯がゆく感じるが、かといって何かできるわけでもないから言うこときくしかない。俺は渋々布団に引っ込む。
「明日も愛してるからな」
なお、これはいつもの挨拶だ。
いや、いつもしてるからって文言だけを繰り返してるわけじゃねえぞ?言うたびにこう愛しさっていうのか暖かいものが沸き上がってくるし、そういうのが伝わると良いな、って思ってる。
これ言ったときのこいつの反応は、その時の態度や感情で変わる。ツンツンしてたり満更でもなさそうだったり、時には笑顔で「私も」って返してくれたり。どれもこれも可愛らしくって堪らない。高揚する。
で、今日はというと……
「え、おいどうした⁉」
恋人様は、何故だか泣きそうになっている。
掛けようとしていた布団をふっとばし、電気をつけて恋人様に駆け寄る。
「ど、どうした ⁉ 何かあったか ?」
何か見逃したか、それとも俺が何かしたか。
わからないなりに恋人様を宥める。真っ青でどこか震えている、泣き出しそうな不安定で危うい状態だ。
「よしよし……うん ? どうした ? 泣いたほうが楽なら、泣いてもいいんだぞ ?」
恋人様を宥めつつ、溜まってるものを全部吐き出させようと試みる。
しばらくそのままでいると、恋人様は徐々に落ち着いてどこかぐったりとしている。一先ず、何か大きな問題が起きたようではなかった。良かった。
「……落ち着いたか ?」
問いかけに、恋人様は静かに肯定を返す。
どこか申し訳なさそうにする様子は弱々しく、疲れている。ぐずぐずと色々なものを引きずっているようで、完全に落ち着いたとはまだ言えない様態だ。
「大丈夫か ?」
頷く恋人様を、小瓶ごと壊さないように抱きしめる。
多分、今の反応に明確な理由はない。疲れてる、って言ってたし、グルグル考え込む、ってさっき言ってたし。あれは、これ以上グルグル考え込むのが嫌だから、ってことだったんだろう。
「……なあ、今日、一緒に寝ていいか ?」
唐突な提案に、一瞬驚いた様子を見せる。でも、すぐにそれは薄れて、小さく肯定を示してくれた。
「うん、じゃあ一緒に寝ようぜ ?」
そう言って、小瓶の中の恋人様を、潰さないように、それでも隙間があんまりないようにくっついて、眠る姿勢になる。
情緒不安定になっているこいつを、一人で寝させるなんてできない。
疲れとか身体的な変化とか、そういうのが重なって嫌なこと考えちまったのか。
それで俺の挨拶が琴線に触れて、グルグルが溢れてしまったのか。
「嫌なこととか、辛いこととか、俺は全部察するのはできねえんだけどさ……」
諭すように宥めるように、なるべく負担に聞こえない口調で俺は続ける。
「でも一緒にはいたいからさ……あんまり隠そうとすんなよ」
小瓶のままでも、一緒に眠ることはできる。
一人で寝ようとしたのは、俺に隠そうとしたんだろう。
話したくないなら見逃すこともするけど、本当に辛いときとか、悲しいときには何言われても見逃せない。恋人だから、これからもずっと一緒にいたいから、傍にいたいから。
「うん……うん、お休み」
不安とか寂しさとか、そういうのが入ってこれないように。恋人を引き寄せて普段みたいにくっついて寝た。
せめて眠っているときくらい、何にも悩まされないでいてほしい。