恋人と喧嘩しました。
今から言うのは、言い訳だけども、
何で、俺がこいつが泡になっても慌てなかったのか、って話。
「なあ、スイカ切るけど……はいはい、大きめな」
恋人様は結構な気分屋、に見える。
ふらふらしていて、その時の思いつきで動いてるよう、に見える。
知り合ってから少しの間、俺は見えるままにそう思ってた。
「俺が選んだから、あんまり甘くねえかもしれないからな?」
何をしていても大変に魅力的な恋人様ではあるが、思っていたよりも行動が予想外だった。振り回されるのが楽しいっていう未知の喜びを見出だしていた。当然、今も嬉しい。
でも、付き合ってからわかった。それは全然違ったんだって。
「何も言わないなら、いつも通りに切るけどよ……あの姿だと、スーパーのカットフルーツみたいに賽の目切りのほうがいいんじゃねえのかな」
付き合いはじめた当初、恋人様と大喧嘩になった。
きっかけは、俺の気の使い方。はっきり言って、余計なお世話、ってやつをやらかした。
可愛い可愛い恋人様が、ふらふらしているように見えたので、俺なりに気をかけていた。……いや、まあ、構いたいだろ。だって恋人だぞ。
それが、恋人様には気にさわったらしく、ある日爆発した。
私には、私のペースがあるんだから。って。
気分屋に見えた恋人様は、実は色々と考えた上で動いていたようで、それを俺はわかっていなかった。
恋人様が怒る様子はすさまじかった。美人が怒ると迫力があるんだな、ってよくわかった。
睨んでる様子が上目遣いになってて可愛らしかった、と言ったら腹パンされたなあ。恋人様から手を出されたのは、手を出すって変な意味じゃねえけど、記憶にあるのはそれだけだ。それだけ、怒ってたってことだ。
「魚にスイカだったから……明日はこってりしたもんがいいな。あとであいつにも訊いてみるか」
その時、話し合いの末に俺達は決めた。
言葉にして伝えよう、と。
自分でどうにかできることは自分でどうにかする。
助けてほしいときは助けてほしいと言う。
甘えたいときは甘えたいと言う。
元々、好きだ大好きだ愛してる、と声を大にして叫んでいた俺は、甘やかしたい甘えてほしい、と言うことに抵抗はなかった。
でも、先に怒られたことから、必要以上に話してほしい、とは言わない。
今回のことも、それがあるから、
こいつが必要以上に助けを求めないなら、それ以上は踏み込まないでいることにしていた。
でも、今回はさすがに踏み込むべきなんだろうな。
「……ちょっと、つまみ食い」
いくら言わないからって、はいそうですか、じゃいけないこともあるんだな。
俺とこいつだけだったら別にいいけど、弟とか、ほかのやつにまで色々と関係してくるなら、俺も考えなきゃダメなんだな。
そんな、言葉にしてみたら当たり前のことに、俺はまた気がついていなかったみてえだ。
「あー……やっぱり甘くねえな」
世の中、そんなに甘くないな。