恋人のことを訊かれました。
「ごめんね、突然。夕飯作ってたんだよね?」
「別に構わねえよ、弟が兄に遠慮するとか可笑しいだろ」
妙によそよそしい弟に、思わず苦笑が漏れた。
そりゃあ恋人といるときをめちゃくちゃに邪魔されたら怒るが、滅多に会えない弟が、近くに来たからよった、なんて嬉しいこと言ってくれたら話は別だ。
あと、将来的には弟と恋人も仲良くしてもらいてえからな。礼儀も大切だけど、ほどほどの距離感でいてもらいたい。
「つーか、お前こそ大丈夫なのか?ちょっと痩せただろ。仕事、忙しいのか?」
「大丈夫。最近忙しいかったけど、今取引先の人と会ってきて、それで一段落ついたんだ」
「そっか……お疲れ様」
会社勤めの俺と違って、弟は自営業の自由業?らしい。だから休みは不定期だし、プライベートも仕事のこと考えてる節があって連絡もあまりない。俺も、休日は恋人を優先してしまうから連絡することが少ない。
「あがってくか?」
「ううん、今日はすぐ帰るね。ご飯作ってるってことは、恋人さんいるんでしょ?」
「……ああ、うん」
察しのいい弟は、俺が料理する理由をよくわかっている。昔の俺は、料理どころか食事すら最低限で良かった。そんな俺がちゃんと食事をし、料理をするようになったのは、まぁ恋人のおかげだったりする。
ただ食事に興味がなかった俺は、料理の基礎すら全然できなくて、弟やら母親に家の味を教えてもらった過去がある。
「今はいないの?出掛けてるとか?」
「まぁ……そんなとこだ」
「そっか、じゃあ恋人さんが戻ってくる前に帰るね。よろしく言っておいて」
「ああ、帰り気を付けろよ」
「うん、またね」
弟は、何となく恋人の姿がないのを感じ取ったらしい。いない……わけではないのだが、何とも説明し難い状況だったから曖昧に濁してしまった。
弟の背が見えなくなるのを確認すると、俺は扉を閉める。
久し振りに会えた弟は、俺にも恋人にも気づかってくれる良くできた弟だった。
「……」
そんな弟に、嘘をついてはいないが、何も言えなかった。
「……」
……弟になら、恋人様のことを相談していいだろうか。
……でも、普段から忙しい弟に、俺達もよくわかってない今の状況を説明していいのだろうか。
「ダメだよなあ」
恋人様の状況も、何もわかっていない。
弟にも、何も言えない。
「……ダメだなあ」
結局のところ、俺がダメなやつってだけだった。