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恋人に謝りました。



夕飯を食べて、身綺麗にもして、だらだらと二人でテレビを見てる。こういう時間って良いよな。一緒にいて当たり前っていうか、家族っぽいっていうか。


これと言ってみたいものもないので適当につけた番組をそのまま流している。バブル時代を懐かしむ、みたいな内容で派手だけど古めな映像に芸能人があれこれコメントしてる。


なんとなく眺めてはいるんだが、俺もこいつも真面目には見ていない。


「そういやさー」


間延びした声で俺が切り出すと、恋人様の意識もすぐにこっちに向いた。こういう瞬間って良いよな。


「何でバブルっていうんだ?」


恋人様は現在進行形で泡だけど、当然これとは違うんだろう。日本国民がみんな泡になったら懐かしむどころじゃないだろうし。


「んー……」


恋人様も、これといって明確な答えは知らないようだ。そういえば何でだろう、みたいな状態なのでスマホで早速検索する。基本的にこいつといるときはあまりスマホを触らないんだが、こいつも気になるなら仕方ない。


あと、バブルって調べたらもしかしたら恋人様の今の状況に関係あることが出てくるかもしれねえし。無責任な期待は持たせたくないから、そっちは口のしないけど。


「あー、何か中身のないものが膨らんで弾ける様子のことなんだと」


と、言ったら恋人様が微妙に緊張感を持った。


「いや、大丈夫だって。いきなり弾けたりしねえよ。さっき触った感じだと、中身入ってそうだったし」


泡が弾ける、という表現が問題だった。確かに泡に対するマイナスイメージの言葉はよくなかった。


そこまで気にした様子じゃねえから、ちょっと気になった、程度だろう。口に出さなかったらあまり気にしなかったんだろうが、いざ言われてしまうと気に障るものがあったらしい。


「……なあ」


俺は、恋人様を安心させると同時に一つの仮説が生まれた。割と失礼な仮説だが、もしかしたら答えかもしれない、という程度には説得力がある。


「ちょっと訊きてえんだけどよ……うん、ちょっと失礼な話なんだけどな」


弾けはしないだろうが、恋人様が膨れたのは事実だ。


このバブル経済の中身がないものが膨れた、っていうのはつまり、実力以上の結果が生まれた、っていうことだろう。


ここで一つ。恋人様の体型は出会った頃から変化がない。それが本来のこいつの状態なんだとしたら……


「お前さ……最近太ったとかある?」


この瞬間のことを、俺は生涯忘れないだろう。


一瞬で部屋の温度が下がり恋人様の周囲に冷気が生じた、と思ったら一気に烈火のごとくふくれあがった。


「すいませんでしたぁぁああ‼‼」


謝罪と同時に、俺は頭を深々と下げた。ていうか自然のうちに土下座した。


そうだよな、お前太ってないよな。俺毎日一緒にいて何なら触ってるけど全然肉ついてねえもんな。


「本当に悪かった、いや、もしかしたらお前の今の状況に関係あるかな、ってちょっと間違えて!出来心で好奇心というか太ったら太ったで可愛いだろうしぷにってるなら触りてえとか、いやお前の細い腰とか好きだけど細すぎてたまに不安というか‼」


恋人の怒りをおさめようと俺は必死で言葉を繋ぐ。思い付く言葉を考えずに声にしているので自分でも自分が何言ってるかわかってねえけど。


という感じで言葉を尽くしたら、恋人様の怒りは和らいだらしい。誠意は大事だな。


俺の恋人様はまあそれはそれは細い。出るとこ出ないで全体的に細い。というか薄い。骨皮じゃなくて、脂肪が少なくて綺麗に筋肉がついてる感じ。


持って生まれた骨格の美しさもあるが、筋肉のしなやかさや動くときの一瞬一瞬の陰影とか、そういう生じゃねえとわからない美しさっていうのがある。


そんな恋人様は体型維持にとにかく気合いをいれているわけで、太ったなんて疑ったらそりゃ怒るよな。悪かった。


「……うん?いや、太ってなくても触りてえけど?」


俺の発言で、恋人様はもっと肉をつけたほうがいいのか少し気にしだした。俺の発言で、ってことにすごく興奮する。触りたい。


「まあ、健康上の不安はあるけども」


細すぎる恋人様は、もう少し肉をつけたほうがいいと思う。健康的な意味で。


そこまで言うと、どうやら恋人様の怒りも収まったようだ。良かった。


ちょっと揉めて、すぐに仲直りして、一層仲良くなって。こういう時間って良いよな。一緒にいて当たり前っていうか、家族っぽいっていうか。




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